すべての模様に意味がある、精緻な幾何学柄の組子細工

 麻の葉、亀甲、桐......。障子や欄間などの建具を、美しい幾何学模様で彩る組子細工。その歴史は平安時代に遡り、職人の技術や道具が発展した江戸時代に、細かい作業が可能となって一気に花開いた。
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 「材料となる木材選びが、もっとも大切。狂いのない、緻密な木材を選ぶため産地まで足を運び、自分の目で判断して買い付けます」

 こう語るのは、江戸組子 建松の二代目である田中孝弘さん。木曽桧、秋田杉、吉野杉など、銘木と呼ばれる針葉樹が主な材料だ。現在、組子細工のプロセスはほとんど機械化が可能だというが、建松では昔ながらの手作業にこだわり続けている。

 「0.1mmの誤差も許されない」といわれるほど精密さが要求されるため、いちばん気を使うのはパーツの寸法取りだという。細く挽き割った木材は、溝や切込みを入れてから組み合わせていく。何千、何万というパーツを組み立てて模様を編み出していく緻密な技は、長年の経験の賜物だ。

 組子の模様は200種類以上にも及ぶが、そのひとつひとつに意味が込められているのだと田中さんは語る。

 「たとえば、ポピュラーな麻の葉は、古くから魔除けの模様として知られるほか、成長が早い植物であることから、子供の健やかな成長を願う意味があります。たくさんの花を咲かせる桜は繁栄を、亀甲は長寿を、というふうに、先人が込めたさまざまな思いが受け継がれてきたのです」

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左《欄間》「桜」。右《衝立》上段左から桜、桔梗 下段左から、変り麻の葉、雪

 だからこそ、お客様に頼まれてものづくりをする際にも、意味付けには配慮していると語る田中さん。先日、江戸川区の専門学校のエントランスの壁面に掲げる組子細工を依頼された際には、幅4m×高さ3mという大きな枠に、桜、麻の葉、桔梗、雪模様の組子細工をあしらって、江戸川の四季を表現した。

 「お客様との対話を何より大切にしていますので、喜んでいただけてうれしかったです。他にも、障子や屏風などを納品したお客様から、光の当たり具合で表情が変わる様や、夜の照明で浮かび上がる模様の陰影がきれいだという声を聞くと励みになりますね。上質な木材を使用しているため、次第に飴色に変わり艶が出てくる経年変化も楽しめますから、長く愛用していただけたら本望です」

※本記事は「江戸東京きらりプロジェクト」(2022年11月15日公開)の提供記事です。