Tokyo Embassy Talk:
カナダ人外交官が音楽を通して見つけた友情

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 在日カナダ大使館のアニータ・パン一等書記官にとって、緊張を強いる仕事の疲れを癒してくれるのは、趣味のピアノとバイオリン。東京には、クラシック音楽愛好者を歓喜させる機会がたくさんあると語る。
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アニータ・パン一等書記官。港区にあるカナダ大使館のエントランスにて。

多様なバックグラウンドを仕事に生かして

 在日カナダ大使館のアニータ・パン一等書記官は、移民も多く多様な文化が共存することで知られるバンクーバーの出身。外交官としての仕事でも、英語はもちろん、フランス語、日本語、中国語を操り、自分の文化的背景を最大限に生かすことを心がけている。

 そんなパンさんが、2015年に外交官として初めて赴任したのが東京だった。2018年まで商務官を務めて一旦帰国した後、2022年秋に一等書記官として再び日本にやって来た。

 地政学的な大変動が起きている今、インド太平洋地域の平和と安全を支えるカナダの取り組みに携わる仕事に、パンさんは大きなやりがいを感じている。「(外交官として)とてもエキサイティングな時期に、再び東京に赴任することができました」

 とはいえ、緊張をともなう仕事にはストレスがつきもの。外交や言語の面で優れた能力を発揮するためには、空き時間のセルフケアも重要だ。そんな彼女の大きな救いになっているのが、趣味のバイオリンやピアノだ。

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パンさんは、大使館内のイベントでバイオリンの演奏を披露したことがある。

心のバランスと人とのつながりをもたらす音楽のパワー

 パンさんがピアノを習い始めたのは5歳の時。バイオリンは前回東京に赴任していた時に始めたそうだ。音楽は、創造力と表現力を発揮する重要な方法だという。「音楽は私の日常にバランスをもたらしてくれます。仕事で安全保障関連の問題に取り組んでいる時は、とくにリラックスさせてくれます」

 外交官として多忙な毎日を送っているため、バイオリンやピアノを弾く機会は、自宅での練習時間や大使館関連のイベントに出演する時に限られている。けれども東京では、さまざまなクラシック音楽のイベントに観客として参加するチャンスがあると、パンさんは言う。

 「アマチュア・オーケストラの演奏会から、世界最高のアーティストによるコンサート、それにユニークなフェスティバルまで、東京には音楽ファンにとって魅力的な機会がたくさんあります」とパンさん。とくにお気に入りなのは、毎年、東京国際フォーラムほかで3日間にわたり開かれるクラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO」だ。

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「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO」は、2005年から毎年5月に都内で開催されているクラシック音楽祭。2023年は5月4日から6日まで、"ベートーヴェン"をテーマに東京国際フォーラム、丸の内エリアを中心に4年ぶりに開催される。 Photo: courtesy of team Miura

 「東京の人たちは、音楽を聴く時は本当に真剣に耳を傾けますよね。この街のとても素敵なところだと思います」

 外交の世界でも音楽が果たす役割は大きいと、パンさんは語る。「音楽は、誰もが理解できる共通の言語です。文化の壁を取り払って、人と人の間に絆や特別なつながりをつくるパワーがあります」

 年末恒例の音楽会「渋谷区民音楽のつどい」に参加し、ベートーヴェンの交響曲第9番を合唱したことも、パンさんにとって特別な思い出だ。「あまりにも素晴らしい経験だったので、2年連続で参加しました。2年目、2016年の会場は(一流の音楽家たちが演奏する)オーチャードホールで、本当にワクワクしました」と振り返る。「合唱団に参加しなければ、出会うこともなかったような人たちと友達になれたことも嬉しかったです」

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在日カナダ大使館4階にあるカナダ・ガーデンにて。デザインを手がけたのは禅僧の枡野俊明氏。イヌイットの彫刻のほか、ロッキー山脈などカナダの風景が表現されている。

東京は予期せぬ出会いがある街

 ある時、代官山T-SITEで遭遇したバイオリンの生演奏を聴いていたら、パンさんの大好きなアニメ『四月は君の嘘』の挿入曲を弾いたバイオリニストによる演奏であることに気づいて大興奮したこともある。「東京は、こうした小さな驚きにあふれています」

 パンさんは、どこへ行くにも好奇心旺盛だ。「初めて行った街でランチをする時も、長蛇の列ができているような有名店ではなく、穴場的な店を探すようにしています。そういうところは絶対英語のメニューがないんですけどね」と笑う。「おかげで魅力的な場所をたくさん発掘できています」

<カナダの魅力

Q1. カナダでぜひ訪れてほしい場所は?

 ブリティッシュコロンビア州のガルフ諸島です。この上なく美しく、穏やかで、別世界に足を踏み入れたような気分を味わえます。私の故郷バンクーバーも素晴らしい街で、さまざまな人種や文化を持つ人たちが暮らしています。いわゆる白人は住民の半分以下なんですよ。東部のモントリオールも活気に満ちた街で、さまざまなイベントの舞台となり、フランス語はもちろん、いくつもの言語が飛び交っています。カナダという国の重要な特色である多文化主義を体現している街だと思います。

Q2. カナダで食べてほしいものは?

 カナダは多様性に富む国なので、食においても多様な料理を楽しめます。なかでも、歴史があり魅力的な一品といえば、BC(ブリティッシュコロンビア)ロールですね。バンクーバーで日本料理店を経営する東條英員(ひでかず)さんが、1974年に考案した巻き寿司です。当時、カナダでは生の魚を食べる習慣がなかったため、東條さんは地元の人たちに親しみのある具材を使うことにしました。カリッと焼いたサケの皮とキュウリです。いまやBCロールは誰もが知る料理となり、バンクーバーの日本料理店には必ずあるメニューになりました。文化の融合という意味で、私はBCロールの由来が大好きです。

アニータ・パン

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バンクーバー出身。ブリティッシュコロンビア大学で国際経営の学士号を、米プリンストン大学で公共政策の修士号を取得。日本ではかつてイノベーション政策における二国間協力に関わり、現在はインド太平洋地域における平和安全保障に取り組んでいる。
取材・文/キンバリー・ヒューズ
写真(ポートレート)/エミリー・ヨーク
翻訳/藤原朝子