葛飾区からJリーグへ挑む 南葛SCの取り組み
20言語以上に翻訳された、サッカー漫画の金字塔
サッカー漫画『キャプテン翼』は、1981年に『週刊少年ジャンプ』で連載がスタートし、日本国内での単行本・文庫本累計発行部数は計7,000万部を突破。世界20言語以上に翻訳され、アニメは50ヶ国以上で放送配信された。FIFAワールドカップ カタール2022で活躍するフランス代表のエムバぺ選手など現役選手をはじめ、歴代のスター選手がこの漫画のファンであることを公言する、世界中で知られるサッカー漫画の金字塔だ。
作中では、天才サッカー少年の大空翼が「ボールはともだち」を合言葉に、架空の地名・南葛市のサッカーチーム「南葛SC」で、仲間とともに全国制覇を成し遂げ、後に日本代表として世界の強豪たちに挑んでいく。このチームは、連載スタート当時は架空の存在だったが、いまは東京都内に実在する。葛飾区のサッカークラブ「南葛SC」で代表取締役専務兼GM岩本義弘氏に話を聞いた。
「葛飾区には1983年に発足した『ときわクラブ』というチームがありました。葛飾区からプロサッカーリーグのJリーグを目指そうという機運が高まり、2012年に『葛飾ヴィトアード』に改称したのですが、そこで高橋先生が『南葛SCでやりませんか』と提案されたことで、リアル南葛SCが生まれたのです」
クラブのオーナー兼代表を務める『キャプテン翼』の原作者・高橋陽一氏は、葛飾区で生まれ育ち、長年この地で執筆活動をしてきた。「南葛SC」も高橋氏の出身校である東京都立南葛飾高等学校から着想を得た。
岩本氏は、このクラブ名に勝算があったという。「サッカーの試合を超えたところでも人の賑わいを作ることができると考えました。Jリーグは地域密着型であることを理念に掲げています。葛飾区は東京のなかでも下町らしい温かみがあり、"葛飾愛"を持っている人が多く、Jリーグの理念にも合致していると思います」
アマチュアチームが属する地域リーグで2年連続となる昇格を果たし、現在はJリーグの一段下に位置づけられるJFL(日本フットボールリーグ)入り目前で奮闘中。2022年には、さらなる強化を目指し、日本代表としてFIFAワールドカップに出場経験がある稲本潤一選手、今野泰幸選手を獲得した。
「ボールはともだち」がチームの合い言葉
稲本選手は、加入前からこのクラブが気になっていたという。「葛飾区の皆さんに愛され、偉大なチーム名を背負っているところは、サッカーファンとして興味深い部分でした。所属選手として、漫画の世界観を体現していくことが、クラブの特色に繋がっていくのではないかと考えています。『ボールはともだち』を、クラブの理念やスタイルとして掲げて、日々トレーニングに取り組んでいます」
今野選手によれば、このチームの監督を務める森一哉氏も試合前や練習時のミーティングで、よくこの言葉を口にするという。「ボールを大事するところは、南葛SCらしさの一つです。作中では多くのライバルを下して優勝するわけですから、勝利を追い求めることも大切。チームの一員として、自分の能力や経験を最大限に発揮して勝利に貢献したい」
目標はJリーグ昇格と地元スタジアム建設
Jリーグ昇格とともに、このクラブには大きな目標がある。サッカースタジアムの建設だ。2022年現在、Jリーグ基準のスタジアムは23区内には新国立のみ。地価の高い東京23区内に、新規でスタジアムを建設することは容易ではないが、葛飾でのスタジアム建設について行政と話し合いながら、実現に向けて動き始めている。
高橋氏は、クラブの目標をこう語る。「長期的には世界的な存在になりたい。短期的にはJリーグに昇格することと、地元にサッカー専用スタジアムを作り、そこに毎日、人が集まるような場所にしたい。それが長期的な目標である、世界的クラブへの礎になると思っています」
海外からはチーム名や作品名を冠したサッカースクールをグローバルに展開する提案も届いているという。葛飾区で生まれ、愛されるリアル南葛SC。リアルな世界でどこまで羽ばたいていくのか見守っていきたい。