乙武洋匡/作家・タレント インタビュー
歴史的美観と、バリアフリーの共存へ。
学生時代の経験を伝え、校舎の建て替えに貢献。
個人的な思い入れが強いのは、「早稲田大学早稲田キャンパス3号館」。乙武さんが政治経済学部の学生だった頃に通っていた校舎だ。当時、1933年築の校舎はバリアフリー化されておらず、エントランス部分の5段のステップが難所だった。
「電動車椅子では建物内に入れず、下りて階段を自力で上らなくてはいけなかった。雨の日は最悪で、ズボンをびちゃびちゃにしながら4階まで上っていましたね。車椅子は雨ざらしです」
5年前に建て替えることになり、低層棟は旧校舎の外観を再現し、その後ろに高層棟を付けて先進的な機能と空間を実現した。出入り口の段差も解消。乙武さんは設計段階で、当時の学部長に呼ばれたという。「図面を見てほしいということでした。建築的、歴史的視点に加え、障害者の視点で建物を検討することができ嬉しかった」
2017年には1年間かけて海外37カ国を放浪した乙武さん。ヨーロッパでは、バリアフリー化された歴史的建造物を多く見学したという。スペインではガウディの名建築、サグラダファミリアにエレベーターで昇った。
「日本でも隈研吾さんによる『歌舞伎座』の建て替えは、慣れ親しんだ歌舞伎座のイメージを保持しつつ、車椅子ユーザーへの配慮が行き届いていると感じました。車椅子席は一階にあってアクセスしやすい。健常者がユニバーサルトイレを長時間利用する例が問題になっていますが、ここでは一般用とは離れた位置にあり、ほぼ常に使える状態。歴史的建造物の雰囲気を残しつつアップデートした、いい例ではないでしょうか」
ただし、同じ車椅子ユーザーでも電動か手動かで使いやすさはまったく異なる。たとえば、「表参道ヒルズ」のスロープは電動車椅子ユーザーにとっては、エレベーターに乗らなくてもくまなく回遊できるので快適だが、手動で車椅子を動かす人には不評だという。
「ある最新施設で驚いたのは、ゆるやかな階段状のアプローチが連続していて、係員を呼ばなければ昇降機が使えないこと。健常者は5秒で上がれるところが5分はかかってしまう。障害者は介助者とセットで動くことが多いので、相手に気を遣わせずに一緒に移動できるよう、階段脇にスロープを設けるのがベストだと思います」
1974年、国連の報告書に「バリアフリー・デザイン」の語が登場。それから東京はどう変わったか。乙武さんの指摘は有益であるし、こまやかに考える意識はもっと必要だ。
乙武洋匡(Hirotada Ototake)
※本記事は「Pen」(2019年11月1日号)の提供記事です。