喧騒の中に世界一のジャズが流れる街TOKYO

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ジェームズ・フセイン・キャッチポール

【寄稿】「ジャズ都市」としての東京の魅力とは?四半世紀を東京で過ごし、東京のジャズ案内サイトを運営するジェームズ・フセイン・キャッチポール氏が語る。

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東京都文京区白山にあるジャズ喫茶「映画館」。映画業界から転身した吉田昌弘氏が経営するこの店は、古いフィルム機材と歴史書に囲まれる雑然とした雰囲気が、不思議なゴージャス感を醸し出す。Photo: Philip Arneill / Tokyo Jazz Joints

世界一グルーヴ感のあるジャズタウン、TOKYO

 国内外から東京を訪れる人は、東京にさまざまなイメージを抱いているだろう。渋谷のハイテクな喧騒、銀座の洗練された雰囲気、日暮里の古き良き街並みと商店街、浅草のお寺、新宿の小さなカウンターバー。そして地上と地下を行き交う電車に揺られながら、あちこちで美味しいものを食べる......。東京にはすべてがあり、世界最大の都市で過ごしているという感覚に酔いしれる日々を過ごすことができる。

 しかし、一部の訪問者はまだ知らないだろう。東京にはそこかしこに「ジャズ」があるということを。東京のサウンドトラックは、デパートや駅のアナウンス、レストランや店に入ったときの「いらっしゃいませ!」という歓迎の声だけではない。アメリカ最大の輸出文化でもあるこのジャズこそが東京のサウンドであると言える。そして私は人生の大半を費やして、その東京のジャズを追い求めてきたのだ。

 東京のジャズの歴史は、1920年代後半に78回転のSP盤レコードが海を渡ってやってきたことに端を発する。戦後、アメリカやヨーロッパから輸入されたアルバムは、日本の若いファンの間で熱狂的に支持された。その後、全国的にジャズクラブが増え、1960年代には、アート・ブレイキーやマイルス・デイヴィスといった伝説的なジャズミュージシャンが来日。その日本でのライブを録音したアルバムは世界中で販売されるようになった。

東京をジャズの街たらしめる、ジャズ喫茶

 東京を世界のジャズの中心地たらしめているのは、東京に点在するジャズバー、ライブハウス、ジャズ喫茶の数の多さだ。私自身、首都圏で150以上のジャズスポットを訪れているが、少なくともあと50以上は、これから行きたいリストに入っている。2007年からは、東京のジャズに関する日本語の情報にアクセスできない観光客のために、英語のサイトを作ってこれらの店を紹介するようになった。

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1978年創業のジャズ喫茶「映画館」は、ジャズと映画に満ちている。都内でも数少ない70年代から続く純ジャズ喫茶だ。ニュージーランド出身の映像作家Nick Dwyer氏が「映画館」についての映画を最近撮影したという。Photo: Philip Arneill / Tokyo Jazz Joints

 東京を訪れる人が増えるにつれて、友人や家族、そして多くの読者から、「本当の」東京のジャズの雰囲気を味わうにはどこに行けばいいのか、という問い合わせを受けることが多くなった。そこで私が紹介するのがジャズ喫茶だ。ジャズ喫茶に行けば、あまり知られていない地域や横丁を探索できるうえ、「日本にしかない」タイプのシチュエーションで音楽に浸りながら、リラックスした午後や夜を過ごすことができるのである。

 ジャズ喫茶とは、コーヒーやお酒を飲みながら、高級オーディオでアナログのビンテージジャズアルバムを聴くことができる小さな喫茶店のこと。新宿のような有名な都心部にも、遠く離れた郊外にもある、この狭くて独特の雰囲気を持つ空間は、ジャズの図書館のようなもので、オーナーは長い間廃盤になっていたレコードや、入手困難なレコードを含む膨大なコレクションを持っている。ジャズ喫茶のオーナーの多くは、たとえ英語が不得手でも、音楽に関する百科事典並みの知識と、それについて語る情熱を持っているものだ。

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「映画館」の吉田氏は、店内の音響システムも何年もかけて自分で作ってきた。そのシステムは、国内外のオーディオ雑誌でも紹介されている。Photo: Philip Arneill / Tokyo Jazz Joints

 ジャズ喫茶は、店にいる人と一緒に同じ音楽を楽しみ、自分の好きなアルバムについて店主と語り合える温かい場所。それは、止まることのない現代東京のノンストップな動きの中にあらわれた小さなオアシスのような場所でもある。人と人との交流に満ちたゆっくりと時間が流れる特別な世界なのだ。

 この「ジャズ喫茶」での体験は非常にユニークで、海外から訪れた多くの人々が、東京で見つけたものに触発されて、自分のカフェやバーを開くようになった。ベルリン、ロサンゼルス、ブエノスアイレスほか、日本の「映画館」などのジャズスポットの雰囲気に直接影響を受けた新しいお店がオープンしている。

東京のジャズフェスティバルはニューオリンズにも匹敵する

 しかし、これらのバーやカフェは東京のジャズシーンのほんの一部に過ぎない。東京で開催される野外ジャズフェスティバルに匹敵する数と質を兼ね揃えた場所は、ニューオリンズを除いて世界のどこにもないだろう。北は池袋、西は阿佐ヶ谷、東は錦糸町のすみだジャズフェスティバルまで、東京では夏から秋にかけて10以上の「ジャズストリート」フェスティバルを開催する。無料の野外ステージと、参加するバーやクラブでの有料ライブが混在する「ジャズストリート」は、東京の音楽カレンダーに欠かせないもので、ジャズファンなら見逃せない。阿佐ヶ谷ジャズストリートのように、ジャズの巨匠であるピアニスト、山下洋輔がカルテットを率いて神社の境内で演奏するのを東京以外のどこで聴くことができるだろうか。

 東京のジャズシーンを巡る素晴らしさは、特にジャズに詳しいファンだというわけでなくても、東京という街そのものを知る機会に恵まれることにある。有名な観光地から少し離れて、あまり知られていない地域のジャズスポットを訪れれば、ジャズを楽しむだけでなく、東京のローカルな街を散策することもできる。商店街で個人経営の店をのぞいたり、大衆食堂でそばやうどんを食べたり、細い路地を入って新宿や渋谷、上野といった巨大な中心地から離れた場所で人々の暮らしを見たりすることは、ガイドブックに載る主要な観光スポット以外の街と交流する方法なのだ。巨大都市の光景と音に浸れるこんな散歩は、東京での私の大切な思い出になっている。

 世界最高の音楽であるジャズは、世界最高の都市である東京で生き、繁栄しているのだ。

ジェームズ・フセイン・キャッチポール

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放送作家。音楽ライター。東京のジャズスポットを紹介するサイトを主催している。アメリカ・ニューヨーク出身、1997年から日本在住。
www.tokyojazzsite.com