三鷹の森ジブリ美術館で人気作品の世界に浸る

Read in English
 唯一無二の魅力で、日本のみならず世界中の人々を魅了しつづけているスタジオジブリ作品。その世界観を堪能できる「三鷹の森ジブリ美術館」には、開館から20年以上経った今も国内外から多くのファンが訪れている。
三鷹の森ジブリ美術館の門を抜けた先、ニセモノの受付で大トトロが出迎えてくれる。丸い潜水窓にはマックロクロスケ(ススワタリ)の姿も。

世界中で愛されているスタジオジブリ作品

 2021年9月、ロサンゼルスにアメリカ最大規模の映画博物館「アカデミー映画博物館」がオープン。その開館記念として20226月まで行われていたのが、企画展「宮崎駿展」だ。期間中、多くのジブリファンが足を運んだ。また、イギリスの名門演劇カンパニー、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによって、『となりのトトロ』(1988)が初めて舞台化。202210月から20231月までロンドンのバービカン・センターで上演される。

 さらに、動画配信サービス「Netflix」や「HBO Max」で、2020年からスタジオジブリの長編アニメーション映画が日本と中国を除く世界各国で配信されており、ますます海外ファンが増えることが予想される。

 一方、国内でも2022年11月1日、愛知県長久手市の「愛・地球博記念公園(モリコロパーク)」内に、スタジオジブリの世界観を表現した公園施設「ジブリパーク」が第1期開園予定で、スタジオジブリ作品に対する関心が高まっている。そんなスタジオジブリのもう一つの人気施設が、東京都三鷹市にある「三鷹の森ジブリ美術館」だ。オープン以来、大人から子どもまで多くの人々に愛されつづけている。

都立井の頭恩賜公園の自然に溶け込む設計

 都立井の頭恩賜公園西園内にある三鷹の森ジブリ美術館は、『千と千尋の神隠し』(2001)の公開年と同じ、2001年に開館したミュージアム。発案は、スタジオジブリの創設者である映画監督の宮崎駿氏だ。

 同館の建設にあたって、スタジオジブリは作品のイメージにあった自然あふれる場所を探していた。一方、三鷹市は東京都の合意のもと、都立井の頭恩賜公園に文化施設の建設を予定していた。双方の構想が一致し、園内に美術館が建てられることになった。

J-165_2.jpg
都立井の頭恩賜公園の自然に溶け込むように立つ。宮崎駿監督自らが設計し、約3年をかけて完成。© Museo d'Arte Ghibli
J-165_3_Z6D_0017.jpg
入り口で、事前購入したチケットをジブリ作品の35ミリフィルムが付いた入場券に交換。入場券は映像展示室「土星座」の鑑賞券にもなっている。

自分が物語の主人公になれる空間

 館内は、「訪れた人が主人公の一つの物語」であるかのようにつくられている。自由に動き回って感性を磨いてほしいという思いから、詳細なマップや決まった観覧ルートはない。エントランスを通って、まず『千と千尋の神隠し』の「油屋」を彷彿とさせる中央ホールへ向かう。そこから先は好奇心の赴くままに、自分で見学したい場所や楽しみ方を探していく。

J-165_4.jpg
エントランスの天井には大きなフレスコ画が。『魔女の宅急便』(1989)のキキや、『風の谷のナウシカ』(1984)のナウシカの姿も見られる。© Museo d'Arte Ghibli
J-165_5_Z6D_9923.jpg
地下1階の中央ホール。螺旋階段、空中廊下、突き出たテラスなどがあり、迷路のような空間だ。
J-165_6_Z6D_9932.jpg
館内の至るところにステンドグラスが飾られている。こちらの扉のステンドグラスには、『魔女の宅急便』のキキらが描かれている。
J-165_7.jpg
映像展示室「土星座」は定員80人ほどの小さな映画館で、スタジオジブリの短編アニメーションを月替わりで上映。© Museo d'Arte Ghibli

