課題解決の鍵は?国際金融都市・東京の競争力
さまざまなリソースが集中する東京の利点
東京は金融センターとして、有望なポテンシャルを持っていると思います。まず、背景となっている経済規模が巨大であること。それから、いろんなリソースが集まっています。たとえば、世界有数の利便性を誇る交通機関。都心まで20数分で移動できる羽田空港、新幹線のネットワーク、首都圏の交通網と揃っていますよね。一都市にこれほど大学が集中しているのもそうですが、美術館やコンサートホール、グルメ等、文化的にも重要なアセットがたくさん集まっている世界的にも珍しい街なんです。香港やシンガポールと比べても相当メリットがあると思いますし、ロンドンやニューヨークと比べても十分な競争力があります。
金融都市として生きていく覚悟が必要
一方で、課題は、なんでも揃いすぎているがゆえに、金融都市として生きていくという踏ん切りがついていないことです。シンガポールや香港の経済規模で、たとえば製造業で国を支えるというのは難しい。彼らが生き残っていくには金融立国しかないわけですよね。あるいは19世紀までは大英帝国として栄えたイギリスも、今主要産業が製造業というわけではありません。ロンドンの金融業で稼がないと国が成り立っていかない、そう割り切っている部分があります。
ただ、国の発展段階を考えていくと、先進国の大都市が金融を産業の根幹に据えていくというのは必然の流れです。先進国でこれだけ所得水準が高くなり、都市中心部の地価も上昇するなかで、東京にこれから製造業を集約するわけにもいかないですよね。東京のような情報の集積地が強みを活かしていくには、高付加価値型の産業である金融を考えざるを得ないのです。金融都市として生きていく「覚悟」が必要なのです。
東京には、金融センター化していくのに必要な前提条件はある程度整っています。あとは、実態としていまだに「巨大な国内市場」になってしまっている面のある東京市場に、海外からの投資をいかに呼び込むか、ということですね。
東京を最先端のグリーン都市へ
そのための有望分野の一つと考えられているのが、グリーン分野です。世界的に急拡大しているESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視した投資)の受け皿の一環として、東京都はグリーンファイナンス市場の取り込みに向けて本腰を入れています。
約1400万人もの人口を抱える大都市・東京で温暖化をストップできたり、ヒートアイランドのような都市気候を抑えることができたりすれば、そこに暮らす都民にとっても大きなメリットになります。持続可能な都市づくりに向けた脱炭素化の取り組みを加速し、世界から選ばれる最先端のグリーン都市へと東京を進化させていく必要もありますからね。
そこに、元々取り組んできている行政サービスを含むさまざまな分野のデジタル化のさらなる促進を重ねていくことが大事です。大手IT企業出身の宮坂学副都知事もリード役として、グリーンとデジタルを両輪として、東京のファイナンスを発展させようと考えています。環境と経済の好循環を生み出し、都市システムと金融システムのグリーン化を同時並行的に進めていくことで、そこに暮らす都民にとっても生活の質の向上につながるでしょう。
ただし、金融市場をめぐる都市間の競争は激化していますし、プレーヤーも変化してきています。大きな金融市場といえば、ロンドンやニューヨーク、そしてアジアなら香港とシンガポールでした。これが今、中国は上海市場を猛烈にプッシュしていますし、ヨーロッパではイギリスのEU離脱をきっかけに、ロンドンの地位が相対的に低下しています。代わりに、アムステルダムやパリ、フランクフルトがマーケットの振興策をかなり積極的に講じてきている状況です。東京にとってライバルが非常に増えてきているなかで、どれだけ金融を重視しているか、どれだけ投資家にとってメリットがあるかといったことを強く訴求していく必要があります。
もちろん、東京都だけでできることにも限りがありますから、国をはじめとした関係各所をうまく巻き込みながら、海外からの投資に関わる税制などの問題に関しても提言を続けていきます。
グリーンファイナンス市場の発展に向けた、都のESG関連情報のオープン化。参加プレーヤーの裾野拡大のための外国企業の誘致やグリーンローン(地球温暖化など環境問題の解決に貢献する事業に限定した資金融資)の促進。ESG人材育成のための環境整備や大学との連携......。グリーンファイナンスの拠点都市化に向けた課題はたくさんありますが、情報の一大集積地という東京の強みも活かしながら投資環境を整えていくことで、グローバルな競争に立ち向かっていけるはずです。
山岡浩巳(やまおか・ひろみ)
写真/殿村誠士