"待つ"という無駄な時間をはぶくことで、優しい世界をつくりたい

東京都創業NETインタビュー
株式会社バカン 河野 剛進 氏 

待つという時間をなくしたい

 社名のVACANは英語の「vacant(空)」という意味で、リアルタイムでトイレの混雑状況が分かるサービス「Throne(スローン)」で2016年に起業しました。ありとあらゆる空き状況を可視化して"待つ"をなくせたら、イライラを軽減したり、時間を有効に使えるようになり、世界は少し優しくなると考えており、「いま空いているか1秒でわかる、優しい世界をつくる」ことをミッションに事業を展開しています。

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 もともと僕は日本のトイレが大好きです。日本のトイレはきれいなのに無料で利用できます。海外では公共のトイレも有料だったりしますから、トイレだけ見ても日本は優しい国なんです。日本の素晴らしい文化を知ってほしいという思いもありましたが、僕が起業したのは家族で商業施設に行った時の体験が大きいです。

 家族で商業施設に出かけると楽しいのですが、レストランもトイレも混んでいて、空いているところを探しているうちに子どもがぐずりだしてしまうことがありました。そういう経験が重なると外出が嫌になるんですよね。この無駄な時間を何とかするために「Throne」を開発し、そこから発展してユーザーの利用時間をサイネージに表示して、ユーザーの自主的な退出を促す「VACAN AirKnock(エアノック)」、トイレのサイネージメディア「アンベール」などセンサーとITを使いながら用途を広げています。また空間もトイレから商業施設、百貨店、駅や空港、観光地、ホテルなど多岐に渡っています。

日本に活力を与えるために起業したい

 僕は九州の田舎の出身で、その地域がとても好きですが、とても寂れています。これから日本の人口がさらに減っていくなかで、この地域のような場所がどんどん活力を失い、加速度的に貧困も進んでいくと想像し、起業で貢献できればと思ってきました。

 AppleやGoogleなど世界でも一流の企業が本社を置くシリコンバレーは、大都会ではありません。みんながシリコンバレーに夢をもって集まり、しっかり働いたから活力のある街になりました。日本の田舎が、起業の連鎖で未来をつくったシリコンバレーのようになれば、日本全体が活力をもてるようになるだろうし、僕みたいな普通の人が起業してうまくいったら、「自分も起業できる」と思ってもらえるかもしれないと考えました。

 学生のころから社会人になって10年以内に起業しようと決め、新卒で入社した会社には5年以内に辞めますと伝えていました。そんな僕をおもしろいと思って育ててもらえた。感謝していますし、その会社とは現在事業で連携させてもらっています。

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目線を引き上げてくれる人の存在があってこそ

 起業して最初にやるべきことは、自分のサービスを信用してもらって、周囲の応援や協力を得ることです。そういった観点でいえば、2016年6月にASAC(青山スタートアップアクセラレーションセンター)に採択されたことも意味がありました。同じようなフェーズの起業家とピッチの練習をしたり、課題は何なのかを話し合ったり、企業や金融機関を紹介してもらうといったことを東京都のサポートのもとで行うことができました。特に起業家同士のつながりができたことは自分の財産になっています。

 そうした活動を通して少しずつ認知度が上がり、連携先も増えていくなかで当社にとって転換点になったのは、エンジェル投資家や支援企業などビジネスにおける先輩と出会ったことだと感じています。起業すると企業のフェーズによって課題がどんどん変わっていきます。そうした時に的確なアドバイスをいただける先輩方の存在は心強く、価値があります。日本に活力を与えられるような会社にと志をもって起業しましたが、目の前の仕事や状況に集中しすぎると知らないうちに目線が下がります。先輩方は僕の目線を引き上げてくれる存在です。前向きなフォローや勇気付けなど、信頼できる先輩の存在は企業の成長に不可欠だと感じています。

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Photo: iStock

利便性の追求から安全安心の追求へ

 当社のサービスは利便性の追求から始まりましたが、コロナ禍で安全安心という観点での導入が増えました。2020年8月に宮崎県日南市と協定を締結し、災害発生時に「VACAN」を活用して各避難所の混雑状況をWebサイト上で配信支援することになりましたが、その2週間後に九州に大きな台風が上陸したのです。

 コロナ禍でソーシャルディスタンスを守ろうとして避難所に人数制限がかかり、住民がたらい回しになることが以前から起きていました。有事の時は群集心理が働いて、一つの避難所に大勢の住民が詰めかける。そうなると住民もストレスだし、受け入れる自治体の職員も大変です。しかし「VACAN」を導入したことで分散避難が進み、混乱も起きませんでした。日南市の住民は5万人程度ですがWebサイトに約1万件のアクセスがあったそうです。

 2022年11月から2カ月間、東京都が実施している東京データプラットフォームケーススタディ事業の一環で東京区内のトイレの設備・満室情報を可視化するトイレマップサービスの実証実験を行いました。実証実験につながったのは、2020年9月にPOC Ground Tokyo(東京スタートアップ社会実装促進事業)に採択されたことが後押しになったと思います。実証実験に一定の成果を見ましたが、トイレマップを導入する施設やユーザーに安心感をもって使っていただけたのは、自治体の事業であるというところも大きかったと思います。

 今後も自治体との連携を強化しながら、こうしたサービスの普及を当たり前にして、日本だけでなくグローバルに展開していきたいと考えています。「待つをなくす」プラットフォームを使って人の心に余裕をもたせ、他の人たちにも優しくなれるような世界をつくっていきたいです。

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起業を目指す方へのメッセージ

 以前は、起業を目指す人に相談されたら「起業しよう!」と言っていました。しかし起業すれば苦労もつきまといます。収益が上がらないだけでなく、途中で心が折れてしまって廃業する人も少なくありません。起業はそんなに簡単なものではないと身に染みていますが、それでも起業に価値を感じています。起業への意欲があるならチャレンジしてほしいです。

 僕が苦労しながらも続けていられるのは、想いをもったメンバーや投資家など関わってくださる方々に支えてもらっているからだし、僕自身が強い熱量をもって取り組めることで起業したからです。自分が何に対してなら熱量をもち続けられるのかを見極めてください。

PoC Ground Tokyo

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「東京都スタートアップ社会実装促進事業 (PoC Ground Tokyo)」では、革新的なビジネスアイデアを有し、新たなビジネス領域で大きな成長を志向するスタートアップのニーズに合わせて、仮説検証や社会実装の検証等に向けた実証実験を効果的にサポートします。
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⻘⼭スタートアップアクセラレーションセンター

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5か⽉間のアクセラレーションプログラムを通して、アクセラレーターや先輩起業家、さらには⼤志を持った多くのメンター陣の⽀援を受け、リーディングカンパニーへと成⻑するための機会と場を提供しています。特に⼥性起業家や成⻑産業等、東京都の政策課題に取り組む⽅々や、ソーシャルやものづくり等、ベンチャーキャピタル(VC)が投資しにくいといわれる分野で起業に取り組む創業予定者やスタートアップ企業をメインのターゲットにしています。
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株式会社バカン
河野 剛進  

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東京工業大学大学院修了(MOT)。 2008年株式会社三菱総合研究所で市場リスク管理やアルゴリズミックトレーディングなど金融領域における研究員として勤める。2011年グリー株式会社にて事業戦略・経営管理・新規事業立ち上げ、および米国での財務・会計に従事。ベンチャー企業の経営企画室長やシンガポールでの合弁会社の立ち上げなどに従事後、2016年株式会社バカンを設立。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
株式会社バカン Webサイト
*本記事は、「東京都創業NET」の提供記事です。
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