アニメーションのつくり方を学ぶ

 1階の常設展示室『映画の生まれる場所(ところ)』は、5つの小部屋で構成されている。部屋を順に回ることでアニメーション映画の制作の流れやアニメーションづくりの面白さ、苦労を知ることができる。キャラクターのスケッチをはじめ、飛行機やバイオリンなどの作品を連想させる展示物が多く、目で見て楽しめるようなつくりになっている。

J-165_8_Z6D_9954.jpg
アニメ好きの少年が祖父から譲り受けた部屋という設定の「少年の部屋」。好きなものに囲まれながら、アイデアをふくらませ、映画のイメージを少しずつ形にしていく様子を表現している。
J-165_9_Z6D_9951.jpg
「少年の部屋」の向かいの壁には、実際に宮崎駿監督が描いたイメージボードやスケッチなどが貼られている。
J-165_10_Z6D_9955.jpg
「少女の部屋」、別名「世界をつくる所」。スタジオジブリ作品の背景画が飾られている。宮崎駿監督の「映画の品は美術で決まります」というキャプション通り、背景画は作品の世界観を方向付ける大事な役割を担っている。
J-165_11_Z6D_9960.jpg
アニメーションの設計図となる「絵コンテ」を制作する「もの語る所」。ジブリアニメの絵コンテを見られるブースが隣接する。
J-165_12_Z6D_9972.jpg
「作画室」で描かれた画に色を付ける「トレース&彩色」コーナー。現在は、パソコンに取り込んで彩色を行うが、かつてはセルロイドという透明なシートにトレースして、シートの裏側に指示された色を塗っていた。
J-165_13_Z6D_9982.jpg
背景画の上に彩色したセル画を重ねて、撮影台に乗せて撮影していく。撮影したフィルムは編集機で確認しながら、いらないシーンはカットする。

映画に登場するネコバスやロボット兵にも会える

 館内で特に賑わっている場所は、『天空の城ラピュタ』(1986)に登場するロボット兵がたたずむ屋上庭園と、『となりのトトロ』のネコバスと遊べる部屋だ。屋上は撮影可能なので、来館の記念にロボット兵と撮影する人が多い。外国人観光客にも人気のスポットだ。奥に進むと、『ラピュタ』のムスカが飛行石をかざして操作していた石碑もある。

J-165_14_Z6D_9992.jpg
『天空の城ラピュタ』の空中庭園をイメージした屋上。草むらの中には、ロボット兵の胸に付いていたラピュタ王家の紋章が落ちている。
J-165_15.jpg
子どもたちに大人気のネコバスルーム。入館後、真っ先にここを目指す子どもも多いという。利用は小学校6年生以下の子どものみ。© Museo d'Arte Ghibli

 映像展示室「土星座」で楽しめる短編映画は月替わり、展示されている絵コンテやスケッチ、企画展示室なども定期的に替わるため、何度訪れても見どころは尽きない。現在、海外でのチケット販売は休止中だが、海外ファンの熱が冷めることはない。2021715日から2022131日まで、三鷹の森ジブリ美術館で運営支援のための寄付を募ったところ、海外からも多くの寄付が集まったという。海外でのチケット販売が再開されれば、世界中からジブリファンが集まってくるのだろう。

三鷹の森ジブリ美術館

住所:東京都三鷹市下連雀1-1-83 都立井の頭恩賜公園西園内
TEL:0570-055777
開館時間:10時~17時、土・日曜、祝日は~19時、大型連休は~18時(最終入場回は閉館の各2時間前)
休館日:火曜、ほか臨時休館や長期休館あり
料金:一般¥1,000
※日時指定の完全予約制。チケットはローチケWEBサイトで販売(毎月10日の10時から翌月入場分を発売)。
※屋上庭園を除く館内は撮影禁止です。
※施設の内容や料金などの情報は2022年10月19日現在のものです。
https://l-tike.com/ghibli
https://www.ghibli-museum.jp
取材・文/安倍季実子
写真/殿村誠士