2022年度予算案から見えてくる、サステナブル都市・東京への希望

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 都民の豊かな生活の実現と、世界都市・東京の未来を切り拓くための原資となる都予算。2022年度は施策を大胆にバージョンアップ。感染症や気候変動などへの危機対応の備えの強化、イノベーション創出、共生社会などに注力している。
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過去最大の予算案は社会変革の推進力に

 都民の税金をどのような行政サービスにいくら割くか、収入と支出をまとめた1年間の事業計画のようなものが予算案だ。令和4年度(2022年度)の東京都の予算総額は合計15.4兆円。スウェーデンの国家予算14.3兆円よりも1兆円多いことからも、スケールの大きさを実感できる。

 令和4年度予算のうち、福祉や防災対策などの行政サービスに使うお財布にあたる「一般会計」は、過去最大の総額7兆8,010億円。それにより、568件もの新規事業の構築が可能になる。

東京の力強さをさらに前進させる「7つの柱」

 過去最大規模の予算総額となった令和4年度の東京都予算。これまでの施策を大胆かつスピーディーにバージョンアップした内容となっている。主要な施策は「7つの柱」に整理されている。

【1】感染症と災害に打ち勝つ! 世界一安全・安心な都市へ(予算7,636億円)

 コロナ禍に苦しんだ経験を踏まえ、感染症に強い都市に向けた施策を強化。長期化する新型コロナウイルス感染症との闘いのため、医療機関や保健所の体制確保、集団接種の会場を設置するほか、「東京iCDC専門家ボード」による調査や研究、医療従事者に対する特殊勤務手当の支給など、多岐にわたる取り組みを展開する。

 さらに、年々激甚化する災害の脅威から都民を守るべく、中小の河川や新たな調整池、下水道の整備も進める。テクノロジー発展の恩恵も積極的に取り入れようと、AIなどを活用したインフラ運営の迅速化を図る構えだ。

【2】脱炭素化は必達の使命。自然と調和した持続可能な都市へ(予算1,501億円)

 2050年までにCO2実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現に向けて使われる予算。脱炭素化を加速させ、社会の抜本的な変革を促すための取り組みはもとより、「水と緑にあふれる東京」の実現に向けた施策も実行される。

 注目は、「水素エネルギーの普及拡大」に269億円が割り当てられたこと。新しい支援として、向こう4年間で30カ所の水素ステーションを整備するため、水素販売価格低減への支援や小型水素ステーションの設置促進などが盛り込まれている。これから東京で水素ステーションを見かける機会が多くなりそうだ。

【3】イノベーションを創出。世界から選ばれる金融・経済・文化都市へ(予算8,523億円)

 世界一オープンで強い経済・金融都市の実現に向けた施策の強化と、東京2020オリンピック・パラリンピックの経験を活かしたスポーツや芸術文化による賑わい創出のための施策を展開。経済活動支援の一環として、官民が連携した投資ファンドによる社会的課題解決型企業を育成するための投資推進や、脱炭素化ベンチャー支援なども実施される。

 国際競争力を備えた魅力的な拠点の形成のために、大手町・丸の内・有楽町・築地エリアの整備も進めていく。令和4年度の取り組みとしては、有楽町駅周辺の街づくりとして、旧都庁跡地を活用したMICE機能を強化するなど、各地でさまざまなプロジェクトが発足する予定だ。

【4】不安ではなく幸福な毎日を! 「人」が輝く共生社会へ(予算2,761億円)

 高齢者の元気な暮らしと活躍、障がい者の安全、柔軟な就労など誰もが自らの希望に応じた生き方を選択できる、多様性に富んだ共生社会の実現に向けた取り組みを実施。

 シニアが社会参加しやすい仕組みづくりのためのマッチング事業や、男性の育休取得促進に向けた普及啓発事業、医療的ケア児支援センター事業など、これまでの課題を踏まえながらも一歩先をいく取り組みを展開していく。

【5】希望かつ未来そのもの。子どもの笑顔があふれる都市へ(予算5,487億円)

 2022年度予算案のキーワードの一つが「チルドレンファースト」。子どもが将来に希望を持ち、自ら伸び育ち、笑顔があふれる社会、子どもを産み育てたい人であふれる社会の実現に向けた各種施策を進める。

 新たな取り組みとして、妊娠期から就学前にかけての育児支援をコーディネートする人材を育成し、安心して子育てができる環境を整備する「とうきょう子育て応援パートナー事業」をはじめ、児童相談所の体制強化、子どもを伸ばす教育の推進など、全方位カバーしたきめ細かい支援策を展開する。

【6】最先端技術の実装を! 「スマート東京」「シン・トセイ」の推進(780億円・422億円)

 5GやAIの活用によって、都内のさまざまな地域で豊かで便利な暮らしを実現するための予算。社会にデジタルを実装することで、制度や仕組みの構造改革を推進する。

 都市の3Dデジタルマップ化による「バーチャル東京」の構築、産業・行政・アカデミアの連携などによる5G活用サービスの実装促進、データを用いた健康管理アプリなど新しい取り組みが満載。5G通信エリアの構築が進む西新宿では、自動配送ロボットの活用など民間事業者によるサービス実装への助成も実施する。

【7】地域の持続的発展を目指す! 多摩・島しょの振興(2,382億円)

 東京都は世界に誇る大都市だが、西部には自然の広がる多摩地域があり、また、伊豆諸島や小笠原諸島などの島しょ部もまた、東京を形成する重要な要素。ここでも、時間や空間を超えるデジタルの力を観光、医療、農漁業とあらゆる分野で活用していく姿勢がうかがえる。

 このほか、多摩地域におけるイノベーション創出の中核となる「多摩産業交流センター」の開設、島しょ地域の新たなブランディング戦略となる「サステナブル・アイランド創造事業」など、地域の活力と魅力のさらなる向上と持続的な発展に向けた多彩な取り組みも見逃せない。

 かつてない規模の予算をバネに、さらに魅力ある都市へと変貌を遂げようとしている東京。100年に一度とも言われるパンデミックを乗り越え、希望ある未来に向けた都市づくりに注目したい。

東京都は明るい未来の東京を切り拓くための都政の新たな羅針盤として、2021年3月に「『未来の東京』戦略」を策定したが、今年の2月にこれを「『未来の東京』戦略 version up 2022」として改定。都を取り巻く状況の変化を織り込むとともに、2022~2024年度の3か年の実施計画を盛り込んでいる。

MICE:企業などの会議(Meeting)、報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関や学会の国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を取って、これらビジネスイベントを指す総称。一般の観光とは異なるインバウンド振興策として、積極的な誘致活動が行われている。

文/末吉陽子