電力需要ひっ迫への対策と、東京都の「HTT」の重要性

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 エネルギー料金の上昇、電力需給のひっ迫と、電力供給を巡り厳しい局面が続く。現在直面している問題と東京都が推進するHTTの重要性を、東京大学生産技術研究所特任教授・岩船由美子氏に解説していただいた。
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エネルギーに関していま直面している問題

 経済や国際情勢、天候の変化などによって確実性が大きく左右されるエネルギー需給問題。ヨーロッパではロシアによるウクライナへの軍事侵攻が燃料の価格上昇を招き、厳しい状態が続いている。また日本でも、2021年の冬に記録的な寒波とLNG(天然ガス)不足が重なり、電力需給がひっ迫したことが記憶に新しい。

 東京大学生産技術研究所の岩船由美子特任教授は、「電力の『不足』と言っても、『高さ』と『面積』の2種類があります。夏はどちらかというと高さの不足が、そして冬は面積の不足が問題になります」と語る。ここで言う「高さ」は瞬間瞬間に必要な電力、そして「面積」は瞬時の電力に継続時間をかけた電力量を指す。

 冬は夏に比べて突出して電力需要が大きい時間があるというより全体的にフラットだが、外気温と室温の差が夏よりも大きく、また日照時間が短いため暖房や照明の機器で消費するトータルの電力量は多くなる。「夏に関してはピークタイムをできるだけずらすといった対策もありますが、冬は全体の面積が足りなくなる可能性があるので、基本的には節電が求められます」

東京都の取り組みはどう貢献するか?

 エネルギーの安定確保に向けた施策が世界中の国・地域で実施されている。東京都では「HTT(電力をH減らす・T創る・T蓄める)を進めよう」と呼びかけ、家庭向け、事業者向けそれぞれにさまざまな取り組みや支援を行っている。このうちHTT補助事業として、高断熱窓・高断熱ドアへの改修や蓄電池、V2HVehicle to Home/住宅と自動車との間で相互に電気を供給しあえるシステム)電気自動車などに対して補助を行う。

 また太陽光発電については、アメリカ・カリフォルニア州では2020年に州内全ての新築低層住宅に太陽光発電設置を義務化し、EUでは2029年までにすべての新築住宅において太陽光発電設備の設置を義務づけることを提案しているが、東京都も同様に新築建物を対象とした太陽光発電の設置義務化について2025年の制度施行を目標に準備を進めている。

 「発電は省エネと同様に余力が増える方向ですから当然役に立ちますし、蓄電はピーク時の需要をオフピーク時にずらすことができるという意味で非常に重要です。太陽光発電は脱炭素にも貢献します。また一番難しいのは新築住宅よりも既存住宅の断熱改修などだと思いますが、東京都はそこに予算をしっかり割いている」

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東京都の施策の一つ、断熱・太陽光住宅普及拡大事業として、断熱改修、蓄電池の設置、太陽光発電設備の設置を支援する取り組みを行っている。

 これらHTTの取り組みを推進していくために必要なのは、データの有効活用だと岩船氏は続ける。「東京電力管内のすべての顧客の電力メーターがスマートメーターになりましたが、ここから得られるデータは節電や蓄電の効果の評価などに使えます。こうしたデータを元にオンラインでエネルギー診断などをして、太陽光発電や蓄電池の設置前、設置後のデータをしっかりまとめて広報に活かすことが大切です。東京都はデジタルツイン(センサーなどから取得したデータをもとに、インフラ、経済活動、人の流れなどの要素をサイバー空間上に双子のように再現したもの)実現プロジェクトなどの先進的な取り組みも進めていますが、そこにエネルギーの情報も入れられたら良いと思います」

 また従来の電力システムは需要量に供給量を合わせる形で調整が行われてきたが、これからはIoTなどの最新技術でエネルギーを制御して、供給量に需要量を合わせる「デマンドレスポンス(Demand ResponseDR)」が重要になると言う。

 「現状では多くの蓄電池は設置された建物のためだけにしか使われていませんが、外から制御できるようなシステムを導入することで、そのエリアの電力系統の柔軟性が上がり、調整力も確保しやすくなります。建物の所有者は、自分の蓄電池を使ってもらうことで対価をもらえるようにすれば、地域と建物所有者の双方にとってメリットがある。実際に、アメリカのカリフォルニア州では、電気自動車メーカーとして知られるテスラ社製住宅用蓄電池を有している顧客が、同社による蓄電池制御を了承しエリア全体の電力不足に貢献できれば対価を受け取ることができる、という取り組みもあります

 将来的には地域単位でこうした取り組みを行うことが必要だと岩船氏は予測する。「電力の需給バランスを意識したエネルギーの管理を行うことが必要になってくると考えます」

取材・文/和田達彦