未来を形づくる。東京で活躍する米国人写真家

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 外国人が東京でビジネスを始めたいと夢を語ったらどう感じるだろうか? 壮大な目標のように思えるかもしれないが、機知と創造力に富む外国人が収益性の高いスモールビジネスを展開し、市場で強い存在感を放っている例は無数にある。ティア・ヘイグッド氏がまさにその一例だ。8年前にトップティアフォトグラフィーを立ち上げて以来、彼女は人気の高いエディトリアルやライフスタイルのポートレート写真家としてニッチな市場を切り開いてきた。ヘイグッド氏がこれまでの歩みを振り返りながら、東京でビジネスを成功させるための見識とヒントを語った。
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トップティアフォトグラフィーのティア・ヘイグッド氏は、写真を撮るとき、被写体に本来の最高の自分を感じさせることができると自負する。代々木公園で撮影。

東京が舞台となるまで

 米ノースカロライナ州シャーロット出身のヘイグッド氏は、家族写真を撮る写真家だった祖母から影響を受けた。13歳のクリスマスに祖父母から初めて一眼レフカメラをもらって大喜びし、高校とカレッジの授業で撮影スキルを磨いた。しかし、将来は写真家ではなく弁護士になると強く決めていた。

 ヘイグッド氏はこの頃に日本との関係も深めていた。17歳の夏を東京で過ごした後、再び来日して神田外語大学の日本語集中プログラムを受講した。2010年にカレッジを卒業した後、ロースクールに出願する前のギャップイヤーを過ごすつもりで日本に戻り、それ以来ずっと日本にいる。

 ヘイグッド氏は当初、英会話スクールの講師として働いていたが、この仕事は日本文化にどっぷり浸りたい人には向かないかもしれないと語る。「英会話講師のセールスポイントは日本以外のあらゆるものを体現することであり、講師はそれによって対価を得る。これはかなりの孤立を感じる可能性があります」とヘイグッド氏は指摘する。その後、私立小学校の教師となり、日本人コミュニティとよりつながる機会を得た。

 4年後、ヘイグッド氏は自分の将来に疑問を持ち始め、写真への興味を軸にしたビジネスを立ち上げるという構想を抱くようになった。生活のためにパートタイムで英語を教え続け、その後は東京の写真スタジオで働きながら、副業として自分のビジネスを拡大させていった。トップティアフォトグラフィーは2016年、正式にローンチした。

成功への確かな基盤を築く

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ヘイグッド氏はこの家族写真(元麻布の氷川神社で撮影)のように、クライアントが最高の自分を表現できるよう手助けしながら、写真撮影が楽しい経験となるよう模索している。

 ヘイグッド氏によれば、健全なビジネス感覚を示すことは極めて重要だ。「日本はリスクを避ける社会であるため、前もって自分が何者であるかを証明しておく必要があります。これは現に有効なビジネス上の慣行です。システムを整え、仕事の流れを堅実にすることで、あなたに対する信頼が徐々に築かれ、人々は友人知人にあなたを薦めるようになるのです」

 弁護士志望だったヘイグッド氏が東京で最初に受けたプロ写真家としての仕事の一つは、偶然にも、法律事務所でのプロフィール撮影だった。この仕事を通じて貴重な経験を積み、人間関係を築き、より大規模でクリエイティブなプロジェクトに携わることができるようになった。

 「国際社会に身を置く人たちは、ここで信頼を得ることがどれほど貴重であるかを本当に理解していないことがあります。日本人はあまり直接的な話し方をしないことが多いので、『私たちはティアとしか仕事をしません』と言われると、それは金ほどの価値があります!」とヘイグッド氏は笑顔で言った。

 東京は国際都市だが、日本語での会話力の価値を決して過小評価してはならない。「私からすると、これは重要です。どんな顧客や状況にも万全の準備をしておきたいからです。日本人だけの空間にいることも多く、その中でうまく対処しなければなりません」とヘイグッド氏は指摘する。

 ヘイグッド氏はまた、同じような業種の外国人との関わりについては、他の誰もが潜在的なライバルであるという考えを一掃する。「ここは東京です! 仕事はいくらでもあります。不足を思うより、豊かな物の見方を持つことが重要です」

