商業施設のフードロス削減へ 新しいフードシェアリングサービスを導入

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大量消費地・東京でのフードロスの取り組み
世界中で1年間に生じるフードロスは、推定約13億トン。日本に目を向けてみると、食品由来の廃棄物は年間2,550万トン、本来なら食べられるが廃棄となるフードロスは612万トンと推計されている(出典:農林水産省及び環境省「食品廃棄物等の利用状況等[平成29年度推計]」)。残念なことに、このフードロスの量は東京都民(約1,400万人)の1年間の食品量に匹敵するといわれている。
そのため東京都では、2050年にフードロスの「実質ゼロ」を目指し、さまざまな取り組みを始めている。2018年度には日本気象協会と共同で、需要予測に関する実証実験を実施。気象やPOSデータ、AI技術を活用した需要予測モデルを構築し、その情報をサプライチェーンで共有することで、作りすぎないようにする取り組みであった。
また、東京都だけでなく企業での取り組みも徐々に活発化。巨大ターミナル東京駅では、少し変わったフードロス対策を行っていた。
新たなフードロス対策「TABETEレスキューデリ」とは
東京の顔ともいえるJR東京駅は、JR東日本最大規模のエキナカ商業施設「グランスタ東京」を有している。2007年の「グランスタ」オープンから徐々に拡大していき、店舗面積は約11,300平方メートルに成長。東京駅の1階、地下1階合わせて150店舗以上の規模になった。
目まぐるしく成長する一方で、フードロス問題も深刻化していった。もともと東京駅では、施設から出てくる廃棄物を100%リサイクルして再生エネルギーに変える「Jバイオフードリサイクル」を採用していた。
加えて、さらなるフードロス削減を目指して、グランスタ東京を運営する株式会社JR東日本クロスステーションは、JR東日本グループ会社のJR東日本スタートアップ株式会社と、フードシェアリングサービス「TABETE(タベテ)」を運営する株式会社コークッキングと共同で、フードロス対策を打ち出すことにした。
その方法とは、店舗での「TABETE」導入と、販売しきれなかった食品を駅施設などの従業員向けに販売する「TABETEレスキューデリ」の2つ。実は、東京駅で働く人は約8,400人にも上り、その中には夜勤業務に携わる人も相当数いる。コロナ前の調査から、夜勤時の食事に困っていることがわかった。それを解消するために、駅施設などの従業員向けフードロス対策として3回の実証実験を行った。

「TABETEレスキューデリ」の実証実験は開催期間も時期もバラバラだったが、計177日間で約4.3トンのフードロス削減に成功。この量は、グランスタから出る1ヶ月分のフードロスの約10%に相当するという。
株式会社JR東日本クロスステーション デベロップメントカンパニー 営業部の安達開人氏は、「導入店舗にとっては廃棄の手間や廃棄処理コストの削減にも繋がり、さらに駅で働く従業員のフードロスへの認識度も上がるといった、満足度の高い成果となりました」と語る。

ロスを出さないサイクルが今後の課題
2021年3月より「TABETEレスキューデリ」の本格運用を開始。この取り組みを通じて、フードロス対策の重要さが目に見える形となったが、「今後はロスを出さないようにマーケティングにも力を入れ、商品の数を適切に作り、売り切る努力も必要なのではないか」と安達氏は指摘する。
事実、メディアではフードロス問題を取り上げることが増え、街中でのフードロスの取り組みも少しずつ広まっている。
しかし、フードロスの取り組みが進歩するだけでは、根本的な解決には至らないだろう。安達氏も、「正直なところ、商品を売り切るのは難しい。来客数・販売数ともに天候や近隣イベントの発生状況、電車の運行状況、長期休暇によって変わるからです。そういった複合的な要素を加味して、販売数などを決める必要が出てくるでしょう」と予測している。
フードロス問題を通して、「作りすぎ」の問題が見えてきた今。大量消費地・東京は、前述したような気象やPOSデータなどで構成される需要予測モデルを利用し、ロスを発生させない仕組みづくりという次のフェーズに入ろうとしているのだろう。