東京の森の木から太鼓を作り、未来の森を創る。
「江戸東京きらり」のコンセプトである「old meets new」を独自に体現している宮本卯之助商店。文久元年(1861年)の創業以来、神輿や太鼓、雅楽・能楽器などの製作を手掛け、日本人が大切にしてきた祭りや伝統芸能を支え続けてきた。
「私たちが行うものづくりは、目新しさを追うことではありません。"新しいとは、古くならないこと"という思いで、よき伝統が新しくあり続けるようにしていきたいと思っています」と、社長の宮本芳彦氏は語る。そのためには、「モノだけでなく、コトを作っていくことが大切」だとも。2014年より、和太鼓スクール「HIBIKUS」、アメリカ子会社「kaDON」を開設し、太鼓を気軽に始められる場所や国境の垣根を超えて学べる場所をつくることで、和太鼓の文化を広く発信してきた。
モノとコトを併せた新たなプロジェクト「森をつくる太鼓」も進行中だ。日本人が自然と共生してきた中で生まれた日本の芸能の原点に立ち返り、「東京の環境と調和する楽器をつくりたい」という思いから始まった。檜原村を拠点にサステナブルな林業を営む東京チェンソーズに協力を仰ぎ、杉の間伐材を活かした太鼓をつくることで未来の豊かな森につなげようという試みだ。桶づくりの技法を使い、木の板を筒状にして胴を形づくり、高音の「跳拍子太鼓」と低音の「地拍子太鼓」を製作。「通常は歪みにくい柾目の木材を使うのですが、木を無駄なく使うために板目も使用。反りやすい性質をいかにうまく抑えて筒にするかがチャレンジであり、当社の熟練職人の腕の見せどころでした」
こうして出来上がった太鼓は、21年3月にお披露目公演も無事終えて、現在はプロダクト化に向けて準備が進められている。さらに22年3月の開催を目指して、太鼓が生まれた森でのさまざまなイベントも企画されている。「森で太鼓の演奏を聞いたり、植林体験をしたり、木工ワークショップをしたり。木が生まれ育つ場所から太鼓が使われる場所までをつなぐことで、環境とものづくり両方への関心を深めてもらえたらうれしい。自然の中で豊かな時間を過ごすこうした集まりを、継続的に行っていきたいと思います」