東京から生まれる、森林資源の好循環

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NurPhoto/Getty Images

 全国各地の木材が使われた選手村ビレッジプラザ、国産木材をふんだんに使用した新国立競技場、日本の「木の文化」を表現した開会式のパフォーマンス......。一年遅れで開催された東京2020大会は、「森の国・ニッポン」を世界に知らしめる機会となった。

全国63の自治体から提供された木材

 新型コロナウイルス感染防止のため、厳戒態勢下で行われた東京2020大会。各国の選手が東京で過ごす期間、その生活を支えていたのが東京都中央区に設けられた交流施設「選手村ビレッジプラザ」だ。

 選手村ビレッジプラザは5棟の木造の施設から成り、カフェや郵便局、クリーニング店、美容室、メディアセンターなど、さまざまな目的で利用されていた。

 この施設に使われていた木材は、全国63の自治体から無償で借り入れがされたもの。そのなかには、東京都の木も含まれていた。実は東京都の面積のおよそ4割が森林で、古くから林業が盛んだったのだ。

 これまでの大会で選手村に使用された建物や仮施設は、大会後に取り壊されることが多かった。しかし、今回のビレッジプラザは木材をパズルのように組み合わせて使用することで、大会後に木材を解体し、各地に戻すことで再利用を促す計画になっていた。なぜなら木は加工された後も長期間にわたり炭素を蓄えることができ、地球温暖化の対策として重要な役割を果たすからだ。

 各自治体への返却は20222月までに随時行われるという。木材には、「多様性と調和」を表現する大会のエンブレムをあしらった焼き印が押されている。各地に戻った木材が東京2020大会を語り継ぐきっかけになるとともに、木材の再利用が活性化されることで、2050年までに世界が目指す「脱炭素社会」の実現にも一役買うことは間違いない。

 「環境」と「持続可能性」が重要なテーマとなった本大会。ビレッジプラザの木材も東京2020大会が残すレガシー(遺産)のひとつになるだろう。

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Clive Rose/Getty Images

日本建築の技術が応用された新国立競技場

 本大会では、ビレッジプラザ以外にも日本の木材や木造建築が活用された。代表的なものはメインスタジアムとなった新国立競技場だ。

 新国立競技場には随所に木材や緑が使用され、自然の恵みを生かした緑豊かな建造物となった。明治神宮外苑の自然とも調和し、「杜のスタジアム」とも呼ばれている。建造には日本建築の特徴である軒庇を使用。日射しを和らげて風の流れを促し、空調設備を必要としないというエコロジーな仕組みになっている。

 また、オリンピックの開会式では、木工作業を模したパフォーマンスが印象的だった。直径4メートルの巨大な木製の輪が五輪のシンボルを作り上げ、オリンピックの幕開けを飾った。

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iStock.com/Ryosei Watanabe/

現代に必要な工夫は古来の伝統のなかに

 古来、日本人にとって山や森は、ただ木材を採るだけの場所ではなく、神の住まう場所でもあった。自然のなかに住み、自然から貰ったものを丁寧に使い切る──。サステナブルという思想は、「森の国」である日本に古くから根付いていたものだ。

 持続可能性やSDGsといった言葉が頻繁に取り上げられるなか、改めて日本の伝統的な知恵や思想のなかには、現代に必要な工夫やアイデアが詰まっていることに気付かされる。

 世界の視線が注がれた東京2020大会。社会・経済、さまざまな技術が急速な進歩を遂げる時代に、ゆったりとした時間のなかで育つ木材のように、地球環境について立ち止まり考えるきっかけを人々に与えてくれたのかもしれない。