CLOUDY・銅冶勇人 インタビュー:ソーシャルのその次へ
「かわいい」「欲しい」が誰かの人生を変える。

出典元:Pen online
 SDGs、フェアトレード、サステナビリティ......。ソーシャル・ビジネスの世界には、そんな大義名分が溢れている。そんな中異彩を放つのが、アパレルブランド「CLOUDY」。同ブランドはアフリカで教育、雇用、食など多岐に渡る支援を行うが、店舗やブランドサイトには「いかにもソーシャル」なキーワードやビジュアルは皆無だ。

社会問題に取り組みたいと考える人が多くいる一方で、実は"ソーシャル"を大々的に謳う店舗やイベントに足を運ぶのは抵抗があるという声も少なくはないという。その理由は「足を運んだら何かしなきゃいけない気がするから」「いい人を装いたくない」など様々。代表の銅冶勇人はこのことを知っている。そして、戦略的にブランディングを行っている。

 日本にソーシャルビジネスの新しい風を吹かせている銅冶に、原風景や哲学を聞いた。

「格差がある」と感じたことが恥ずかしい

 ――銅冶さんは大学の卒業旅行で初めてアフリカを訪れ、そのときの体験が起業のきっかけになったそうですね。

 ケニアのマサイ族の家にホームステイし、その後、アフリカで2番目に大きいといわれるスラムに行きました。そのとき五感で感じたインパクトは、いまでも忘れられません。1日1食にもありつけない人がいる、物乞いをする子どもがあふれている、200世帯にひとつしかトイレがない、といった現実を初めて目の当たりにしたんですね。その旅行から帰ってすぐ始めたのが、スラム街の駆け込み寺である施設への送金。社会人3年目にNPO法人「Doooooooo」を作り、組織として公式にサポートするようになりました。こう話すとポジティブに聞こえますが、自分としては、初めてスラムに行ったとき「格差がある」と感じたことをとても恥じていて......。僕たちの「当たり前」をものさしにして、その枠にはまっていない彼らの生活を「格差」というひと言で表すのは不遜だったな、といまは思います。

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 ――2015年には株式会社DOYAを創立し、アパレルブランド「CLOUDY」をスタートしました。

 日本のNPOは助成金で成り立っている団体が多く、大義名分があれば継続していくことができます。そのようなスキームがなぜ成り立つのかということに疑問を持っていました。加えて、お金や物をただ現地に提供し続けるやり方にも違和感を覚えていました。例えば、学校を建てても現地に運営スキームがなければ継続できません。慣習的に「善し」とされていても、実は現地のためになっていないことがたくさんあるのではないかと感じていたんですね。何をすれば現地の糧になるだろう? 継続して雇用を生み出していくためには? そう考えて選んだのが、生活に根付いた「縫製」と「民族柄」を組み合わせたアパレルブランドをつくることでした。

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プロダクトのラベルには、その買い物がどのような支援につながるかがキャッチーに記載されている。

まずは「CLOUDY」というブランドを好きになってもらうことから

 ――ブランドの成長の秘密や、その結果、様々なアクションが生まれている理由を教えてください。

 よく「フェアトレードですか?」「SDGsだと何番ですか?」と聞かれますが、僕たちが目指しているのは、確実に数字を作り、世界で戦えるアパレルブランドとして成長すること。その上で売上の10%をNPOに還元し、その資金を「教育」「雇用」「健康」という3つの分野に配分して、学校建設や雇用支援、性教育などのサポート費に充てています。現在、渋谷のRAYARD MIYASHITA PARKに店舗を構えていますが、アフリカの写真は一切飾らず、NPOを通じたアクションについても掲げていません。なぜなら、「CLOUDY」というブランドを好きになってもらい、気に入ってもらうことがビジネス継続のカギだと思っているからです。気に入ったアイテムを買うことで、途上国のサポートもできる。ソーシャルビジネスではよく"自分ごと化"が大事と言われますが、動機は「かわいい」「欲しい」という気持ちでいいんですよ。そういうふうに、1つの購買がソーシャルインパクトにつながるというのが、CLOUDYが表現していることです。

 ――CLOUDYの印象的なアフリカンファブリックは、ハイブランドやモード系ブランドと合わせてもサマになりますよね。

 2015年にブランドをスタートした後、初めてポップアップを行った場所が、新宿伊勢丹のモードのフロアでした。そこを起点にしたことで、ファッションが好きな人たちにも支持していただけると確信でき、ブランドの価値が高まった気がしています。ガーナの伝統的な柄や模様を現代的にアレンジしたオリジナルのテキスタイルを持っていることは、僕たちの資産。現在、5人のデザイナーを現地で育成していて、毎月新しいテキスタイルを50柄ずつ増やしています。いずれライセンスビジネスとして展開できれば、デザイナーたちが世界に羽ばたくことも夢ではありません。そのようなライフモデルが存在する、ということを、ガーナの若者世代に実感してもらうことが大事だと思っていますね。