 自営業であれば、母国への帰省も容易になる。帰省時に仕事をすることも可能だ。ヘイグッド氏は家族と過ごすため地元シャーロットに1か月間滞在した際、ソーシャルメディア・マーケティングのスキルを生かして、複数のポートレート撮影を行うことができた。

コミュニティを見つけ、つながる

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トップティアフォトグラフィーの「40 Over 40 Experience」シリーズでは、40人の女性にポートレート写真を通じて自分自身を褒め、勇気付ける機会を提供した。写真は日英会議通訳者で、事業も営む鎌田恵美里氏

 スモールビジネスの経営者として成功したヘイグッド氏は、ニッチ化というコンセプト、つまり獲得目標とする顧客層を特定し、それに応じて事業活動を集中させることを強調する。「私にとっての顧客層は、キャリア志向の国際的な女性たちです。それが私を支えてくれたコミュニティであり、私が共鳴し、ストーリーを作りたいと思うコミュニティでもあるのです」

 ヘイグッド氏が特に支えられた団体の一つがFEW (For Empowering Women) Japanで、これは仕事や個人における成長の機会を創り出すことを目指す、英語話者の女性による多国籍団体だ。ヘイグッド氏は、はじめはFEWのビジネス・メンターシップ・プログラムの支援を受け、その後は理事会のメンバーになることで恩返しをしている。最近では、ポートレート撮影を通じて40歳以上の女性にスポットライトを当てるトップティアフォトグラフィーのプロジェクト「40 Over 40 Experience」にFEWのメンバーが参加した。

 ヘイグッド氏は、人脈作りは正しい方法で取り組めば、東京でコミュニティを見つけるために有益だと考える。「多くの人は、人脈作りとは、ただ大勢の人と会って、メールを送り、返信を待つことだと思っています。しかし私は、人脈作りにおいて最も効果的なのは、目の前の相手のために価値を生み出すことだと実感しています。自分自身を売り込むのではなく、『今度あなたのプロジェクトがあるけれど、何か手伝えることはある?』という感じで。それが価値を創造することです」

 ヘイグッド氏にとって、自分と同じ価値観を共有する人々に囲まれることは非常に重要だ。トップティアフォトグラフィーはLGBTQ+(性的少数者)とBIPOC(黒人、先住民、有色人種)に優しい企業であることを誇りにしており、ヘイグッド氏は人脈作りのイベントで「その場の雰囲気を理解」し、一緒に働きたいと思う人々と出会い、つながることを提唱する。

 ヘイグッド氏がいま期待を寄せているのは、写真と物語を通して身体的、精神的トラウマを考察する新プロジェクト「Kintsugi Reclamation」だ。これまでに、がんやドメスティックバイオレンス(DV)、摂食障害、自傷行為などを経験した人が参加し、金色のペイントを施してポートレート撮影に臨んだ。このプロジェクトは、壊れた陶磁器を漆と金粉で修復する伝統技法の金継ぎから着想を得た。ここでは、壊れたものは再生(reclamation)の美しい物語の一部となり得る。

 ヘイグッド氏は、「Kintsugi Reclamation」により、被写体が共感のレンズを通して自分たちの物語の中にもっと深い価値と力を見出すことができるようにと願っている。これは、彼女がすべてのプロジェクトで指針としている価値観だ。「写真を撮るとき、私には、被写体に本来の最高の自分を感じさせる力があると信じています」と語った。

ティア・ヘイグッド

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米国出身の写真家、トップティアフォトグラフィーを経営。これまで日本で携わった企業は200を超える。ビジネス会議の取材から家族写真の撮影まで、エディトリアル写真、顔写真、ライフスタイル写真の撮影スキルをさまざまなプロジェクトに生かしている。「40 Over 40 Experience」や新プロジェクト「Kintsugi Reclamation」など、内省的なストーリーテリングの土台となる個人的なポートレートシリーズを制作。

トップティアフォトグラフィー

https://toptia.com/

取材・文/橘高ルイーズ・ジョージ
写真提供/ティア・ヘイグッド
翻訳/原千晶