人類の「移動」に革命を、多国籍な才能で挑むANA発スタートアップ

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 アバターロボットを中核に、人類の移動の可能性を広げるべくチャレンジを続けるスタートアップ、avatarin(アバターイン)。東京を拠点に、13カ国出身の社員が働く「多国籍ベンチャー」だ。その特徴や今後の展望を、CEOと現場の社員に聞いた。
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avatarinのオフィスで、深堀昂CEOとブラジル出身のエンジニア。

ハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディにも

 20234月で、創業4年目を迎えたavatarin。航空会社を傘下に持つANAホールディングスから立ち上げられた初のスタートアップとして、産業界のみならず学術界からも注目を集めている存在だ。

 同社では、アバター(遠隔存在ロボット)「newme(ニューミー)」のインフラを構築することで、誰もが気軽に距離や時間、場所などあらゆる制約を超えて瞬間移動できるようになる新たなライフスタイルの実現を目指している。

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遠隔地にいる相手と円滑なコミュニケーションが可能なアバターロボットのデモンストレーションをする深堀昂CEO。

 世界中の誰もがアバターロボットを利用可能で、あらゆることを遠隔でも実行できる世界をつくる「世界75億人のモビリティ」というビジョンを掲げるavatarin。物理的に人や荷物を移動させる事業を中核とする航空会社の社員から生まれたというユニークな出自も評価を受けている。2021年には、現CEOの深堀昂氏とCOOの梶谷ケビン氏がエアラインを母体としながら、飛行機を使わない新たな移動手段(=アバター)で瞬間移動サービスを創るまでのストーリーが、ハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディとして取り上げられたほどだ。

AIロボティクスだからこそ東京を拠点に

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もともとANAでパイロットの緊急手順などを設計する運航技術業務を担当していた深堀CEO。「人類の移動に伴う課題を解決したい」と意気込みを語る。

 教育、ショッピング、医療・介護、観光、地方創生......アバターロボットが対象とする領域は実に幅広い。「肉体を移動させる方法以外にも、移動の方法はあるのではないか、という問いから始まった会社です。意識、存在感、技能だけをいろんな場所、モノに伝送することによって、人類が飛躍的に進化するんじゃないか、コラボレーションが進むんじゃないかと考えています」と、深堀CEOは語る。「また、AIロボティクスの会社なので、そこに強みのある東京に拠点を構えるのも自然な流れでした」

 そんなアバターインを特徴づけるもう一つのポイントが、「多国籍の人材採用」だ。社員数十名規模のスタートアップだが、20236月時点で13カ国からの人材を集めている。CTOのフェルナンド・チャリス氏もスリランカ出身だ。「できるだけさまざまな国の人を採用したいと考えています。人類の移動の課題を解決するという巨大なゴールに向けて、多様な文化や言語をバックグラウンドにしたトップ人材が集まるようにしたいですね」(深堀CEO)。

多国籍な才能が集結

 2022年の春に来日しアバターインで働いているブラジル出身のエンジニアも、多国籍なこの企業を象徴するひとりだ。「アバターを使った事業モデルがユニークだったので興味を持ちました」。来日時点では日本語をほとんど話せなかったが、不安はなかったという。「日本語が流暢でなくても、大概のことはテクノロジーで解決できますし、なにより人々が親切です。英語の表示も充実していますし、東京はとても国際的な都市だと思います」

 多国籍な社員が働く環境も、「とてもおもしろい」と語る。「異なる国の出身の同僚と働くのは、なんだか大学みたいで楽しいですね。バックグラウンドが全く異なるからこそ、新しいアイデアや解決法が次々と出てきます」

 この4月には、日本政策投資銀行、三菱UFJ銀行を引受先とした第三者割当増資により、総額20億円の資金調達を実施したavatarinANAホールディングスからの出資額と合わせた累計調達額は40億円となった。今後は、「newme」の海外展開や屋外アバターの開発を進めつつ、アバター技術の核となるアバターコア(遠隔存在伝送技術、アバターイン独自開発の通信プロトコルや遠隔AIモジュールなどハード・ソフトウェアを組み合わせた技術の総称)の開発、活用強化を図る。東京を拠点とした多国籍な才能たちが、人類の移動の未来を切り拓いていく。

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「newme」は、遠隔地でのあらゆる体験を実現するアバターロボット。多種多様なコミュニケーションを、ほぼリアルタイムに体験できる。教育や医療、ショッピングはもちろん、海外の視察や技術指導など、さまざまな事業に新たな価値を生み出せる。
取材・文/安藤智彦
写真/殿村誠士