街まるごと美術館「丸の内ストリートギャラリー」

街のイメージの一端を担う
「丸の内ストリートギャラリー」は、公共的な空間に作品を置く「パブリックアート」を東京の玄関口である丸の内の街中に展開する試みで、街を散策しながらアート鑑賞を身近に体感できます。2022年にはプロジェクト50周年を迎え、4年ぶりとなる新作の設置や一部作品の入れ替えが行なわれました。
プロジェクト開始当初は4〜5点でしたが徐々に作品数が増え、現在は19点の彫刻が丸の内仲通りを中心に点在しています。坂本さんは「特に2002年の丸ビルのリニューアルがターニングポイントとなった」と言います。丸ビル周辺の開発に伴い、丸の内仲通りの道幅が広がり歩道ができたことから、作品数を増やすことになりました。また、当時オフィス一変通りだった路面低層階に飲食店やブランドショップなどを誘致し、ビジネスに特化した街から多様性のある街へと転換を図る構想があり、近辺のオフィスワーカーだけでなく一般の人々も親しめる空間を作ろうという計画から、設置する彫刻の質が大きく変わっていったと言います。
丸の内は新たな価値を生む「クリエイティビティを向上させる街」を意識しながら街づくりを推進しており、「丸の内ストリートギャラリー」は街のイメージ形成の一端を担いました。
彫刻の森芸術文化財団の坂本さんは「丸の内ストリートギャラリー」の魅力について、「彫刻作品は360度違う角度から楽しめます。ギャラリーなどのホワイトキューブと違い景色や気象状況によって常に変化があるので、どの時間、どの季節に見ても見え方が変わります。作品の周りを歩いている人たちも背景となって、毎日別の景色を見せてくれるので、365日通っても飽きることはありません」と話します。

入れ替えのあるパブリックアート
設置後に作品の入れ替えが定期的に行なわれるパブリックアートの例はほとんどなく、全国的にも珍しい試みです。以前は1年で作品が入れ替えられていましたが、巨大で重量もある彫刻は設置に1ヶ月ほどの時間を要し、撤去の期間も考慮すると、実際に展示ができるのは10ヶ月間程度でした。作品が街に浸透しないという懸念から2年毎に変わり、現在は約3年のスパンで入れ替えが行なわれています。また、当初は彫刻の森芸術文化財団所蔵作品の貸し出しがメインでしたが、通りのイメージやテーマに合わせた新作の制作をアーティストに依頼することも増えました。
2022年6月より開催中の「第43回丸の内ストリートギャラリー」では、舟越桂、中谷ミチコ、H&P.シャギャーン、名和晃平、松尾高弘といった現代アーティストによる新作を含む5点、継続展示作品2点、入れ替え作品12点の計19点の作品が展示されています。齋藤さんは「美術館の中にいるような気持ちで街歩きができる『街まるごと美術館』をテーマに作品を選出しました」と企画時の話を教えてくれました。

50年の歴史が感じられる展示
坂本さんは今回の展示構成について「50周年ということもあり、1960年代から2022年までの50年間の代表作を示す形で展示しています。長期に渡り継続的にやっているからこそ提案できるラインナップです。現在、第一線で活躍する現代彫刻家たちを集めさせていただきました」と語ります。「街づくりはある一定期間に行なわれるので、パブリックアートはその年代に偏っていることが多く、新旧の作品が混在している街は意外とありません。50年前の作品と今の作品が並ぶと、時代を越えてもいいものはいいと思えるはずです」と坂本さんは話します。
齋藤さんは「例えば舟越桂さんは、丸の内ストリートギャラリーのために《私は街を飛ぶ》でブロンズに着彩する新しい試みに挑戦し、楽しんで制作してくださっている様子でした。ほかの新作を制作したアーティストの方々も、50年間継続している歴史があるからこそ丸の内に展示することを楽しみ、前向きに取り組んでくださったと思います」と新作制作時のことを振り返ります。
数年おきに入れ替わる作品を、通りにある店舗で働く人たちも楽しみにしているようで、設置作業中にどのような作品が展示されるのかと質問されることもあるそうです。高さの上限、風の抵抗、テナントとの兼ね合いなど様々なことを考慮しながら調整し、最終的な設置場所が決まります。


継続展示作品は丸の内のシンボル
草間彌生《われは南瓜》は2点ある継続展示作品のひとつです。《われは南瓜》は草間さん初の石彫作品で、丸の内のために2013年につくられました。世界的なアーティストが手がけた作品を、国際的なビジネス街のシンボルとして置いています。
丸の内オアゾ前にある三沢厚彦《Animal 2017-01-B2》は、東京駅丸の内北口から伸びる人通りの多い道沿いに設置されています。坂本さんは「とても大きな作品で人々の目に触れやすく、親しみも湧きやすい。こちらもシンボリックな作品です」と、継続展示した理由を語ります。


管理とメンテナンス
「丸の内ストリートギャラリー」の作品は公共の場にあり常に解放されているため、維持管理は簡単ではありません。通常、パブリックアートの多くは設置後にメンテナンスをされずに展示されがちです。しかし丸の内ストリートギャラリーは、三菱地所の安全対策や対応により、このような屋外展示では珍しいくらいにトラブルが全く起きないと坂本さんは言います。「公共空間ですが、美術館の中のような管理のもとに彫刻作品を展示している、非常に稀有な1.2キロメートルです」

齋藤さんは「三菱地所が管理をしてくださる他に、私どもも月1回作品の定期清掃を行なっています。パブリックアートは環境による汚れや素材の変化により退色しやすいのですが、このような取り組みによって、作品をいつも良い状態で見ていただけています」と話します。落書きやステッカーを放っておくと、別の誰かもそのように作品を扱う悪循環が生まれます。しかし、メンテナンスが行き届いた状態で置かれていると、配慮して鑑賞するようになり、緊張感のある綺麗な状態を保つことができます。

「丸の内ストリートギャラリー」は、東京国際フォーラムで開催されるアートフェア東京、三菱一号館美術館、CADAN有楽町、有楽町ウインドウギャラリーなど、周辺のアート施設とのハブのような役割もしています。また、「OPEN CITY MARUNOUCHI」と連携し、ツアーやワークショップなどのイベントを開催することもあります。齋藤さんは「界隈のアートスポットをコネクトする役割を「丸の内ストリートギャラリー」ができているのであれば、私たちが目的としているところは果たせているのかなと思えます」と話します。
丸の内仲通りは平日の11時から15時、土日祝日は11時から17時までは「アーバンテラス」として歩行者に解放されます。その時間、通りにはテーブルセットが置かれ、キッチンカーもやってくるので、美しい街路樹の下をのんびりと歩き、休憩をしながら鑑賞することもできそうです。夜になるとライトアップされ、日が暮れてからも満喫できる作品もあります。点在する彫刻を探しに、丸の内の街を散策してみてはいかがでしょうか。

第43回丸の内ストリートギャラリー
展示期間:2022年6月~2025年5月(予定)作品展示場所:丸の内仲通り、丸の内オアゾ前、大手町ビル
主催:三菱地所株式会社
監修:公益財団法人彫刻の森芸術文化財団
https://www.marunouchi.com/lp/street_gallery/