廃棄寸前のジーンズを、製品として再生させる町工場

 東京都足立区で洋服のアイロンプレス加工を手がけてきた「ヤマサワプレス」。アメリカで廃棄寸前だった大量のジーンズを輸入し、自社ブランド製品として蘇らせる新事業をスタートさせ、注目を集めている。
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洗濯を終え、素材として再生される前のジーンズ。デニム生地ならではの美しい色落ちを活かして製品を開発する。

ロサンゼルスで見つけた、大量のリーバイス501

 東京都足立区にあるヤマサワプレスの創業は1995年。洋服のアイロンプレス、検品、検針、補修、洗い作業を主な業務としており、現在は2代目となる山澤亮治氏が代表を務めている。

 「中学生の頃からリーバイスの名品として知られる501というジーンズが好きだった。2019年に新しく古着ビジネスを立ち上げたいと思い、ロサンゼルスの業者を訪ねたところ、廃棄寸前となっている501の古着が大量にあることを知らされたのです。捨てられるはもったいないと思い購入を決意。合計20トンのジーンズの塊を輸入しました」

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倉庫にストックされたジーンズの塊。汚れや傷みのためこのままでは利用できない。2019年に、一括で3万5千本を輸入した。

 輸入したジーンズは傷みや汚れが激しく、そのままでは利用できないが、解体してつなぎ合わせ、生地として販売することはできるはず。まずは、本業である洋服の洗いの設備と技術を活かして大量のジーンズを洗浄。その後、解体しながら再利用できそうな部分を選り分け、パッチワーク状の生地を製造した。

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工場ではスタッフが1点ずつ、ジーンズの状態を見極めたうえで丁寧に解体している。

 「ジーンズを再生するのは、思った以上に大変な作業でした。ようやく完成した生地を扱ってもらおうと、アパレル企業と商談を重ねましたが、品質がバラバラな生地は扱いづらく、縫製も難しいため、採用には至らない。そこで、自分たちで商品化すればいいと発想を変えて、自社ブランド『One-o-Five(ワンオーファイブ)』を立ち上げました」

海外展開も視野に入れながら新たなステージへ

 こうして、再生生地を使った自社ブランドのジーンズやバッグの製造をスタート。20209月には倉庫を改装したショップをオープンした。

 ファッション業界における、SDGsの新たな取り組みとしてテレビ番組に取り上げられたことなどが後押しになり、大手百貨店との共同プロジェクトが実現。数年前までは扱い難しいと判断されていた生地の採用も相次ぎ、202211月までに国内外の70以上のブランドから製品が開発、市販された。

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「素材のもつ味わいを活かしつつ、洗い、加工、デザインして、新たな製品に仕上げる。それぞれの工程で面白さがあります」と語る、ヤマサワプレス代表の山澤亮治氏。

 「国内の企業からコラボレーションを打診される機会が増えつつあり、海外ブランドとの協業も始まっています。素材の持ち味を活かしながら、各企業、ブランドならではの斬新な発想で生地をアレンジしてくれる。事業を始めた当初はサステナビリティを意識していたわけではないが、時流がマッチしたと感じます。今後はジーンズに限らず、裁断後に残った布などにも目を向けながら、新たな製品の開発に取り組んでいこうと思っています。サステナビリティをオリジナリティとする、私たちらしいブランドとして成長していきたい」

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生地の微妙な濃淡が個性的な表情を生み出す。デザインは同じでも使う素材が異なるので、全てが1点モノだ。

 東京都足立区には、ものづくり事業者の海外販路拡大を支援するプロジェクト「ADACHI TIDE(アダチタイド)」があるが、2021年にヤマサワプレスもその認定事業者に選ばれた。同年10月から11月にかけて、プロジェクトの一環として香港で開催されたポップアップストアに出品する機会を得たが、ここで山澤氏はデザインだけでなく、加工技術も評価されたことに、大きな手応えを感じたという。

 「私たちの目標は、アメリカで生産されたジーンズを、日本の技術で生まれ変わらせて、アメリカで販売すること。日本のものづくりを世界に発信しながら、サステナビリティにも貢献していきたい」

取材・文/高須賀 哲
撮影/田中駿伍(MAETTICO)