バイオ燃料を使った屋形船が隅田川を運航

 現在、東京都では、2050年CO₂排出実質ゼロを目指す「ゼロエミッション東京」の実現に向けて様々な対策を進めている。その鍵となるエネルギーとして注目されているものの一つにバイオ燃料がある。

CO₂を吸収する、微細藻類ユーグレナ

 東京都は「ゼロエミッション東京」推進の一環として、2022年9月6日から3週間程度、次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」の製造・販売を手がける株式会社ユーグレナと屋形船東京都協同組合の協力のもと、隅田川で「サステオ」を使用した屋形船を運航した。バイオ燃料を使用した屋形船の運航は国内初となる。

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運航を担当したのは、有限会社船宿三浦屋。都内の浅草橋からお台場周辺にかけて運航された。Photo: Euglena Co., Ltd.

 ユーグレナ社は2005年に創業。微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の屋外大量培養技術の確立に成功し、ユーグレナの豊富な栄養素を活用した食品や、化粧品の開発・販売を手がけてきた。2010年からは、ユーグレナから抽出した油脂を使ったバイオ燃料の開発に着手し、2018年には横浜市にバイオ燃料製造実証プラントを竣工した。

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横浜市鶴見区にある日本初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラント。Photo: Euglena Co., Ltd.

 今回、屋形船で使われたバイオ燃料「サステオ」は、"サステナブルオイル"にちなんで名づけられており、次世代バイオディーゼル燃料に位置づけられる。従来型のバイオ燃料は通常のディーゼル燃料とよく似た特徴をもつが、分子構造が異なっているため、市販の軽油に5%まで混合する使用方法しか許可されていなかった。しかし、次世代バイオディーゼル燃料は通常の軽油と同じ分子構造であり、国内の軽油規格に準拠しているため、含有率100%でも使用できる。

 「サステオは軽油と同じ分子構造をもつため、燃焼させればCO₂が排出される。しかし、地中に埋まっている化石燃料を掘り出して作った軽油を燃やすのと異なり、食用油の原料である植物やユーグレナが成長過程で光合成する際に大気中のCO₂を吸収するため、実質的な排出量はゼロとなり、カーボンニュートラルの実現に貢献すると期待されている。食料との競合や森林破壊といった問題にも繋がらない持続可能性に優れた燃料といえる」と株式会社ユーグレナ 執行役員 エネルギーカンパニー長の尾立維博氏。

本格的な実用化に向けて、生産体制を拡充

 「弊社の実証プラントは年間125キロリットルのバイオ燃料の生産能力を有している。2025年には、現在の実証プラントの2千倍の、年間25万キロリットルの規模の商業プラントが完成する予定。日本の首都である東京で、弊社が開発したサステオで屋形船が走る様子を見た時は深い感慨を覚えた。東京都はこれまで水素シャトルバスの導入や、再生可能エネルギーの積極的な導入など様々な取り組みを行ってきたが、我々のサステオも『ゼロエミッション東京』実現のためのソリューションの1つとして貢献できればと思っている」と尾立氏。

 2022年11月時点で「サステオ」を採用した企業や団体は60以上あり、バス、船、航空機など、様々な交通機関で活用されている。環境負荷軽減に貢献するバイオ燃料の、さらなる広がりに期待したい。

取材・文/高須賀 哲