「お直し」の思いをつなぎ、技術をつなぎ、社会をつなぐ。
お直し技術を用いた「衣」のサステナブルの実現
大山さんの目指すものを聞いた。「私が実現したいのは『思いをつなぎ、技術をつなぎ、社会をつなぐ』ことです。まず『思いをつなぐ』についてですが、お客様の衣服に込められた思いを形に残し、繋いでいくのが『お直し』の仕事です。体型や流行りに合わせるのではなく、その服にまつわる思い入れまで衣服の一部ととらえる。そして、デザインや機能性だけでは語れない、1つの衣の存在意義を次世代へ繋げていきたい。
次に『技術をつなぐ』。日本の縫製業界は技術者の方の高齢化や後継者不足により、技術の継承が難しくなっています。織物、染め、仕立て、お直し、さらには日々の営みのなかで脈々と受け継がれてきた技術は日本の伝統文化です。これらを習得することが日本のアイデンティティと考え、新しい技術者への教育を行なっていきます。
最後に『社会をつなぐ』。日本の暮らしで育まれた"お直しの心"と"技術"。これを、次の世代へ繋ぎ、伝統技術を通して、世界の環境問題や貧困問題の解決へ繋げていきます」
日本の伝統技術を海外へ伝え、貧困問題解決の糸口に。
この目的を実現するために、大山さんの事業は「店舗のDX化」「教育」「社会貢献」「海外支援」という4つの柱を掲げる。例えば、「教育」の事業は、Sewing Society Togetherというコンセプトにダイレクトにつながっている。
「お直しの項目ごとに動画を作成するなど、伝統的な専門技術をデジタル化し、eラーニングで学べる教育システムを構築しています。また、これらを活用して障がい者など社会的マイノリティへのリカレント教育を行い、技術取得による収入機会や就労機会の創出へと繋げます。2022年4月には、同業者数社とともにお直しの組合である"Japan Onaoshi Alliance"を東京都中央区銀座に創設しました。それぞれが学んだ技術を円滑に守り、協力していくための組合で、具体的にはお直しを広めるための活動、資材や機材の共同購入、技術習得によるお直しのレベル向上などを考えています」
「社会貢献」の事業では、高齢過疎化が進む地域や障がいを持つ人に向けた「訪問お直しサービス」を展開。技術者を派遣して服の脱衣困難などに対する解決方法を提案し、インクルーシブファッションを実現する。また、衣類製造によって生じる残布や着物の切れ端などを、製品に作り直すアップサイクリング、介護福祉施設での物作りワークショップに活用する取り組みなども行なっている。
さらに「海外支援」事業では、貧困問題を抱える地域で教育福祉支援を行う国際NGOと連携。教育事業で培ったeラーニングの教育システムをベースに多言語化やVRを活用した育成プログラムに発展させ、熟練した縫製技術者が現地の人たちへ指導・アドバイスを行う。これにより、技術者の育成を目指すとともに、現地での新たな事業と雇用を創出し、貧困率の改善を目指している。
「自分たちがいまいる環境は当たり前ではありません。だからこそ、将来の子どもたちに持続可能な社会や未来を残していきたい。そのために、縫製の技術を通して、世の中の一人ひとりが『自分にとってなにが大切か』ということに気付き、それを大切にして生きる人を増やしていきたいです。お直しは、SDGsという言葉が生まれる前から、日本の暮らしに根付いていました。その心と技術を持って、"衣と人"を次の世代へと繋げていきます」
大山愛美(おおやま・あいみ)
※本記事は「madame FIGARO.jp」(2022年5月27日)の提供記事です。