漫画家むらかみが気付いた、アセクシャルが語り合える場の大切さについて

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 約1年前にアセクシャルを自認した漫画家のむらかみ氏。2022年3~5月の期間限定で、アセクシャルの交流の場「ARU アセクシャルスペース」を運営していた。性的マイノリティゆえの経験や、自認してからの気持ちの変化などを語ってくれた。
東京都在住の漫画家・むらかみ氏。アセクシャルを自認する前は、誰かと話がしたい時はレズビアンバーへ行っていたそう。

気持ちが伝わらないことの葛藤

 私は約1年前にアセクシャルであり、クワロマンティックであると自認しました。アセクシャルとは、他者に性的欲求が向かないセクシャリティのことで、クワロマンティックとは恋愛感情と友情の違いが分からない恋愛的指向のこと。LGBTQ+の「+」に含まれる性的マイノリティです。

 自認する前は、恋愛は誰しもがするもので、「する」か「しない」かであれば「する」方が良いと思っていました。過去には恋人がいたこともあります。しかし、自分の気持ちが思うように相手に伝わらないことですれ違うことが多く、それが要因で別れることもありました。

 私にとって「とても好き」という意味で「(長年一緒に過ごしてきた)家族や幼なじみと同じくらい好き」と伝えますが、「一番ではない」「自分と同じ好きではない」と言われたり、「性的行為をしたくない」と伝えると「やはり好きではないんだ」と返されたりすることがあり、「なぜ伝わらないのだろう」と疑問に思っていました。

 自認してからはアセクシャルの交流会やイベントに数度参加しました。ファシリテーターがいて、順番に参加者が話すという形式が多く、「より気軽に立ち寄れる場所があればいいのに」と感じました。しかし、探してみると、そういった場が全くないことに気づき、ないなら自分でつくろうと思い、「ARU アセクシャルスペース」をオープンすることにしました。

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アセクシャルを自認したことで、「自分の好きな道を歩いていいんだ」「これからすごく楽しいことが待っている」という気持ちになれたという。

マイノリティがマジョリティとなる空間

 2022年35月の毎週金曜日に、東京・中目黒のレンタルスペースで「ARU」の営業をしていました。チケット制で、告知はTwitterだけでしたが、口コミでアセクシャルが集まる場所があると広まったようで、途中の回からチケットは発売の数分後に完売になりました。

 お客さんは1050代と幅広く、都民だけでなく、愛知県や関西、九州からわざわざ来てくれた方もいて驚きました。3カ月で125名が訪れ、普段マイノリティな自分のセクシャリティが、「ARU」の中ではマジョリティなんだという不思議な感覚で、気の置けない会話を楽しみました。私のように、自認して気持ちが楽になった人だけでなく、自認したことで「結婚や出産へのハードルが高く感じるようになった」という人もいて、人によってさまざまな思いがあることも知りました。

 欧米ではアセクシャルはLGBTと同じくらい、認知された概念だと聞いています。日本でも性的マイノリティが少しずつ認知され、東京をはじめ全国各地にアセクシャルのコミュニティスペースができることを願っています。性的マイノリティが気軽に語り合える場所ができても、悪い意味で社会が大きく変わったり、大多数の人に影響が生じたりすることはないと思います。そういった場所があることで気持ちが軽くなったり、生きやすくなったりする人たちがいるということを知ってもらえるとうれしいです。

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「ARU」は仕事帰りにカフェバーに行くような感覚で、少しおしゃれをしてワクワクしながら向かう場所というコンセプトだった。写真提供:むらかみ氏

むらかみ

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漫画家。東京都在住。中学時代から漫画雑誌へ作品を投稿。大学卒業後、イベント会社勤務などを経て漫画家を本業とする。約2年前にネットで「アセクシャル」という言葉と概念を知り、婚活経験後、アセクシャルと自認する。
取材・構成/小野寺ふく実
写真/殿村誠士