1日280万人の移動を支える都営地下鉄の知られざる仕事のウラ側

Read in English
 圧倒的な正確性を誇るダイヤで知られる日本の鉄道。特に東京には複数の鉄道会社が複雑に路線を張りめぐらせている。首都の公共交通はどのように支えられているのか、その秘密を探った。
都営地下鉄三田線は、一部区間では地上を走行する。Photo: Daisuke Shibuya / PIXTA

正確なダイヤ運行と高水準な鉄道ネットワーク

 時刻表通りにホームに列車がやってくる。日本の鉄道利用者にとっては当たり前の光景だ。分刻み、時に秒刻みの仕組みはどのように支えられているのだろうか。

 「乗務員の高い技術の賜物ですね」と胸を張って答えてくれたのは東京都交通局電車部運転課課長代理の細貝正明氏。

 「駅での停車時間は時刻表通りの運行に大きく影響します。乗務員には、駅で決められた停止位置に止める技術や、安全を確認した上でドアを開閉するタイミングを見極めるスキルが求められます」

 一部路線では自動運転システムを導入し、車掌のいないワンマン運転が行われている。運転はシステムに任せ、乗務員は要注意箇所や瞬時の判断が必要な部分に集中できる。さまざまな自動化が進んでも、やはり人の技術が欠かせないようだ。

 「鉄道事業者同士で盛んに情報交換を行い、優良事例をお互いに取り入れあうことで交通ネットワーク全体の水準の高さを維持しているのも日本の鉄道の特徴かもしれません」と電車部運転課課長代理の平賀一政氏は続ける。

 東京だけでなく日本全体で統一的な運営をしているからこそ、利用者は鉄道会社が変わっても1枚の交通系ICカードで乗り継げ、遅延の際のスムーズな振替輸送が実現できているのだ。

経験を糧にした災害への体制づくり

 首都圏の鉄道はこれまで幾度も自然災害にさらされてきた。その教訓を生かしてさまざまな災害対策が施されている。

 集中豪雨の際には、駅出入口からの浸水に備えて止水板等の設置や各所の情報伝達、運休や車両避難などの訓練を行い検証と改善が進められている。地下鉄駅には同じ空間に地下街や他の鉄道事業者もあるため、災害時には近隣事業者や地域との連携が欠かせない。日頃から情報を共有し連携強化が図られている。

 高架部の橋脚やホーム中柱等の耐震強化も進められており、現在の駅・トンネル等の施設は阪神・淡路大震災クラスの地震にも耐えられる構造となっているという。また、都営地下鉄の早期地震警報システムは地震速報をキャッチしたら、即座に全列車を停止させ、まずは安全確認を行う、いわば新幹線と同じ安全システム。有事の際には、このシステムが迅速な対応と二次災害の軽減につながっている。

 東日本大震災の発生時、首都圏では鉄道の復旧まで時間がかかり、多くの帰宅困難者が駅構内で不安な夜を明かした。その経験を生かし、現在は全駅に災害用備蓄品を用意。帰宅困難者のために、飲料水、簡易マット、簡易ライト、防寒用ブランケット、携帯トイレなどが備えられている。

20220415170319-7623abc860d0ea1be2a48a99d8d52e9ca70d1b8d.JPG
駅出入口などの開口部に止水板を設置し、地上からの浸水を防ぐ。
20220415170424-d4f12a79e945c1a365a1caba120da4b94b50ffcd.jpg
防水扉も、ゲリラ豪雨や台風など水害リスクが高まる近年、欠かせない浸水対策のひとつ。

一度は経験あり? 忘れ物が戻ってくる仕組み

 雨の日の傘、棚に置いた荷物、スマートフォン......うっかり車内に忘れてしまった経験はないだろうか。都営交通では年間約15万5千件、1日平均423件(令和2年度)もの、忘れ物が発生しているため管理だけでも苦労がしのばれる。年間を通しては傘の忘れ物が多く、近年はワイヤレスイヤホンも増えているという。

 「お客様の大切な物なので忘れ物の情報は各駅で入力して、お客様センターのデータベースで一元管理しています」。持ち主にお返しできるように細かな特徴も入力していると総務部お客様サービス課課長代理の山本裕之氏は話す。

 同じ製品でもシールや刺繍などで自分だけの目印をつけておくと発見率が格段にアップするそうなので、普段から心がけたいポイントだ。

20220415170530-67fbbbb663a9c54dd9beeb9cbf03a2842ba9f66c.jpg
各駅から集められた忘れ物は、複数人でチェックして仕分けられる。

 最新のテクノロジーと乗務員の確かな技術、複数の事業者間の円滑なコミュニケーションによって支えられている東京の交通ネットワーク。安心して利用できる公共交通の「あたりまえ」は、ふだん人目に触れることのない鉄道会社のウラ側の努力により今日も維持されているのだ。


※所属・職務等は2022年3月当時のものです。

取材・文/小瀧恵理  写真提供/東京都交通局