Correspondents' Eye on Tokyo:
豪州人特派員が楽しむ「15分都市」での新生活

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 オーストラリア・メルボルン出身のジャーナリスト、ジェームズ・オーテン氏にとって、アジアは常に興味関心の対象だった。現在、ABC(オーストラリア放送協会)の北アジア特派員として東京を拠点に、日本や朝鮮半島に関するニュースを扱いながら、静かな街で安らぎを得ている。
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渋谷のNHK放送センター内にあるABC事務所にて、ジェームズ・オーテン氏。

10年越しの夢を実現

 ラ・トローブ大学で国際関係学を学び、ロイヤルメルボルン工科大学でジャーナリズムの修士を取得。若い頃から海外特派員になることを目標としていたジェームズ・オーテン氏。在学中にオーテン氏は世界を見たいと思うようになり、特にアジアに興味を持つようになった。アジアの地域との関わりや認識を深めることに常に惹かれていたと言う。ABC入社後、東京で働くことを目標に、最初の10年間はオーストラリアの地方でビデオジャーナリストとして経験を積み、アジア各地の支局の面接を受けた後、初めてインドに赴任することになった。

 2年後、東京に赴任するチャンスが訪れた。若いオーテン一家は何の迷いもなく、2022年3月に移住を決めたという。インドと比べて東京の電車は信頼性が高く、そして大気汚染もないことが、一家が移住を決める大きな要因となった。「東京は常に、私がジャーナリストとして一番仕事をしたいと思っていた場所でした」とオーテン氏は言う。「観光で2度来てとても気に入り、ここに住みたいと願った10年来の夢が、ついに本当に叶いました」

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オーストラリアで育ったオーテン氏は、車を必要としない東京の街のアクセスの良さと利便性が嬉しい生活環境の変化だと言う。

15分都市での生活

 東京に移ってからは、安倍晋三元首相の暗殺事件やソウル市のハロウィン圧死事故など、東アジアで最も大きなニュースのいくつかを担当してきた。最初の1年は忙しかったが、今は住まなければ体験できない日常を味わうことに専念しているという。幼い子どもと一緒に品川区上大崎に移り住んだオーテン氏にとって、公園や緑地が近くにあることが住まい探しでのポイントだったという。東京の都心に住んでいながら、近所の裏通りの静けさは、思いがけない嬉しい驚きだった。

 「大通りから離れると、静かな住宅街が広がっていて、不思議な魅力があるんです」とオーテン氏は話す。「具体的に何かは言えないのですが、非常に魅惑的で美しく、リラックスできる何かがあるんです」

 用事を済ませるだけのときでも、東京の便利で落ち着く裏通りを散策することを、東京を訪れるすべての人にお勧めしたいとオーテン氏は言う。

 よちよち歩きの幼児がいると、日々の利便性も重要になるというオーテン氏は、生活必需品の入手のしやすさも評価している。「15分都市という概念があります。これは仕事、教育、医療、公園など、あらゆるものに徒歩や公共交通機関で15分以内にアクセスできるという夢のような話です」とオーテン氏は言う。「そして、子どもの面倒を見ている合間に隙間時間ができたとき、15分都市では外出する際のストレスも少なくなります。東京ですべてが15分以内の移動で手に入るわけではありませんが、多くのものにアクセスできます」

 自動車が日常生活に欠かせない国で育ったオーテン氏にとって、最寄りの駅から徒歩で帰宅する際に食料品を購入できることは、便利で心が穏やかになる劇的な変化をもたらしたという。

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品川区上大崎は郊外の静かな街並み、公共交通機関や生活用品へのアクセスの良、穏やかに暮らせるだとオーテン氏は言う。Photo: Courtesy of James Oaten

今を生きる

 もちろん、東京での生活や仕事に慣れるのに、困難がなかったわけではない。オーテン氏は、ここでの仕事や居住に関わるさまざまなプロセスや手続きに慣れるまで、約半年かかったが、この10年間を東京に住むことを目標に過ごしてきた彼にとって次の目標は、今後3年間の赴任生活を充実させることにある。「今この瞬間をもっと感じながら生きたいと思っています」とオーテン氏は語る。「できる限り東京での生活と日々を味わいたいんです」

 2023年内の予定について、オーテン氏は、現在、東京以外の観光地への日帰り旅行を計画しているという。東京からは日光、鎌倉、箱根などの人気観光地へのアクセスが良く、国内移動が便利なことも、オーテン氏のこの地での生活の質を高めている要因のひとつである。夏を前にして、日帰りで郊外へハイキングに出かけることが多くなったオーテン一家にとって、新幹線は旅行先を決めるうえで重要な役割を担っている。「新幹線はとても楽です」とオーテン氏は話す。「特に子どもがいる場合、移動時間も短く、速く、簡単です」

 東京で12か月の経験を積んだオーテン氏は、東京を訪れる予定のある人たちに、できるだけ多くの時間を過ごすことを勧める。「ここで過ごす時間は、元の予定の2倍の時間に設定してください」と提案している。「都会的な体験を求めるなら、他の都市にあって東京にないものはありません」

 ここでの生活が始まって1年、オーテン氏は日常で目にすることの新鮮さを忘れないように今でも心がけている。「毎日通勤で渋谷のスクランブル交差点を通るのですが、これはすごいことだと自覚するようにしています」とオーテン氏は話す。「今は慣れてきてしまいましたが、いつまでもここに居られるわけではないので、こういった部分を味わう必要があると、自分の体をつねって思い出すようにしています」

ジェームズ・オーテン

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ジェームズ・オーテン氏はABCの北アジア特派員で、日本、韓国、北朝鮮を担当する。オーテン氏はこれまで、メルボルンとダーウィンのABCニュース編集室や、看板の時事番組「7.30 and AM」で、放送およびデジタルジャーナリストとして働いていた。ウォークリー賞のファイナリストであり、ノーザンテリトリー・ジャーナリスト・オブ・ザ・イヤーなど、複数のメディア賞を受賞している。
取材・文/ローラ・ポラッコ
写真/マイク・スミス
翻訳/アミット