人と自然が調和する、コンパクトシティが誕生
東京メトロ日比谷線の神谷町駅周辺はその昔、「我善坊谷(がぜんぼうだに)」と呼ばれる谷のような地形だった。東西に細長く、高台と谷地が入り組んだ高低差の大きい土地には小規模な木造住宅やビルが密集し、建物の老朽化も進むなど、都市インフラの整備が必要だった。ここにおよそ35年という年月をかけて誕生したのが麻布台ヒルズだ。「コンセプトは"緑に包まれて、人と人をつなぐ広場のような街"です。人々が集う広場を中心に、圧倒的な緑に囲まれた、全く新しい街が生まれました」。広場の総面積は約6,000平方メートル、緑地の総面積は約2.4ヘクタール、高低差を生かした敷地内には水が流れ、約320種類の多様な植栽が広がる。建物を優先し、空いたスペースを緑化するという従来の手法とは逆に、街の中心に広場を据えて、シームレスなランドスケープを計画。その後、3棟の超高層タワーを配置する、新しいアプローチで開発された。
「都市とは人々のさまざまな営みの舞台である、というのが私たちの考え方です。圧倒的な緑に囲まれた、自然と調和した環境が人間らしい暮らしにつながるのです」。起伏に富んだ特殊な地形を生かしながら、いかにモダン・アーバン・ヴィレッジを具現化させるか。ガーデンプラザの建築デザイナーとして抜擢されたのがイギリスのトーマス・ヘザウィック率いるデザインスタジオだ。「ヘザウィック氏には商業施設を有する低層部の建築と空間のデザインを担当してもらいました。低層部の建築に網の目のように施されたネットフレーム構造は、全体に波打ったようなデザインが特徴です。これは坂を上ってきた時、奥にある高層タワーと地面をなだらかに結びつける役目を果たしています。都市と建物を有機的につなぐことを得意とするヘザウィック氏のデザインが、都市とは人の営みの舞台であるという私たちのコンセプトと共鳴して、今までにないユニークな建築となりました」
都市の人々の営みをシームレスにつなぐのが、バラエティ豊かな植栽だ。樹木医の資格を持つ技術顧問によって全国から集められた約320種類の植物は、武蔵野台地の東端に位置するこのエリアに現存した植生をベースにしている。これまで通り抜け不可能だった東西へ抜ける通路は通称・桜麻通りとして整備され、十種の高木が植えられている。春にはエリア全体に配した開花時期の異なる10品種のサクラを楽しみながらの散策もおすすめだという。
3棟のタワーと低層の建物が広場を囲む麻布台ヒルズは東京の魅力を凝縮した、コンパクトシティといえるだろう。また、グリーン&ウェルネスをテーマに、人々が自然と調和しながら、心身ともに健康で豊かに生きることを目指す様々な仕掛けも用意されている。一例をあげると森JPタワーにある会員制のワークスペース「ヒルズハウス麻布台」ではワーカーのために栄養バランスの取れた食事を提供し、「慶應義塾大学予防医療センター」では最新の医療機器によるパーソナライズドドックを整備。いずれも心身の状態を健康に保つための予防医療を促進している。
森ビルはこれまでにアークヒルズや六本木ヒルズにおいて、サントリーホールや森美術館といった世界に誇る文化施設を生み出し、文化の溢れる港区エリアの発展に寄与してきた。麻布台ヒルズでもアートは街の磁力を高める大切な役割を担っている。「街はオープンした時が最も鮮度が高い。一方で、時間と共に深まっていくのが人間同士の触れ合いによる重層的なコミュニティです。麻布台ヒルズには多くのパブリックアートやミュージアムが点在していますが、同時代を生きるアーティストが現代社会で着想を得て創作した作品や展覧会は、街の鮮度を保ち、人々のコミュニケーションのきっかけになるはずです」
インフラ面では再生可能エネルギー電力を100%使用し、脱炭素や資源循環を推進している。生物多様性の保全や省エネルギー、健康寿命の延伸など、現代社会が直面している数々の課題への取り組みも積極的に行う。50年後、100年後を見据えたコンパクトシティがどんな可能性を切り開いていくのか、楽しみに見守りたい。
東京都は、100年先を見据えた"みどりと生きるまちづくり"をコンセプトに、東京の緑を「まもる」「育てる」「活かす」取組を進めています。
都市開発にあわせた都心の緑の創出などを促し、「自然と調和した持続可能な都市」への進化を目指しています。
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/tokyo-greenbiz-advisoryboard
写真提供/森ビル