Correspondents' Eye on Tokyo:
東京は偉大なスポーツの街    

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 東京というと多くの人が食べ物、ファッションやアートを連想するかもしれないが、ここが素晴らしい歴史あるスポーツの街だという事実は見過ごされがちだ。ジャーナリストのマシュー・ハノン氏が、10年近く前に東京に移ってきた動機の一つも、そこにあった 。
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2019年のラグビー・ワールドカップや東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会など東京で開催された刺激的なスポーツイベントの数々を取材してきたマシュー・ハノン氏。

スポーツの偉大さを感じられる場所

 ハノン氏が日本で暮らし始めたのは約20年前のこと。静岡県で10年間暮らした後に、首都圏に引っ越した。最初は英会話学校で働き、その後は大学で教鞭をとり、さらにそこからジャーナリズムの世界に足を踏み入れた。「変化が欲しかったし、昔から文章を書くのが好きでした。Tokyo Weekender(東京で最も長い歴史を持つ英語のライフスタイル誌)の仕事に応募して、それからジャーナリストとしての仕事が始まりました」と彼は言う。まずは無料で、日本のサッカーに関する記事を書くところからスタートした(イギリス英語の「フットボール」とアメリカ英語の「サッカー」の違いをめぐって大論争になったという)。今ではTokyo Weekenderのシニアエディターとして記事の執筆や著名人へのインタビューを行い、1週間のニュースをまとめて伝える「ニュース・ラウンドアップ」のコーナーを担当、日本についての最新情報を提供している。

 Tokyo Weekenderのシニアエディターを務めていることで、2019年のラグビー・ワールドカップや2021年に開催された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会をはじめとする大規模なスポーツイベントも取材することができた。本来予定されていた時期に東京2020大会を開催できなかったことは東京にとって大きな打撃だったが、「世界のほかのどの都市も、あの困難な局面にあれほど上手く対処することはできなかったでしょう。当時の状況を考えると、大会の運営は見事に、しかも安全に行われました。ボランティアスタッフの強い熱意も感じられ、望み得る最高の大会になりました。彼らは本当にいい仕事をしたと思います」と彼は言う。大会は当初の予定ほど大々的に開催されることはなかったものの、開催都市である東京に暮らす人々に大きな影響をもたらし、新たに加わったスケートボードなどの競技は大きな注目を集めた。「日本の選手が好成績を収めたことで、東京2020大会の後、スケートボードをする人が大幅に増えました。大会がきっかけで人気が高まり、大会前よりもスケートボード場が増えています」とハノン氏は語る。

 東京には、人々が心ゆくまで遊んだり、トレーニングや練習ができる場所がたくさんある。「電車に乗って窓の外を見ると、広々とした空間に大勢の人がいるのが見えます。子どもたちの野球の練習や、日本で人気の高いフットサル、ラグビークラブが活動している姿も目にしますね」とハノン氏は言う。スポーツに対するこうした熱意の背景には、全ての生徒にクラブ活動の機会が提供されていることがあると彼は指摘する。「イギリス、アメリカやオーストラリアと比べると、日本の学校のクラブ活動はより組織化されていて、生徒たちは多ければ週5日も活動し、かなりの練習を積んでいます」と彼は言う。これが熱心なスポーツ文化の精神的土台となっており、大勢の人が人気の高い野球やサッカーなどの近代スポーツから歴史ある相撲に至るまで幅広いスポーツに注目し、親しんでいるのだ。ハノン氏は、海外で暮らす人々や日本を訪れる人々にとって特に相撲は魅力的だとして、「サッカーやラグビーの試合を見るのもいいが、相撲はここでしか見られないものだから」と語った。

東京のスタジアムで生まれる歴史の数々

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2019年ラグビー・ワールドカップのオーストラリア対ウェールズの試合は味の素スタジアムで行われた。Photo: Courtesy of Matthew Hernon

 人々が幅広いスポーツを楽しむことができるようにするためには、それを受け入れる大規模なスタジアムと、そこを訪れる大勢の熱心なファンが必要だが、東京にはそのどちらも揃っている。自身も根っからのスポーツファンであるというハノン氏も「これまでたくさんのスタジアムに足を運んできました」と語る。「東京ドームで野球の試合を観戦したことがありますが、本当に歴史を感じられる場所です。マイク・タイソンがキャリア初の黒星を喫したのが東京ドームでしたし、ほかにも注目を集めた数多くのスポーツイベントやコンサートが東京ドームで行われました。武道館で空手を観戦したこともあります。武道館は1964年の東京オリンピック競技大会で初めて正式競技に加えられた柔道の試合会場として使われ、ビートルズが1966年に来日公演を行った場所でもあります。日本人にとって大切な場所なのです」

 日本に暮らす人々や世界中のスポーツファンにさまざまな共通の記憶として残る瞬間を提供してきた東京のスタジアムだが、その中の一つはハノン氏にとっても忘れられない場所だという。「私の一番の思い出は、味の素スタジアムでラグビー・ワールドカップの観戦をしたことです。本当に素晴らしい体験でした」と彼は言う。東京のスタジアムは実用的なだけでなく美しいところも多く、ハノン氏は1964年の東京大会に向けて建設された国立代々木競技場がその最たる例だと指摘する。「美しい設計で、屋根が素晴らしいと思います。文化的なアイコンで、1972年のミュンヘン・オリンピックのメインスタジアムにも影響を与えました。とても特別な場所です」と彼は言う。各種イベントのアクセスのしやすさや、スタジアムを訪れる人々の全体的な雰囲気も、ハノン氏にとって注目すべき要素だ。「(スタジアムは)とてもリラックスできる雰囲気で、これまでどんな類の敵意も目の当たりにしたことがありません。これはとても珍しいことです」

 東京に暮らす外国人が、近代的なものであれ伝統的なものであれ、この街でスポーツをしたいと考えた場合、何も問題なく温かく迎え入れてもらえるだろうとハノン氏は確信している。「すぐにクラブが見つかりますよ」と彼は言い、「おそらく日本にはほかのどこよりも、多様なスポーツをする機会があるでしょう」と語る。さまざまな武道など、日本の伝統文化を学びたいと考える外国人居住者を「日本は常に歓迎してくれており、クラブに入ると必ず親切にしてくれるのです」と続けた。スポーツは人とのつながりを築く一つの方法であり、ここ東京では都内在住の日本人と親しくなることが目的でも、あるいは都内在住のほかの外国人と知り合うことが目的でも、クラブに入会することでそれが簡単に実現できる。スポーツを通した出会いは文化交流の一つの方法となることが多く、東京在住の日本人と外国人は試合やダンスで絆を深め、スキルを共有し、共に練習し、その後は一緒に街に出掛けて互いに理解を深めていく。

 ハノン氏は「東京の素晴らしいところの一つは、常に驚きがあることだと思います。私はかなり前からこの街で暮らしていますが、それでも常に何か新しいものを発見しています」と語る。スポーツを楽しめる東京の魅力についてまだ未体験の人は、ぜひ今こそ試合を観戦しに出掛け、スポーツに参加し楽しんでみてはどうだろうか。

マシュー・ハノン

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マシュー・ハノン氏は現在、Tokyo Weekenderのシニアエディターを務めるジャーナリスト。メトロポリスやCNN、ジャパン・タイムズなど他の英語の出版物でも記事を執筆した経験を持ち、専門はスポーツ、ニュースと時事問題。
取材・文/ローラ・ポラッコ
写真/ローラ・ポラッコ
翻訳/森美歩