島酒でつくる、東京のクラフトジン
--まずは「虎ノ門蒸留所」について、どんな場所なのか簡単に教えて下さい。
虎ノ門蒸留所は、2020年に虎ノ門ヒルズに開業した飲食エリア「虎ノ門横丁」内に誕生した、ジンの蒸留所が併設された酒場です。東京五輪を見据えて、観光客、ワーカー、飲食関係者、みなが気軽に集まれる横丁内の広場のような場所をイメージしていて、その真ん中にジンの蒸留所があるといった感じです。東京のローカルな素材を発掘し、ジンとして発信することをコンセプトに掲げ、原酒から水まで、なるべく東京産のものにこだわってジンを造っています。とりわけ、私たちのジンに欠かせないのが島酒です。主に2種類のジンを造っているのですが、定番の「COMMON」には八丈島の酒造、八丈興発の麦焼酎「情け嶋」を、その時期の旬なボタニカルで造る「季節のジン」シリーズには、新島の酒造、新島酒蒸留所の麦焼酎「羽伏浦」をベーススピリッツとして使わせて頂いています。
--島酒のことはどのようにして知ったのですか?
虎ノ門蒸留所の計画が立ち上がり、私が蒸留責任者としてジンを造り始めるにあたって、数ヶ月間ジン造りの修行をさせて頂いたのが岐阜県郡上八幡にある「辰巳蒸留所」です。代表である辰巳祥平さんは、国内はもちろん、世界各国の名だたる酒造りの現場を渡り歩き、"おいしい酒"を熟知している方でもあるのですが、その辰巳さんから「美味しい焼酎が東京にもある」と教えて頂いたことがきっかけです。お恥ずかしいことに、私は長年東京で生活していながら、それまで東京で焼酎が造られていることを知りませんでした。
--初めて島酒を飲んだ時の印象はどうでしたか?
最初に飲んだのは八丈島の「情け嶋」か、新島の「嶋自慢」だったかと思いますが、芋主体の九州の本格焼酎とはまったく違った味わいで、麦麹由来のすっきりと澄んだ飲み心地と香ばしさがとても印象的でした。この焼酎をベースに使えば、他のボタニカルの香りとも調和が取れた面白いジンが造れるのではないかとイメージが膨らみました。本格的に蒸留所が稼動する前に、八丈島まで行って八丈興発の小宮山さんを訪ね、ジンの原料として使わせて頂けないかと直談判したところ、快諾頂きました。新島酒蒸留所の宮原さんのことも紹介してもらい、島酒の作り手さんらとの交流が始まりました。
--実際に島酒を原料にしてジンを作ってみて、手応えはいかがでしたか?
まず、東京のローカルな素材を活かしてジンを造ることを前提として、ジンの味わいの方向性としては2つ大事にしたいことがありました。1つ目が、単一のボタニカル、ラベンダーならラベンダー、金木犀なら金木犀の、香りがしっかりと立ち上がってくること、2つ目が、気軽にレモンサワーのようにソーダ割で食中酒としてグビグビと飲めるジンにしたい、ということだったのですが、結果的に、島酒は自分たちの造りたいジンの原酒にぴったりでした。島酒と出会ったことで、メインボタニカルの香りが引き立ちながら、クリアな清涼感のある、虎ノ門蒸留所らしいジンが生まれました。
--今後の島酒との関わり方は?
「季節のジン」シリーズとして「月桃とパッションフルーツ」というジンを造ったのですが、この時はベーススピリッツに小宮山さんから特別に分けて頂いた「情け嶋」のリキュールを使い、ボタニカルの月桃もパッションフルーツも八丈島産を用いました。これが自分としても自信作で、お客さんにも好評頂きまして。島酒はもちろん、八丈島にも興味を持ってもらえたことがとても嬉しかったです。これからも自分たちのジンを通じて、島酒はもちろん、島の魅力を伝えていけたらいいですね。
一場鉄平
アメリカオレゴン州のポートランド在住時、クラフトな酒造りや小商いカルチャーに影響を受ける。その後、株式会社ウェルカムの事業開発部にて、虎ノ門横丁の企画、プロジェクトマネージャー職に従事。岐阜県郡上八幡のアルケミエ辰巳蒸留所の辰巳祥平さんの元で研修を受け、自身も企画開発案件として関わった虎ノ門蒸留所の蒸留家、事業運営担当者として2020年より活動開始。
東京素材をベースに使用したCOMMONジンと、時季の植物を蒸留した季節のジンシリーズを手掛ける。