番台にビアバー?歴史ある銭湯を未来につなぐ
「今は日本の住宅の95%に浴室があるので、多くの銭湯が廃業の危機に追い込まれています」と、プロジェクトを担当したスキーマ建築計画の嶋田光太郎氏。「だからこのプロジェクトはとても重要だと思いました。この銭湯を次の世代に残したい。そのためには、人々が頻繁に行きたいと思うような機能がなくてはいけないと思いました」
そこでスキーマ建築計画は、番台にビールを提供するエリアを併設。エントランスは大きなガラス張りの引き戸にして、道行く人がつい立ち寄りたくなるような空間をつくり出した。足を踏み入れると銭湯だった。ならばついでにひと風呂浴びていくか、というわけだ。ひと風呂浴びた後の一杯もいい。
常連さんの「お馴染み」を守る
浴室には、番台のあるエリアと同じベージュ色のタイルを使って一体感を持たせた。浴槽の内部に使われているのは十和田石だ。これが水に濡れると青緑色がかった石の色に深みが出て、ちょっぴり幻想的な雰囲気になる。浴室の基本的な構造は昔と変わっていない。男湯と女湯を隔てる壁は天井まで届かない高さで、壁ごしに家族が会話できるのも昔と同じだ。
男湯と女湯で掛け合うお約束の「お〜い!」というあの声を優れた意匠に変えたのは、美術家の田中偉一郎氏。番台と脱衣場を仕切る大暖簾に、この掛け声の音「~」が波のように描かれている。銭湯のもう一つのお約束である富士山の壁画を担当したのは、漫画家のほしよりこだ。男湯から女湯まで一つの物語を表わす富士絵巻を制作した。こうして黄金湯は、現代的な機能と魅力を備えつつ、銭湯文化へのリスペクトあふれる憩いの場へと生まれ変わったのだ。