キズや穴も捉え方によって価値に変わる

 ――若者世代と一緒に進めているプロジェクトもあるとか。

 大学生を中心とした25人ほどのインターンと一緒に、「I'm NOT perfect」というイベントを開催しました。キズ・穴・ほつれ・二重縫いなど、不完全な商品の価値をお客様に決めていただき、全額をNPOに寄付するのがI'm NOT perfectの仕組み。人の手で作る以上、どうしても販売できないB品が出てきます。それらを捨ててしまうのではなく、「キズってメダルみたいだよね」「穴=光が通る道って考えたらすごく素敵じゃない?」など、捉え方を変えれば不完全なものも個性的で輝いて見える。「価値」になるんです。モノの裏には必ず人の存在があって、ちょっぴり笑ってしまうような失敗談もある。インターンがガーナの生産者から取材したストーリーを店頭で語り、価値を知ってもらう特別なプログラム「Learn & Shop」など、お客様が気軽に参加できる取り組みも行っています。

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 ――I'm NOT perfectという名前も、キャッチーでいい言葉ですね。

 この言葉が浸透して、たくさんの人にI'm NOT perfectをコピーしてもらい、「I'm NOT perfectでいいんだよ」みたいな合い言葉が生まれるといいなと思っています。例えば子どもの発表会で、失敗したり途中までしかできなかったりしても、その行動にはすごく価値がある。そういうことを表現できたらいいですね。

人生のシフトチェンジをサポートする

 ――支援の形として、今後どのようなアクションを考えていますか?

 大きく3つあり、1つは学校建設です。今年はクリエイターの専門学校を建設する予定で、デザイン、写真、映像、音楽、料理などの分野で世界に羽ばたいていける人材がアフリカにもいることをアピールできる場にしていきたいと思っています。

 2つ目は、ゴミ問題への取り組みです。ガーナはアフリカで一番汚いと言われているほど、ゴミ問題が深刻。その原因のひとつが、水の入ったビニール袋です。ガーナではビニール袋に入った安い水が販売されていて、皆、飲み終わるとそれを道端や河原にポンポン捨てるんですね。これらを回収して、洗って干してシート状にし、この秋からショップバッグとして使う予定です。最終目標は、様々なショップがこれを真似してくれること。現地にリサイクル工場を作れば、これを集める人、干す人、作る人というふうに雇用が生まれますし、街もきれいになります。

 3つ目は、学校の近くに大きい農地を作ること。給食の材料を自給自足することからスタートし、ゆくゆくは、缶詰の工場をその場所に作りたいと考えています。ガーナの人たちは、トマトソースを使った料理をこよなく愛しているので、トマトを栽培してトマト缶を作り、国内中に販売していく。「あそこのトマト缶、めちゃくちゃ旨いな」と認識されれば、国外にも販売できます。そうやって、農業から産業を生み、しっかりビジネス化していくことを目指していきたいですね。この取り組みに対して、宮崎県宮崎市の農家の皆さんが手を挙げてくださって、昨年末からプロジェクトが走り出しています。何より、宮崎の人たちのパッションが最高にいいんですよ。「俺らも久々にやりたいことができて興奮してきたな」って活気づいてくれていて。僕としても、すごく楽しみなプロジェクトですね。一人でも多くの方にこのプロジェクトにご参加いただきたいという想いから、先日クラウドファンディングも開始しました。

 ――将来につながる様々なプロジェクトが進行中なんですね。銅冶さんが初めてアフリカを訪れてから、現地の環境はどのように変わったと思いますか?

 以前は、学校を卒業した女の子たちが仕事に就けず、娼婦になってしまうケースが非常に多かったんです。また、障がいを持っていると家から一歩も出してもらえず、何の仕事にも就けないという状況が当たり前でした。いま、彼女たちの人生はどんどんいい方向に変わってきています。自分がシフトチェンジできたからこそ「私と同じ境遇の人たちにもっといい生活をさせてあげたいから、CLOUDYで働かせてもいいか」という依頼が絶えません。彼女たちが人生を向上させていく姿を見るのは、僕たちの喜びのひとつ。現地に行くたびにスタッフが増えていて、それはとても嬉しいことですが、それだけ売上を伸ばさなければいけないので「もっと頑張らなきゃな」と背筋が伸びますね。

銅冶勇人(どうや・ゆうと)

1985年、東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部を卒業し、2008年ゴールドマン・サックス証券に入社。10年にNPO法人「Doooooooo(ドゥ)」設立。14年にゴールドマン・サックスを退社、15年に株式会社「DOYA」を設立し、同年9月にアパレルブランド「CLOUDY」を立ち上げた。
文/東谷好依 編集/水口万里 写真/岡村大輔