明日を照らす光を放つスタートアップ

 東京都は今年も、アジア最大級のスタートアップカンファレンス、SusHi Tech Tokyo 2025を開催する。3日間のカンファレンスは、持続可能なイノベーションに取り組むスタートアップ企業にアピールとネットワーキングの機会を提供する。東京都はこのイベントを視野に、Tokyo Innovation Base(TIB)にてスタートアップのピッチコンテストであるTIB PITCH Globalを開催した。優勝者には誰もが望むSusHi Tech Tokyo 2025のブース出展権が与えられた。
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TIB PITCH Globalコンテストの審査員と参加者

イノベーションのためにデザインされた空間

 TIBは、急速に発展するスタートアップのエコシステムを支えるため、東京都が最近行った投資のひとつである。TIBは東京のビジネスの中心地、丸の内にあり、世界中のイノベーションの結節点という役割を担う。「世界最高にスタートアップフレンドリーな都市」を目指す東京都の構想の一環として、会員はさまざまなサービスを活用できる。オープンワークスペースのほかに、最新の3Dプリンターなどのテクノロジーも利用可能だ。若手起業家や学生向けのプログラム、外国人向けに英語で対応するワンストップ支援サービス、最近開催されたTIB PITCHのような多数のイベントも実施されている。

 TIB PITCHは過去に8回開催されているが、1月30日のTIB Global Day 2025 winterにおいては初めて英語で実施された。コンテストでは、事前審査により選ばれたスタートアップ企業5社が登壇し、観覧者、報道関係者、7名の審査員の前で自分たちのビジネスを紹介した。

 審査員は、投資、スタートアップ、イノベーション、ビジネス、行政の各分野の専門家で構成され、メンバーは以下の通り。
・シガネール・アーシバルド(投資アナリスト/ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社株式リサーチ担当バイス・プレジデント)
・井出啓介(投資専門家/東京大学エッジキャピタルパートナーズ・パートナー)
・小田嶋アレックス太輔(EDGEof INNOVATION, LLC CEO)
・田坂克郎(シブヤスタートアップス・アドバイザー)
・ファリザ・アビドヴァ(Trusted Corporation共同創業者・CEO)
・梅村里奈(デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社グローバルリレーションズリード)
 主催者の東京都からも1名審査員が参加した。

 しかし、コンテストの結果を決めたのは審査員だけではない。観覧者もQRコードを使って参加するよう呼びかけられ、気に入ったプレゼンテーションに投票することができた。

未来の可能性を広げるアイデア

 参加企業5社は、環境サステナビリティ、医療の進歩、AIの3つの分野にわたる革新的なソリューションを紹介した。 

 最初に登壇したのは、日本とルクセンブルク、英国に拠点を置く化学技術企業のAC Biodeだ。CEOの久保直嗣氏は、廃プラスチックに関して、より循環型の経済を創造するという会社のビジョンを発表した。受賞歴のある同社の化学リサイクル技術、プラスタリストによって、より効率的に低コストでプラスチックを分解・リサイクルできる。もう1社、環境問題に着目したのは、日本企業のクォンタムフラワーズ&フーズである。同社は中性子線育種で植物や微生物の突然変異を誘発し、今日のニーズに合ったスピーディ育種を可能にする。気候変動のため世界の食料生産は不安定な状況にあるが、CEOの菊池伯夫氏は、中性子線育種によって再び安定した生産が可能になると考えている。

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審査員と観覧者にSmart Eye Cameraのプレゼンテーションを行うOUI

 環境問題以外では、2社が医療分野における進歩を発表した。FerroptoCureのCEOである大槻雄士氏は、フェロトーシスを利用した革新的ながん治療法を紹介した。従来の抗がん剤治療は、薬剤抵抗性により効果が得られないことがあるが、それに代わる新たな治療法として有望なものである。また、OUIは使いやすく安価な眼科診療機材を開発している。同社のプレゼンテーションを行ったのは、ウリアナ・モリロワ氏とホアン・アン・ファム・チャン氏の2人のインターンで、Smart Eye Cameraを審査員に紹介し、実演した。

