色鮮やかで繊細な紋様を施した江戸切子を、独自の表現で継承する「華硝」。日常に溶け込む"美術工芸品"として、古くから現代まで人々の毎日を豊かにしてきたその魅力とは

出典元:「江戸東京きらりプロジェクト」
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 江戸切子とは、色ガラスを重ねた「色被せガラス」と呼ばれるガラスの器に、江戸文化を象徴する紋様のカットを刻んだ伝統工芸品。まるでシャンデリアのような輝きを放つデザインは、今も変わらず多くの人を魅了している。日本人らしい気質や感性から生まれた江戸切子の過去をたどり、その未来の形に迫る。

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生き生きとした表情で江戸切子の魅力を語る熊倉千砂都氏(左)。

庶民の暮らしとともに、美しい工芸品として成立してきた

 江戸時代後期に加賀屋久兵衛という職人が、金剛砂を用いてガラスに彫刻したことが江戸切子の始まりとされる。その後、西洋のガラス技法が日本に伝わり、最先端のカットガラスの技術を持つ英国人エマヌエル・ホープマンの指導により、近代的な技法が確立されることとなった。当初、ガラス製品は、部族や豪商など富裕層向けの道具や贈り物として扱われていたが、次第に庶民の間にも広まり、江戸の下町には、さまざまなガラス工房が作られるようになった。このような歴史背景から、江戸切子は「庶民が育てた文化」とも呼ばれている。江戸切子には美しく繊細なカットが施されているが、それぞれに意味があり、特別な思いが込められている。例えば「麻の葉」の柄。麻の葉はまっすぐ丈夫に育つことから、"ずっと健康にいられるように"などだ。こうした日本人らしい粋な感性を宿しているから、江戸切子は古くから現代まで、人々に愛され続けてきたのだろう。

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「華硝」の繊細な技術だからこそできる、江戸切子のランプ。

時代と共に変化し、伝統産業の新たなトビラを開く

 江戸切子といえば、真っ先に思い浮かぶのは微細な柄だが、実は工房によって特徴が異なる。「華硝」では、"今できる最高な技術で表現する"ことを掲げ、江戸から受け継いできた紋様から、華硝独自で生み出した柄まで、さまざまな細工の柄を作っている。その魅力とは何か。

 「ガラス製品は世界的に広く分布しているものなので、それはつまり世界中で使われるチャンスがあるものだと思います。江戸切子は、日常にも比較的手軽に取り入れやすく、何気ない生活を彩り豊かにしてくれます。眺めて楽しむこともできるので、まさに日本の工芸品として、世界に誇れるものだと考えています」。

 手仕事で作られたプロダクトの価値とは、目に見える部分にとどまらない魅力があるので、それが日常を特別なものに変えてくれる。なにげない普段の食事や晩酌にこそ、江戸切子のような存在が必要なのだ。

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職人の顔を覗かせる熊倉隆行氏(左)と、展示作品に向けての打ち合わせが進む。

 独自の紋様を手掛けるなど、オリジナリティ溢れる江戸切子が魅力の「華硝」では、新たな試みを考えているという。

 「今までは実用性を重視して製品を作っていましたが、これからは"夢"や形ないものなど、アートを感じられるような製品や作品にも挑戦したいです。伝統工芸江戸切子という枠にとらわれず、この技法を使って表現できることがあれば、何でもチャレンジしたいと思っています。皆さんがワクワクするような表現をしていきたいですね」。

 今回の「江戸東京リシンク」展では、「華硝」が作ったさまざまな魅力を持つ江戸切子が展示される予定だ。枠にはまらず前進し続ける「華硝」が、江戸切子で表現する未来のかたちに期待が高まる。

Photo by Satomi Yamauchi
Top Photo:日本橋に構える店舗には、美しく繊細な紋様が施されたさまざまな江戸切子が並ぶ。
※令和2年度開催の「江戸東京リシンク展」は終了しています。                                     ※本記事は「江戸東京きらりプロジェクト」(2020年2月21日)の提供記事です。