今の時代にぴったり! デジタルで再現した上野恩賜公園を散策しよう

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 実在の場所をデジタル空間に再現する注目の技術、デジタルツインを活用した「デジタル上野の杜」が誕生。コロナ禍でオンライン交流が増加した今、デジタルの上野恩賜公園で生まれる新たなコミュニケーションに期待がふくらむ。
iStock.com/ Thananat

デジタルツインを「楽しむため」に活用するのは世界的にも新たな試み

 令和4年3月22日、デジタルツインを活用して、東京の"文化の杜"である「上野恩賜公園」をまるごとデジタル化した「デジタル上野の杜」がオープン。ポストコロナを見据え、リアルでもオンラインでも交流や学びが可能なプラットフォームの実現を目指している。

 オンラインで「デジタル上野の杜」に入った人々が、アバターの自分を歩かせながら上野公園の花見を楽しんだり、友達や家族と一緒に動物園や美術館を訪れたりするなど、さまざまな楽しみ方・学び方が期待される。

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「デジタル上野の杜」のイメージ。アバターを操作して、園内を自由に散策できる

 「デジタル上野の杜」プロジェクトは東京都が推進する令和3年度「東京都と大学との共同事業」の一つであり、東京藝術大学、東京大学と政策企画局の連携事業だ。東京藝術大学 美術学部 建築科 構造計画研究室 金田充弘教授と非常勤講師 秋田亮平先生が中心になり、金田研究室の院生や学生も参加し製作している。

 また、「デジタル上野の杜」には最近注目を集める「デジタルツイン」が利用されている。これは実際にある場所を3Dスキャナーなどで計測し、その計測データをもとにデジタル空間でリアルな空間を再現する技術だ。すでに世界中で活用され、主に行政の災害対策や製造業の効率化で使われている。

 金田教授は「デジタルツインを人が楽しむために使うというのは、世界でも類を見ない試みだと思います。世界中の人が楽しめるプラットフォームを上野から、東京から発信していきます」と話す。

「デジタル上野の杜」 #1 桜並木フライスルームービー ―日中ver.―

東京・上野から発信! 作品性のある魅力的なデジタル映像を世界へ

 さらに「『東京都と大学との共同事業』だからこそ実現できたプロジェクト」と金田教授は続ける。

 以前より上野の杜をデジタルツイン化したいと考え、まず東京藝術大学をデータ化し始めていたが、共同事業になったことで東京都が管轄する公園、動物園、美術館なども計測でき、データとして保存できるようになった。

 このようにデジタルツインの活用は、上野恩賜公園のその時々のデータを保存するという意味もある。秋田先生は「上野動物園内で運行していた懸垂式モノレールは老朽化により運行が休止され、新たな乗り物の導入が検討されています。『デジタル上野の杜』では、駅舎やレールの計測データを取ったので、デジタル空間で以前と同じようにモノレールに乗って園内を楽しめる、そういう仕掛けもしていきたい」と言う。

 そして、計測データをもとに製作するとはいえ、作り手の個性が表現されており作品性がある。そこに東京藝術大学が携わる意味もあり、東京から世界に今までなかったデジタルツイン作品を発信していく、という意義もある。

 2022年度は人々がアバターで散策することを目指しているが、「デジタル上野の杜」はどんどん進化していくプロジェクトだ。都民はもとより世界中の人がデジタルツインの上野公園を楽しみ、リアルとオンラインで新たなコミュニケーションを楽しむ場になっていくだろう。

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金田充弘教授(右から二人目)、秋田亮平先生(右から三人目)と、「デジタル上野の杜」プロジェクトで動画作成を担当した金田研究室の学生

「デジタル上野の杜」プロジェクト
上野公園エリアを3Dスキャナーで点群データ化し、オンラインで体験可能なバーチャル空間として公開。アバターを通じて散策や利用者同士の会話を楽しめます。
「デジタル上野の杜」公式YouTubeチャンネルではほかの映像も公開。
https://www.youtube.com/channel/UCVxMnt2ac7TW5Ot5Y_xzqBg

「東京都と大学との共同事業」
東京の持続的発展やSDGsの推進に資する大学の共同研究などを東京都政策企画局が支援しています。研究成果を都民に還元。

取材・文/小野寺ふく実 写真提供/東京藝術大学