 ロボット・AIの分野では、ドローンとAIを扱う日本企業のエアロセンスが、自社開発のドローンにAIとクラウド技術を合わせ、建設から環境計測まで幅広い産業向けに使いやすいソリューションを提供していることを紹介した。

 質疑応答の時間には各社にさらに踏み込んだ質問が投げかけられた。今回のTIB PITCH Globalの優勝者はAC Biodeに決定し、同社には5月8日から10日まで開催されるSusHi Tech Tokyo 2025にブースを出展する権利が与えられた。

近い未来と遠い未来に備える

 TIB Global Day 2025 winterでは、SusHi Tech Tokyo 2025を念頭に、東京都のグローバルな取組を世界に紹介している。この日のイベントには、SusHi Tech Tokyo 2025の重要性を強調するため、小池百合子都知事が登壇した。小池都知事は、「東京は、ハイテクノロジーにより持続可能な都市を実現するために世界中から人々が集まり、議論し、行動する場所です。東京は、人類にとって重要なこの使命に最大限貢献するよう努めていきます」と述べた。

 さらに小池都知事は、SusHi Tech Tokyoの2本の柱について話した。そのひとつは、「目指す未来の都市像について、オープンに議論すること」、もうひとつは「イノベーションやスタートアップの成長を生み出すこと」である。

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TIBのステージでSusHi Tech Tokyo 2025の価値を強調する小池百合子都知事

 これらの目標を実現するために、SusHi Tech Tokyo 2025はグレードアップする予定だ。その一環として、ブレークスルー・エナジー副社長のアシュリー・グロッシュ氏、株式会社東芝代表取締役社長執行役員CEOの島田太郎氏、UCバークレー・スカイデッキのエグゼクティブディレクターであるキャロライン・ウィネット氏ら世界的に有名なスピーカーを招待する。イベントの規模も拡大され、小池都知事は出展スタートアップ500社、商談件数5,000件、参加者50,000人と、3つの「5」という数字を掲げた。そしてオーディエンスに向かって高らかに「ゴー、ゴー、ゴー!」と呼びかけた。 

東京はグローバルスタートアップハブへと大きく踏み出す

 今年のカンファレンスは、これまで以上に国際色豊かなものになることが期待されている。TIBの Global Dayで講演した宮坂学副知事は、「スタートアップ企業は国内市場に専念して成長することも可能ですが、グローバル市場ははるかに大規模です。スタートアップ企業が国際市場に参入しやすくなるよう、海外のスタートアップ、VC、政府関係者といったステークホルダーにイベントに参加してもらうことは有益であり、このカンファレンスの重要なメリットのひとつです」と語った。これがSusHi Tech Tokyoの主要言語を英語としている理由でもあり、それが国際的な関心を高め、グローバルな会話を促すことにもつながっている。 

 SusHi Tech Tokyoがグローバルなスタートアップのイベントとして始まってからまだ日は浅いが、東京が卓越したスタートアップの中心地として国際舞台で地位を確立するにつれ、イベントも成長し続けることが期待される。宮坂副知事は、「このようなイベントは、時間をかけて勢いを増していきます。ですから私たちは、毎年このイベントを持続させ、成長させていくことに尽力しています。日本のスタートアップや企業の多くは、海外のカンファレンスやイベントに積極的に参加しています。しかし、日本は世界有数の経済大国なのですから、世界のビジネスプロフェッショナルが、東京を必ず訪れるべき場所として認めるようなイベントを確立すべきだと考えています」と述べた。

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Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyoは、最先端のテクノロジー、多彩なアイデアやデジタルノウハウによって、世界共通の都市課題を克服する「持続可能な新しい価値」を生み出す東京発のコンセプトです。
SusHi Tech Tokyo | Sustainable High City Tech Tokyo

取材・文/ローラ・ポラコ
写真/穐吉洋子
翻訳/伊豆原弓