食の都・東京から発信するフードロスビジネス

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 世界的に深刻な社会課題として、SDGsでも「2030年までに世界の食料廃棄を半減する」と掲げられているフードロス。国内外に幅広いネットワークをもち、東京を拠点にユニークな取り組みを展開する山田早輝子氏に東京のレストランのフードロス事情を聞く。
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フードロスバンク代表取締役社長、山田早輝子氏。オフィスを構える虎ノ門ヒルズにて。

 2020年の設立以来、ラグジュアリーブランドとの協業などユニークな取り組みで注目を集めるフードロスバンク。代表の山田早輝子氏はアメリカ、イギリス、シンガポールと海外に18年間暮らしてきた経歴をもつ。

 幼い頃から食べることが好きだったという山田氏が飲食業界に関わるようになったきっかけは、アメリカではプライベートファンドで最大級の慈善団体ミールズ・オン・ホイールズに参画したこと。以来、国際ガストロノミー学会の日本代表や「The World's 50 Best Restaurants」(世界のベストレストラン)の公式大使を務めるなど、食を軸に国際色豊かな経歴とネットワークを活かして多岐にわたる活動を行っている。

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国際ガストロノミー学会日本代表としての11年にわたる活動が評価され、2022年にスペイン王国国王陛下フェリペ6世より勲章を受賞した山田さん。写真左はスペイン王国大使のセンダゴルタ閣下。Photo: courtesy of Sakiko Yamada

--東京を拠点に「フードロスバンク」を設立した理由と主な活動内容を教えてください。

 「生まれ育った街が東京ということもあるのですが、都市型のサステナビリティを実現したいという思いがあります。3カ国で暮らし、数多く海外の都市を訪れた経験からしても、東京は"食の都"。レストランが非常に多く、シェフたちの技術もずば抜けて高い。東京には、都市でサステナブルな飲食業を成立させるために不可欠な技術力の高さがあります。外資系企業の日本支社が多く、さまざまな企業とのやりとりが進めやすいという点も魅力です。

 日本は1年間のフードロスが約522万トン(農林水産省/2020年度推計値)に上る"フードロス大国"。国にとって重要な課題であるからこそ、その首都であり、独自の個性をもつ東京でフードロスに対する取り組みを行うことに大きな意義があります。

 弊社の活動は多岐にわたりますが、基本となるコンセプトは"サステナビリティ(持続可能性)をサステナブル(持続可能)にすること"。ボランティアや一過性のものではなく、一次産業に従事する方を含めて関わるすべての人にとって持続できるビジネスにすることが重要です。その考えのもと、形が悪い野菜など規格外品の食材を活かす"UGLY LOVE"や日本の古米などを活用する"れすきゅうまい"といったプロジェクトを進めています」

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"ひとりひとりが正しい知識を蓄えていくことが大きな変革に繋がる"という意味を込めて社名に「バンク」という言葉を入れたという。

 "UGLY LOVE"プロジェクトでは自社で商品を販売するほか、レストランやホテルとの協業も多い。なかでも、共に銀座に店舗を構えるアルマーニ/リストランテやグッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウなど、ラグジュアリーブランドが展開するレストランとフードロスを結びつける取り組みが話題だ。

 フードロスバンクと共に規格外品をいかした"ロスフードメニュー"を展開していたアルマーニ/リストランテのエグゼクティブシェフ、カルミネ・アマランテ氏はこう語る。「山田さんは幅広い人脈をいかして、東京の料理人たちにフードロスの現状を伝え、行動を起こすきっかけを与えてくれています。また、東京の料理人と地方の農家さんとの橋渡し的な存在でもあります。

 "ロスフードメニュー"は大きな挑戦でした。形やサイズなどにバラつきがある食材を使いながら料理のクオリティをキープするため、さまざまな工夫をしました。自分の経験値やスキルを上げてくれたと思います。この取り組み以降、店としてもフードロスへの意識がより高まり、現在アルマーニ/リストランテのキッチンからはほぼロス(可食可能な食品の廃棄)が出ていません」

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山田氏と銀座のイタリアンレストラン、アルマーニ/リストランテのエグゼクティブシェフ、カルミネ・アマランテ氏。Photo: courtesy of Sakiko Yamada
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都内に工房をもつブルガリ イル・チョコラートとコラボレーションした商品「Chocolate Gems for Sustainability」。フェアトレードのチョコレートや規格外食材を使用しているほか、パッケージには和紙を採用。日本の伝統文化に対するサステナビリティという意味も込められている。Photo: courtesy of Sakiko Yamada

--東京の店や個人レベルのサステナビリティ意識はどのように感じられていますか?

 「シェフやレストラン、企業の意識が高く、真摯な取り組みをされています。ミシュランスターに加えてミシュラングリーンスター(持続可能なガストロノミーのために積極的に活動しているレストランに与えられるシンボル)を授与されているレフェルヴェソンス(西麻布)やフロリレージュ(青山)など、トップシェフたちのサステナビリティに対する積極的な活動がシーンの刺激になっていることに加えて、若手の意識の高まりも感じます。今年からアドバイザーを務めている『RED U-35』(若い才能を発掘する日本最大級の料理人コンペティション)2022年大会の最終審査で、ほとんどのファイナリストがサステナビリティについて語っていたのが印象的でした。ここ数年で、料理人の姿勢がただ"おいしい料理を作る"から、"食を通して地球の未来を考える"という方向性にシフトしているように思います。

 一方で、個人の意識がまだ自分事に至っておらず、危機感が少ないのかなと。日本の年間のフードロスのうち、半分弱(約247万トン)が家庭からのロスなんです。フードロスというと行政や企業に大きな責任があると考えがちですが、個人の行動が非常に重要なんですよね。どんなに小さなことでも、できることからやってみること。東京は人口が多いので、一人ひとりの意識が大きな変化に繋がるはず。レストランも人口も多い東京が変わることで、世界のモデルケースになれるのではないかと思っています。それが他国への貢献に繋がって、地球を皆で守ることができたらベストですよね」

--山田さんの今後の展望を教えてください。

 「あまり具体的なゴールを設定しないようにしています。1年行くつもりだったアメリカに十数年住むことになって、さまざまな人との出会いに導かれて今の私があるので、先を決め込まずに生きたいです。

 ただ、東京は多様性のあるユニークで素晴らしい街なので、東京をモデルケースにほかの都市に貢献できるようなルールメイキングができたらと漠然と考えています。国際発信実行委員を務めている「東京ベイeSGプロジェクト」*も非常に楽しみです。

 また、これからも繋がりのなかったモノ・コトを引き合わせてシナジーをうみだしていきたいですね。『よくラグジュアリーブランドと規格外品でコラボができたね』と言われますが、遠いと捉えられている存在を繋げることで大きな影響や効果がうまれました。信念や意識に通じるところがあれば、離れた存在ほど素晴らしいシナジーが起こるのではないかと思います」

 東京都がベイエリアを舞台に進めている、サステナブル・リカバリーの考え方に立脚した次世代の都市づくり計画。

山田早輝子(やまだ・さきこ)

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フードロスバンク代表取締役社長。アメリカ・LAを拠点とする映画プロダクション会社スプレンデントメディア創始者。日本ガストロノミー学会代表を務めるほか、内閣府クールジャパンプロデューサー、「東京ベイeSGプロジェクト」国際発信実行委員など多数兼任。
フードロスバンク www.foodlossbank.com
取材・構成/門前直子
写真/植田 翔