新たな印刷プロセスを確立してSDGsを推進
自らアイデアを提供した「国内初」の印刷機を導入
創業から100年以上の歴史を持ち、現在では印刷事業をはじめとした多様なコミュニケーションサービスを提供している錦明印刷。2017年には環境配慮基準を達成した証となるGP(グリーンプリンティング)認定工場に登録され、業界の中でも先進的な取り組みを進めています。2015年にオフ輪のガスドライヤーLED-UVに替え、2021年にはCO2ニュートラル認証を受けた印刷機「スピードマスターCX104」を国内で初めて導入。同社の環境への取り組みについて、同社の塚田司郎社長はこのように話します。
「元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏が2006年に出版した『不都合な真実』を読んで、私は大きな衝撃を受けました。それを機に『環境のために当社には何ができるのか』をずっと考えてきましたね。また、かねてより、印刷後のインクを熱風で乾かす印刷機(オフセット輪転機)の乾燥工程に違和感を持っていたことも、環境について考える契機になったと思います。要は、大量のガスを使用して熱風を出し、それで暑くなった工場内をエアコンで冷やすのにも大量の電力を消費するわけです。とにかく夏場は工場が暑くなるので、それも嫌でした(笑)。そんな中、従来のヒートセットドライヤーに替えて、ハイパワーのランプでインクを乾かすアイデアを思いつき、アメリカのランプメーカーの社長に依頼し、よりハイパワーのLED-UVランプを開発していただきました。そして、今度はアメリカの印刷機メーカーのゴス社にアイデアを話して説得したところ、同意を得て、オフセット輪転機の改造へとつながり、2015年、オフ輪では世界初のLED-UVランプによる乾燥が実現しました」
海外でも注目を集めた次世代印刷機で環境負荷を大きく削減
塚田社長のアイデアが開発のきっかけとなった環境負荷の低減に大きく貢献する次世代印刷機。その導入メリットを、塚田社長はこのように教えてくれました。
「まず、従来のオフセット輪転機を稼働させるのに必要だったガスの使用量を100%削減できます。電力の消費量も40%減らせるので、CO2の排出が大きく抑制されますよね。また、UVインキを使用するため、通常の油性インキで印刷した場合と比較してVOC(発揮性有機化合物)を100%削減可能です。2016年にドイツで開催された界最大の印刷機器展である『drupa』でも、『LED-UVドライヤー付きM600』や当社の取り組みは注目を集めました」
現像液の排出ゼロやリサイクル性に優れた先進的なコーティングも実現
錦明印刷の環境負荷軽減への取り組みは、次世代型印刷機の導入だけではありません。コダック社の『KODAK SONORA Plate Green Leaf Award』に選出された刷版無処理化や、環境に優しい新たな表面加工である水性ニスコーティングなども、同社が実現した先進的な取り組みと言えるでしょう。
「これまでの刷版工程では自動現像機を使用する必要がありました。現像機で用いる現像液や洗浄用水の廃棄は当然、環境への負荷となります。そこで当社では、現像機での処理を行わない無処理版を全工場に導入し、現像液や洗浄用水の廃棄を100%削減しました。
また、当社では、環境に優しい水性ニスコーティングが可能な環境対応型オフセット印刷機を稼働させています。水性ニスコーティングは、PP加工(フィルム貼り)などに比べ、低コストでリサイクル性にも優れていることから、大手出版社の文庫本のカバーなどにもこの水性ニスコーティングを提案し、採用いただいています」
高齢の方から外国人技能実習生まで~働く人材のダイバーシティも推進~
SDGsやESGにおいては、環境負荷の低減だけでなく、人材の多様性の実現も重要です。
錦明印刷の工場では、高齢者のオペレーターや外国人技能実習生などのさまざまな人材を受け入れる環境を整えています。
「2021年に導入したハイデルベルグ社製『スピードマスターCX104』にはAIによる自動運転技術が搭載されています。従来の印刷機は体力や熟練のスキルが必要な操作がありました。しかし、版交換や品質管理の自動化によってそうしたオペレーションが不要となり、高齢の方や女性でもオペレーターとして従事できるようになったのです。また、当社の工場では3名のフィリピン人技能実習生を受け入れています。今年の6月に以前勤務してくれていた3名は帰国したのですが、その際『フィリピンでは新型コロナウイルスが蔓延して家族が働けない状態だったので、私が仕送りできて家計が助かった』『お給料の一部を毎月仕送りできたことで2人の弟が大学に進学できた』と感謝してもらえて心から嬉しくなりました。わずかではあっても、他国の貧困問題の解決にも貢献できたらと思っています」
「自社のサステナブル」を考えると「地球のサステナブル」につながる
錦明印刷の今後について、そして中堅・中小企業のSDGsへの取り組みについて、塚田社長はどのように考えているのでしょうか。
「さまざまな資源の入手が困難になってきている中で、印刷事業における環境の負荷をどのように低減していくかは非常に大きな課題です。そして、日本はお客様が求める品質がとても高い。そうした品質要求を満たしながら、いかに環境負荷の少ない印刷技術(デジタル印刷)や工程を実現していくかが難しいところですが、紙メディアに替えて動画制作のようなデジタルメディアでのサービスやソリューションを提供することで、少しずつでも環境に配慮した方向に移行しなければなりません。
当社では2013年と比較すると約20%の消費電力を削減できたのですが、今後は自社が使う電力の一部をグリーンエネルギーにできないかと考え、現在は工場屋上への太陽光パネルの設置を検討しています。当社を含めた中堅・中小企業が環境への取り組みを進めていく必要があるのは間違いありませんが、もちろん、自社がサステナブルでなければ地球のサステナブルを考えることはできません。
デカップリングを意識して、現代の技術と資源効率性の観点から自社の従来のビジネスのプロセスを見直し、変化し続ける社会や顧客のニーズに対応していく。そうすることで、事業の持続性を実現しながらSDGsにもつなげていけるのではないかと思います」