東京の川を行く発見の旅
探求心をくすぐるクルージング
東京水辺ラインは、お台場海浜公園、浅草、複合施設のウォーターズ竹芝など、東京の水辺にある数々の人気の観光スポットを結ぶ水上バスである。今回は、両国から葛西臨海公園まで2時間の特別クルーズで、東京のシンボルをいくつも通過しながら隅田川を下り、東京湾に出るコースだった。
両国リバーセンターの待合室は、こすもす号のクルーズに参加する人たちが集まると、わくわくした空気に包まれた。乗客の多くは子ども連れの家族で、乗船が始まると吸い寄せられるように窓側の席に集まっていった。
さまざまな形状や大きさの船舶とともに、近くにある東京国際空港(羽田空港)に着陸する航空機の姿もよく見え、乗客を楽しませた。小さな2人兄弟は窓に張り付いて、家族から借りた携帯電話でひたすら写真を撮っていた。「飛行機や船が好きなんだ。いい写真が撮れたと思うよ」と言う小学3年生の兄。そこに、「見て、トビウオだよ!」と小学1年生の弟も興奮した様子で加わってきた。祖母も、こんなにたくさんの鳥が見られることに驚いていた。
実は、このツアーで出会った「生き物」は、鳥と魚だけではない。
東京港の中核施設
大井コンテナ埠頭に近づくと、この施設が日々いかに大量の貨物を素早く効率的に捌き、東京だけでなく日本全体にとってどれだけ重要な役割を果たしているか、ナビゲーターが説明してくれた。大井コンテナ埠頭は、全長2,354メートル、連続7バースの大水深岸壁を有する、東京港で最大のコンテナ埠頭である。そして、世界中から船舶が訪れる東京港は、外貿コンテナ取扱個数日本一を誇る。このコンテナ埠頭にはいくつかの耐震バースも整備されており、災害が発生しても必要不可欠な物資を国内に搬入できるようになっている。
とりわけ目を引くのは、荷役用の赤と白のガントリークレーンが並んでいる姿である。大井コンテナ埠頭のクレーンは、羽田空港周辺の航空機の運航の妨げにならないよう、使用しない時は上部が折りたためる仕組みになっている。長い首の四足動物に見えることから、通称「キリン」と呼ばれている。
5年生の男の子と母親は、日中の暑さをものともせず、こすもす号の屋上デッキに立って景色を楽しんでいた。2人は、好きなテーマについて調べてまとめるという夏休みの宿題のヒントを得ようとこのツアーに参加したという。
「コンテナやクレーンのことは、少しは知っていたけれど、近くで見るのは初めて。色々な国から船がやってくるなんてすごいね」と男の子。母親は、「この近くで働いているのですが、港がこれだけの仕事をしているなんて知りませんでした。今日は東京の新たな一面を味わっています」と話していた。
巨大な東京ゲートブリッジ
こすもす号は、有名なレインボーブリッジの真下を抜けて、東京港の入り口に架かるもう一つの美しい橋、東京ゲートブリッジに近づいた。2012年に完成したこの橋は、全長2,618メートル。ダイナミックな三角形のトラス構造が特徴である。この形状は非常に安定性がよく、大きな荷重に耐えることができる。トラス部分が、向かい合う2頭の恐竜のように見えるため、この橋は「恐竜橋」という愛称でも親しまれている。こすもす号は、東京ゲートブリッジで向きを変えると、葛西臨海公園の方向に向かった。
東京に長く住んでいるという外国人の乗客は、「水上バスには何年か前、子どもたちがまだ小さかった頃に乗ったことがあります。だから今回はちょっとした懐かしさがありました。前回は東京ゲートブリッジをくぐった記憶がないのですが、素晴らしい橋ですね」と話していた。「遠くの方には東京スカイツリー、反対側には羽田空港に向かって低いところを飛んでいる飛行機が見えて素敵でした」
東京ゲートブリッジは東京水辺ラインの通常のルートには入っていない。夏休み特別クルーズの乗客は、この橋を間近に臨む貴重なチャンスに恵まれたというわけだ。
東京では1964年の東京オリンピックを前に都市開発が急増し、高速道路や新幹線をはじめとする公共交通機関が急速に拡大した。その一方で、東京の河川は汚染が進み、それがそのまま放置された。しかし幸いにもここ数十年で河川の重要性が改めて評価されるようになり、よい変化が生まれている。たとえば、家庭からの下水の処理や工場廃水の管理の徹底により、隅田川はきれいになった。川岸の遊歩道や公園、水辺のダイニングテラスは、東京の住民に川の魅力を再認識させるきっかけになっている。
生まれた時から定年後の現在までずっと東京で暮らしているという乗客の女性は、こうした変化について「私が若い頃には、川に遊びにこようなんて人はいませんでした。今ではみんな綺麗になって、川が産業と観光の舞台になっていて素晴らしいですね」と話す。
クルーズの終点は葛西臨海公園で、ほとんどの乗客はそこから水族園や大観覧車など、家族向けのアトラクション施設に向かった。東京の川が学びやレジャーの場となりつつあり、都市景観の一部として欠かせない存在になっていることを示す例は、今回のような教育的なツアー以外にもまだまだある。