ひふみ投信・藤野英人氏が語る「国際金融都市・東京」への期待とESG投資の展望

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 東京が、世界をリードする国際金融都市へと成長するための鍵は何か? 実現に向けた課題と期待、さらにグリーンファイナンスやESG投資の潮流について、日本株投資を牽引するレオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長・CIOの藤野英人氏が語った。

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金融戦略で生まれ変わる東京に期待

 東京都が世界・アジアの金融ハブに返り咲くことを目指す「国際金融都市・東京」構想*1について、私は東京に拠点を置くファンドの責任者として、もちろん成功してほしいと願っています。そして、それは十分に可能だと考えています。なぜなら、日本には膨大な「眠れる資産」があり、そこには大きな可能性が秘められているからです。

 日本の個人金融資産残高約2,000兆円のうち、約1,000兆円が現預金です。つまり、資産の約50%がゼロ金利で眠っている状態というわけです。この比率は世界中でも突出して高く、資産の運用を促進して活力ある社会をつくることが、東京の魅力にもつながるはずです。

 我が社には、金融の恩恵を受けている人と受けていない人の格差を狭めていく、というミッションがあります。投資の魅力をすみずみまで伝え、格差を減らして日本を豊かにしていきたいのです。そのためにも、東京が国際金融都市に返り咲き、日本の金融価値を高めてくれることに期待しています。

ESG投資という潮流に乗り遅れるな

 「国際金融都市・東京」構想では、「グリーンファイナンス」「金融のデジタライゼーション」「金融関連プレーヤーの集積」を3本柱として掲げていますが、国際金融都市と認められるには、これら3つすべてが重要です。

 まず、ひとつめの「グリーンファイナンス」について考えてみましょう。

 現在、世界中で環境・社会・ガバナンスに配慮した会社に投資する「ESG投資」や、環境分野への取り組みに特化した資金調達のために発行される債券「グリーンボンド」の発行が急速に広がっています。

 これは、ヨーロッパやアメリカを中心に、気候変動に対して真剣に取り組むべきだという気運が高まっているからです。つまり、世界経済の二大中心地が牽引するお金の大きな流れが、ESGSDGs(持続可能な開発目標)というファクターで選別されるようになり、同時に、国や個別企業への投資テーマとしても注視されるようになったのです。

 ところが日本の動きはまだ遅く、いっときの流行だ、と思っている人も一部にはいるようです。しかし、2015年に世界最大の機関投資家である日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、ESGを考慮した投資行動を求める国連の責任投資原則(PRI)に署名したことで、日本国内でも一気に気運が高まりました。

 PRIの署名機関は、今や世界で4,000件を超える勢いを見せています。このように、世界の金融がESG投資、グリーンファイナンスに向いているのです。東京が国際金融都市を標榜している以上、「環境問題解決のための資金調達」は重視すべきテーマです*2

ダイバーシティは成長戦略の核となる

 2つめの「金融のデジタライゼーション」についてですが、確かに日本は遅れていました。だからこそ政府はデジタル庁もつくり、今後、民間と公的機関の金融のデジタライゼーションが推し進められるはずです。

 そして、3つめの「多様な金融関連プレーヤーの集積」にも大きく影響するのが、SDGsの中核でもある「ダイバーシティ」だと私は考えています。特に日本はアジアの東端という位置付けで、アジアの投資家・富裕層を呼び込める地の利があります。

 「国際金融都市・東京」構想が実現すれば、ハイレベルな外国人材・富裕層が日本にやってきますから、彼らを英語でサポートしたり、その子どもたちを多言語で教育したりできる環境があるかどうかも問われます。彼らの資産を東京に置くことになるので、税制の見直しも必要でしょう。さらに、日本は運用会社を設立するハードルが非常に高いので、それをいかに変化させるか、ということも大きな鍵になります。

 このように、東京都がダイバーシティをあらゆる面で推進し、世界の投資家が挑戦しやすい環境を、ひとつではなくすべて整備することが重要です。そういう意味で、ESGSDGs、ダイバーシティ推進は国際金融都市として選ばれる東京になるための成長戦略であり、日本の金融市場にとって非常に大事な課題なのです。

国際金融都市を目指す東京の大変化を目撃せよ

 よく「日本人はリスクのある投資を好まない」と言われますが、そのことを私は疑問に思っています。なぜなら、「まだ認知度が低く、ニッチな業種だが世の中に価値を生み出す企業」への投資をメインとしている我々の「ひふみ投信」が、大きな成長を遂げているからです。「ちょっとワクワクする投資」「少しリスクがあっても今後を明るくしてくれそうな企業への投資」へのニーズは、日本にも確かに存在するのです*3

 私は、これからの日本の起業家に大きな期待を寄せています。それは、米メジャーリーグの歴史を次々と塗り替えた大谷翔平さんや、同じように将棋界を席巻している藤井聡太さんのような、業界を大きく変え、人々の心を動かすような若い起業家・経営者が出つつあると感じているからです。

 さらに、若い人たちがESGSDGsを重視して企業や投資、社会を変えていくと、劇的な変化が日本や東京に起こるに違いありません。

 古く大きなものが崩壊し、新しいものが誕生する瞬間は、自分がそのときにどの場所にいるかによって見え方が大きく変わります。古い価値観の中にいる人は20年後つらいかもしれない。でも、新しい変化の中にいた人にとっては、この上なくワクワクした20年になるでしょう。

 若い世代が切り開く東京の明るい未来に期待を込めて、これからの進化を見届けたいと思っています。

藤野英人(ふじの・ひでと)

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レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長・最高投資責任者(CIO)、ファンドマネージャー。野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)、ジャーディン・フレミング(現:JPモルガン・アセット・マネジメント)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て、2003年レオス・キャピタルワークス創業。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネージャーとして豊富なキャリアを持つ。投資啓発活動にも注力し、JPXアカデミーフェロー、東京理科大学上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師などを務める。一般社団法人投資信託協会理事。『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『おいしいニッポン 投資のプロが読む2040年のビジネス』(日本経済新聞出版)、『藤野さん、「投資」ってなにが面白いんですか?』(CCCメディアハウス)など著書多数。

*1「国際金融都市・東京」構想とは、2017年に東京都が打ち出したもの。2021年11月1日、改訂版となる「構想2.0」を発表

*2:東京都と駐日英国大使館は、12月10日にグリーンファイナンスセミナー(オンライン配信)を共催。都と英国シティ・オブ・ロンドンとの共催合意に基づくもので、今回が4回目。視聴は12月8日までに以下のURLからお申し込みください(参加無料)
https://www.greenfinancesemi.metro.tokyo.lg.jp/form_jp/

*3:東京都では、「Tokyo Sustainable Finance Week(TSFW)」において都民向け金融セミナーを実施するなど、都民の金融リテラシー向上のための取り組みを推進しています

写真/鈴木麻弓 取材・構成/小野寺ふく実