生理についての正しい知識を、女子学生アスリートのために

 スポーツを愛し、スポーツに打ち込み、スポーツと生きるすべての学生を支援する、一般社団法人スポーツを止めるな。コロナ禍で活躍の場を奪われた学生をはじめ、大きな目標を抱きながらも、思うようにチャレンジができない学生アスリートをサポートしてきた。

 同社団は2021年、女子学生アスリート向けの生理×スポーツの教育/情報発信プロジェクト「1252プロジェクト」を始動。元競泳日本代表の伊藤華英さんが中心となり、生理×スポーツという、女性アスリート特有の課題に向き合っている。

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伊藤華英さん。Photo:1252project

 「私にとって、オリンピックは競技人生最大の舞台でした。しかし、(競技日程と)月経期間が重なり、月経をずらす低用量ピルを服用して臨んで、体重が3〜4kg増えてしまった。当時の私は月経に関しての知識が乏しく、結果としてコンディションを崩してしまいました。こうした私たちの経験と、スポーツと月経に関する科学的な知見をふまえながら、正しい情報を発信していくのが"1252プロジェクト"の目的です」と伊藤さん。

 月経周期によるコンディション不良は、多くの女性アスリートの課題だ。日本スポーツ医学会がトップアスリート630名に行った意識調査では、91%が「月経周期とコンディションが関連している」と感じている。

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多くのアスリートは、自分のパフォーマンスに月経が影響していると感じているという。(1252プロジェクトの発表資料より)

 「私たちが運動部に所属する女子学生に対して行った調査でも、67.5%が月経周期における身体のコンディションはパフォーマンスに『関連がある』と回答しています。また、学年が上がるにつれて関連性が高くなっていく傾向があります。しかし、多くの人が影響を感じていながら、63.4%の人は『特別な対策は何もしていない』と回答しているんです。これは、(月経周期と身体についての)知識が足りていないことも一因ではないかと推測しています」(伊藤さん)

女性の悩みや課題を可視化する、双方向型のプラットフォームへ

 現在、1252プロジェクトでは、学校や部活、スポーツチームに向けた授業やセミナー、運動部所属女子学生の実態調査など、さまざまな取り組みを行なっている。なかでも伊藤さんが重要だと考えているのは、学生とのコミュニケーションだ。

 クリエイティブディレクターの佐々木亜悠さんは語る。「学校や部活動を訪問し、学生さんの生の声を聞くことを大事にしています。コロナ禍で対面が難しい時期にはオンラインの講義も行いました。月経の話って、どこか『話していいのかな?』と考える学生も多いように感じますが、そこは私たち第三者がうまく介入していくことで、明るく話せる雰囲気をつくっていくことが大事だと考えています」

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学校に訪問し、出張授業を行う1252projectのメンバー。Photo: 1252project

 他にも、YouTubeでさまざまなトップアスリートの経験談を配信したり、専門医(東京大学医学部附属病院・産科女性診療科・女性アスリート外来)プロデュースによる教材「1252プレイブック」を作成し、SNSを使って発信したりと幅広い活動を行なっている。

 また、今後はオンラインのプラットフォームを開発し、さらに多くのコンテンツやソリューションを提供していく。例えば、身体に不調を感じたとき、悩みがあるときに専門家と直接つながれる仕組み作り。女子学生にとって婦人科に通うのはハードルが高いため、自身の悩みにいつでも答えてくれる場所があるのは心強いだろう。また、競技データと身体のコンディションのログを取って有効活用することや、学びのコンテンツをさらに増やし、プラットフォーム上に集約していくことも考えているという。

 「(月経周期のコンディション変化については)SNSを中心に、多くの学生が悩みの声を上げています。今後は私たちのサービス自体が、そうした悩みや課題を洗い出せるような、双方向型のプラットフォームになっていけたらと思っています。また、将来的にはこの知見をアスリートだけでなく、スポーツを楽しむすべての女性に活用してもらいたいと考えています」(佐々木さん)

一般社団法人スポーツを止めるな 1252プロジェクト

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1年間(52週)のうち約12週は訪れる月経やそれに伴う体調の変化などで、多くの女子学生アスリートが抱える「生理×スポーツ」の課題に対し、トップアスリートの経験や医療・教育分野の専門的知見をもって向き合う教育/情報発信プロジェクト。https://spo-tome.com/1252-top
取材・文/榎並紀行(やじろべえ)
※本記事は「madame FIGARO.jp」(2022年5月23日)の提供記事です。