日仏ビジネスと日本のディープテックの可能性

 欧州から見て、国際ビジネス拠点としての東京にはどのような魅力があるのだろうか。さらに、日本のディープテック領域の発展の可能性について、在日フランス商工会議所のディレクターに話を聞いた。
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「食や自然、芸術などを含め"生活を豊かにするもの、質の良いものが好き"という点は、フランス人と日本人の類似点だと感じています」(右:エミリー・テルエル氏)

日本で一番長い歴史をもつ外国の商工会議所

 在日フランス商工会議所は今年で創立105年となる、日本で一番長い歴史をもつ外国の商工会議所で、在日の欧州商工会議所の中では最大規模、600社超の日仏企業会員数を誇る(20231月現在)。同会議所は、最先端のディープテック(社会問題を解決しうる革新的なテクノロジー)の研究者や、この分野のスタートアップ企業のコミュニティ「Hello Tomorrow」とも連携。2020年から「Hello Tomorrow Japan」を所内に設置し、日本のディープテック領域の関係者を投資家、大学、その他の関連組織などにつなぐ活動を行っている。

 欧州のビジネス界またはディープテック分野から見た日本・東京について、在日フランス商工会議所の事業開発部マネージング・ディレクターのエミリー・テルエル氏と、同会議所のHello Tomorrow Japanのプロジェクトディレクターを務めるディアン・デシャン氏にインタビューした。

 --事業開発部の活動をお聞かせください。

エミリー・テルエル(以下、テルエル) 事業開発部として今取り組んでいるのは、日本とフランスの企業間の橋渡しをより充実させるサービスの企画・運営です。例えば、昨年はフランスのノルマンディー地方やブルゴーニュ・フランシュ・コンテ地域圏など4地域の企業の方に来日していただき、日本のパートナー企業を探してマッチングするサービスを提供しました。フランス企業の日本企業への関心の高さを感じています。

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フランスの企業に対して「時間厳守」や「会議中の沈黙は悪いことではない」といった、日本のビジネスマナーなどもしっかり伝え、日仏の企業間のスムーズなコミュニケーションを構築させたいというテルエル氏。

 毎年、在日フランス商工会議所としての2大イベント「ガラ・パーティー東京」と「日仏ビジネスサミット」を東京で開催、日仏の会員に有益な情報と交流の場を提供しています。「ガラ・パーティー」はフランスの文化を日本のビジネスパートナーに伝えるディナーショー。昨年は、会員企業のみならず各界の方々約770名が参加されました。

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1978年から毎年東京で開催している「ガラ・パーティー東京」。フランス人シェフが手がけるコース料理、アーティストのショーなどを楽しめる。Photo: courtesy of CCI France Japon (LIFE.14)

 昨年11月、日仏ビジネスにフォーカスした「第5回 日仏ビジネスサミット」をハイブリッド形式で開催。日仏の企業の代表や政治家、大学教授・文化人など著名なスピーカー30名以上が登壇しました。会場(日経ホール・東京都)で600名、オンラインで200名、合わせて800名以上の参加者が、今後の日仏協力の重要性と可能性を実感されたと思います。

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2022年11月に行われた、在日フランス商工会議所主催の「第5回 日仏ビジネスサミット」。Photo: courtesy of CCI France Japon (LIFE.14)

--在日フランス商工会議所内の活動の一つ「Hello Tomorrow Japan」の成り立ちと展望を教えてください。

ディアン・デシャン(以下、デシャン) 「Hello Tomorrow」は、ディープテック領域の博士号をもつ人たちが、2011年に作ったフランスのグループです。現在は世界30カ国に支援が広がり、拠点も6カ所にできました。テクノロジーを駆使し、国際社会の問題解決に貢献しうる企業をサポートすることを目的としており、特にスタートアップへの支援に注力しています。

 Hello Tomorrow Japan」として2017年から日本での活動を開始し、2020年から在日フランス商工会議所が運営しています。日本のディープテック領域の構造は世界に比べるとまだ小さなコミュニティなので、私たちがもつ世界的ネットワークを生かし、海外とつなぐ機会を提供しています。具体的には、日本のディープテック関係者が海外の関係者や投資家に自分たちの活動を伝え、パートナーシップを築く機会をセッティングしています。

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Hello Tomorrow Japanが支援を始めてから、日本のディープテック分野のスタートアップ企業がレベルを高め、実際に海外の投資家を見つけたという事例もあると語るディアン・デシャン氏。

 また定期的に、日本国内でイベントを行い、日本や海外のディープテックを紹介しています。さらに、国際的イベント「Hello Tomorrow Japan Challenge」も東京で開催。プレゼンテーションで勝ち抜いた挑戦者がパリで投資家を見つける権利が獲得できるイベントです。さらに、シンガポールで開催されている「Hello Tomorrow APAC Summit」では、ここ2年ほど、日本のスタートアップ企業が優勝しているんですよ。

 日本のディープテックは繊細な部品の製造から、宇宙のゴミ処理に活用できる技術など幅広い分野を有しており、非常に大きな可能性があります。しかし、すぐ成長する分野ではないため、時間をかけてコミュニティの構造を固めながら展開していくでしょう。Hello Tomorrow Japanは日本市場で海外の組織として、その支援活動をしていることに誇りをもっています。

 --東京に、在日フランス商工会議所や「Hello Tomorrow Japan」が拠点を置くメリットはありますか?

テルエル 東京はGDP世界第3位(2021年)の日本の首都です。ビジネスがものすごく活発で、ビジネスチャンスがたくさんあります。日本を代表する企業や機関の代表と関係を構築しやすいと思います。

 フランスのみならず海外の企業にとって、日本の中でも特に東京はハイクオリティな製品やサービスが求められる場です。東京でビジネスに参入できたということは、それ自体が高いレベルの証明となり、日本やアジアへ事業を比較的容易に展開することができます。

デシャン 東京は、スタートアップのネットワークが強い点がまず大きな魅力です。東京大学がディープテックやスタートアップの情報、投資家とのネットワークをもっていることが一つ挙げられます。東京のディープテック関連のネットワークに入ることが、日本国内でも海外でも、開発や事業を展開していく鍵になると思います。

 --今後の展望についてお聞かせください。

テルエル 従来、当会議所はフランス企業が日本に進出する際の支援がメインでした。しかし昨年より「スタートインフランス」という、パートナーリサーチやイベント、PRなど、日本企業がフランスに進出するための支援サービスを開始し、今年このサービスをさらに発展させていきます。

 特に今年は「ラグビーワールドカップフランス2023」が開催されるので、日本の会員へ向けてラグビーワールドカップの観戦とフランス企業と交流する機会をセットにしたパッケージ・サービスを展開する予定です。趣味とビジネスを組み合わせることで、日本の会員企業のフランス進出を後押しすることが目的です。この企画を来年の「パリ2024オリンピック・パラリンピック」でも実施したいと考えています。

デシャン Hello Tomorrow Japan Challenge」というコンペティションがあると前述しました。日本国内で勝ち抜いた方がフランスでのプレゼンテーションへ進みますが、今年は日本のディープテック分野の中枢にいる方々を団体でフランスに招待しようと企画しています。

 コンペティション以外でも、海外のディープテック事業の中枢にいる方々との交流の場をセッティングする予定です。非常にポテンシャルの高い日本のディープテック領域を世界のネットワークにつなぎ、国際社会の問題解決のための支援を続けていきます。

取材・構成/小野寺ふく実
写真/殿村誠士