グリーンとデジタルで国際金融都市へ 東京が打ち出す新たな一手

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 コロナ後の東京はどこへ向かうのか。国際金融都市への進化によって日本と世界の経済を牽引する構想を打ち出した東京都の未来へ向けた展望の真意を探る。
iStock.com/Torsakarin

新たな東京への再出発

 新型コロナウイルスのパンデミックによって、世界中がかつてない経済的な大打撃を被った。そこからいかにして立ち直り、来たる未来に向けて、どのような社会を築き上げていくのか。いま、世界の都市が抱えている喫緊の課題だ。

 東京都が出した答えは「サステナブル・リカバリー」。コロナ以前の社会にただ戻ることを目指すのではなく、人々の価値観や社会の変化に柔軟に対応しながら、TOKYO2020のレガシーでもある多様性と包摂性にあふれた、強靭で持続可能な社会を実現する──「Re StaRT」を合い言葉に、コロナ禍からの復興を推し進めていく決意を表明した。

 なかでも、経済の立て直しは重要な課題に位置づけられる。そこで期待が寄せられるのが、都が打ち出している「国際金融都市・東京」構想だ。この構想は、金融産業が東京のGDPの約1割を占め、他産業への幅広い波及効果を有することを踏まえ、東京の金融を活性化することを通じて、東京の成長を図る戦略だ。もともとは2017年11月に発表されていたが、欧州・アジアの情勢変化や国際金融をめぐる世界環境の変化を踏まえ、さらにはアフターコロナの世界を見据えて改訂が行われ、2021年11月に「構想2.0」として発表された。

グリーン×デジタルで金融を再活性化

 「『国際金融都市・東京』構想2.0」では、具体的な施策として3つの柱が示されている。特に大きなキーワードとなっているのが「グリーン」と「デジタル」だ。

  • 社会的課題の解決に貢献する分厚い金融市場の構築(Tokyo Green Finance Initiativeの推進)
  • フィンテックの活用等による金融のデジタライゼーション
  • 資産運用業者をはじめとする多様な金融関連プレーヤーの集積
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・グリーンファイナンスの推進

 気候危機への対応は、いま、世界が直面している最も重要な課題のひとつ。各国政府がCO2など温室効果ガスの排出量を大幅に削減する方針を打ち出すなか、東京都では、環境への取り組みをコストではなく成長への投資ととらえ、2030年までの「カーボンハーフ」*1、そして、2050年の「ゼロエミッション東京」*2の実現に向けた行動を、すでに開始している。

 このような脱炭素化の潮流にあって、投資家やマーケットの間でも、企業の環境への取り組みを投資判断の重要な基準とする動きが広まっている。ESG投資をはじめとするこうした流れは企業にも波及し、すでに多くの企業が、環境に配慮した経営方針に舵を切り始めた。

 しかしながら、環境への取り組みには多額の資金が必要だ。そこで東京都では、企業のESGの取り組みに関する情報プラットフォームの整備や、グリーンボンド等の発行体(企業・団体など)に対する外部評価の取得費用の支援を通じて、東京におけるグリーンファイナンス市場の発展を積極的に後押ししていく。

 また、中小企業向けのサステナブルファイナンスの活性化や個人投資家の取り込み、脱炭素に向けた施策・技術の海外への発信や、サステナブルファイナンスを担う高度人材の誘致・育成にも強化。これらの取り組みを通して、世界中の投資家や、企業、金融機関にとって魅力的な分厚い金融市場の構築を目指すとともに、「環境」と「経済」の好循環を図り、東京を世界から選ばれるグリーンシティへと進化させる狙いだ。

・金融のデジタライゼーション

 テクノロジーは目覚ましい進歩を続けており、人々の生活のあらゆる場面でデジタルトランスフォーメーションの波が押し寄せている。それは、金融の世界においても同じだ。金融サービスの利便性の向上や、魅力的な新たなデジタル金融サービスの創造など、金融のデジタライゼーションが急務となっている。

 その一方で、日本において金融のデジタライゼーションは改善の余地が大きいのも事実だ。こうした点を踏まえ、今回の「構想2.0」では、フィンテック企業の誘致・創業から成長までを支援し、資金のつなぎ手のデジタル化およびキャッシュレス化を推進することを掲げた。金融市場のDXを強力に後押しする姿勢だ。

 具体的には、フィンテック企業が東京に進出するための初期費用の支援や、都の出資によるファンドを通じた新たなサービスの創出、都内のキャッシュレス比率の向上に向けた施策の展開といった内容が挙げられている。

 金融のデジタライゼーションの加速によって、金融市場が拡大すれば、東京で金融ビジネスを展開しようとする企業・個人にとって、新たに多くのビジネスチャンスが創出されることになるだろう。

・多様な金融プレーヤーの集積

 金融産業を活性化し、東京を国際金融都市の地位にまで高めるには、高度な知識と技術をもった金融人材・企業が欠かせない。東京都では、国に対して税制や規制の見直しを要望するなど魅力的なビジネス環境・生活環境を整備し、世界中の資産運用業者などの東京への誘致を促進する。

 また、新興の資産運用業者を育成するプログラムを通じて創業や成長を支援するほか、大学と連携した高度人材育成プログラムなどを通じて、幅広い金融系人材の育成を図る。さらには、個人資産の適切な活用ができるように、セミナー等を開催して都民の金融リテラシーの向上を図っていく。

 こうした金融プレーヤーの集積により、投資や資金調達の場としての東京の魅力が一層向上することが期待される。

 以上述べてきた3つの柱を擁する「構想2.0」は、東京の金融市場を活性化させ、東京の成長を図るための力強い推進力となることが期待される。

東京はどのような国際金融都市を目指すのか

 まず、日本は世界第3位のGDPを誇る経済大国であり、国内には2,000兆円に迫る莫大な個人金融資産がある。それは金融業界にとって、大いなるビジネスチャンスが広がっていることを意味する。そんな日本の首都が、東京だ。行政だけでなく、経済・文化などあらゆる側面において日本の中心地となっている。

 それだけではない。日本は、法の支配、自由主義、民主主義といった欧米と共通の土台に立脚した国家であり、その安全性は世界の誰もが認めるところ。安定的な金融取引が可能な点は、東京でビジネスを展開する大きなメリットであると同時に、東京の大きな強みだ。

 いまやアジアは、アメリカ・欧州と並ぶ世界の重要な「極」である中で、東京はこの地域トップの都市としての高い総合力を有している。

 このように東京は、国内外の資金需要に世界中の資金を結びつける、世界をリードする国際金融都市となり得る十分なポテンシャルを有している。こうした利点を活かし、「国際金融都市・東京」を実現しようとするのが「構想2.0」だ。

「国際金融都市・東京」が世界にもたらすもの

 では、「国際金融都市・東京」の実現は世界に何をもたらすのか。

 資金調達や投資をしやすく、かつ安定的な金融取引が可能な「国際金融都市・東京」は、世界中の資金需要者(企業など)、資金供給者(投資家)、そして金融系企業にとって、あらゆるメリットを秘めている。

 コロナ後の新たな投資先として、あるいは、ビジネスで世界に羽ばたく拠点として、これからの東京は新たな進化を遂げることになるだろう。「構想2.0」がもたらす成果に、大きな注目が集まる。

そして、東京はどこへ向かう?

 「構想2.0」がその基軸に据えた「グリーン」と「デジタル」は、コロナ後の世界が直面する重要な課題である。東京都はこうした認識に基づき、「国際金融都市・東京」の実現に向けて、今後さらに積極果敢に取組を進めていくこととしている。

 東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)の会長である中曽宏氏は、次のように述べている。

 「いま私たちが望んでいるのは、単に規模を拡大しただけの金融センターの復活ではありません。むしろ、東京を、18兆ドル近い家計資産の有効活用を通じて、日本の社会的・経済的課題の解決に貢献し、日本経済を持続的な成長軌道に乗せることができる金融センターに再生することを目指しています。(中略)東京は、国内外の投資家と、コロナ後の世界の課題に対応するための産業部門の膨大な資金需要とを結びつける金融センターになりたいのです」(TMCトーク「Revision for the "Global Financial City: Tokyo" Vision」より)

 アジアの金融ハブとして、国内外の資金需要に世界中の資金を結びつける、グローバルなインベストメント・チェーンの確立に貢献し、世界の投資家、資金調達を検討する企業、金融機関にとって大きな魅力を有する都市へと、東京は新たな一歩を踏み出した。


*1:カーボンハーフ......2021年1月27日の「ダボス ・ アジェンダ」(ダボス会議)にて、東京都として2030年までに温室効果ガスを2000年比50%削減、省エネ電力の利用割合を50%まで高めていくことを表明したもの。

*2:ゼロエミッション東京......2050年までに、世界のCO2排出実質ゼロに貢献する都市として東京を定義したもの。実現を目指すため、2019年12月に「ゼロエミッション東京戦略」を策定・公表。温暖化を食い止める緩和策と、温暖化の影響に備える適応策を展開。サプライチェーンを含めた都市活動に起因するあらゆる分野での取り組みを進めていく。

文/網代奈都子