ロボットに人間のような触覚を
ロボットに「感じる力」を教える
ロボットに触覚をもたらす触覚センシングシステムを開発する東京発のスタートアップ、XELA Roboticsにとって、その卵は格好のデモンストレーションだった。人間の手は、壊れやすいもの、滑りやすいもの、柔らかいもの、あるいは初めて触れるものを扱うとき、絶えず力加減を調整している。一方、ロボットは従来、視覚情報とプログラムされた動きに頼ってきたため、条件が変わると対応が難しくなることがある。XELA Robotics最高経営責任者(CEO)であるアレクサンダー・シュミッツ氏は語る。「従来型ロボットは、繊細な操作を非常に苦手としています。ですから物体ごとに個別に事前プログラムしておく必要があるのです」
XELA Roboticsは2018年、早稲田大学からスピンアウトする形で設立された。uSkinセンサーとuAiソフトウェアを組み合わせることで、ロボットが物理的な接触をリアルタイムで検知し、処理することを可能にした。センサーは圧力とせん断力を測定し、ロボットが物体をつかんだり動かしたりする際に、接触の状態がどのように変化するかを把握する助けとなる。「現実世界で適応力を持たせたいなら、フィジカルAIが必要です」とシュミッツ氏は語る。「それこそが、私たちの提供しているものです。私たちはロボットに触覚を与えているのです」
研究室から実社会のロボティクスへ
シュミッツ氏がオーストリアから日本へ渡るきっかけとなったのは、研究だった。英国シェフィールド大学の博士課程で、イタリア工科大学(略称IIT)とのジョイントプログラムの一環として触覚センサーを開発し、2011年に早稲田大学の菅野研究室に博士研究員として着任するため来日した。その後、早稲田大学の准教授となり、ロボティクスと触覚センシングを中心に研究を続けた。「早稲田大学には、ロボティクスの分野で長い歴史があります。特にヒューマノイドロボットではよく知られています。ですが、私にとって特に重要だったのは、触覚センシングの分野でも大きな強みがあったことでした」
研究成果を事業化し、会社として発展させていく上でも、日本は適した環境だった。「アニメや漫画が好きで日本に来る人はたくさんいます。でも、私はロボットのために来ました」とシュミッツ氏は笑顔で話す。
ハードウェア系スタートアップにとって、立地は実現できることを左右する。ロボティクス企業には、メーカー、エンジニア、部品サプライヤー、投資家、そして見込み顧客が必要だ。シュミッツ氏によれば、日本のものづくりの強みと、企業本社が東京に集積していることが、XELA Roboticsが学術研究から実用化へと歩みを進める助けになってきたという。
力強さにとどまらない産業支援
触覚センシングの最も身近な応用先は、既にロボットが広く使われていながら、知覚できる範囲にはなお限界がある産業分野だ。例えば自動車製造では、ロボットがケーブルやワイヤーハーネスを狭い空間に挿入しなければならないことがある。ビジョンシステムは、ロボットを正しい位置まで誘導できるが、わずかなずれでも問題が生じる。触覚があれば、ロボットは自分が正しい位置にいるかどうかを感じ取り、力を加える前に調整できる。「視覚だけでは、わずかなずれが生じることがあります」とシュミッツ氏は説明する。「しかし触覚があれば、正しい位置にいるのか、あるいは少し位置を調整する必要があるのかがわかります」
倉庫の自動化も、もう一つの例だ。フルフィルメントセンター(物流拠点)では、形状、重量、材質がそれぞれ異なる無数の商品を扱っている。箱、ボトル、柔らかいパウチを、すべて同じ方法でつかむことはできない。重さ、硬さ、滑りやすさを検知し、それに基づいてつかみ方をより的確に調整できるロボットであれば、商品を落としたり傷つけたりするリスクを軽減できる。
ロボットに求められる「繊細さ」
ウズラの卵を使ったデモンストレーションは、その価値をわかりやすく示していた。力が弱すぎれば、卵は転がってしまう。強すぎれば、殻が割れる。XELA Roboticsは、シュミッツ氏の同僚たちが折った小さな折り鶴をつかむデモンストレーションも披露した。シュミッツ氏によれば、折り鶴は卵よりもさらに壊れやすいという。将来的には、ロボットが折り紙を折ることも可能になるかもしれないと話す。
その光景は、ロボットによる支援の意味がより広がりつつあることを示していた。ロボットと聞くと、強さ、速さ、パワーアシストを思い浮かべることが多い。XELA Roboticsが重視しているのは、より控えめながら重要な能力、すなわち繊細さである。
農業分野では、触覚センシングが果物の収穫や選別に役立つ可能性がある。カメラは枝に実った果物の位置を特定できるが、照明条件は1日の中で変化し、果物も一つひとつ形、重さ、硬さ、熟度がわずかに異なる。触覚センシングで得た情報を活用すれば、ロボットは果物を傷めないように扱いながら、物理的特性に基づいて選別することもできる。「果物を傷つけてしまうと、誰も買いたがりませんから」とシュミッツ氏は話す。「重さや熟度に応じて果物を選別することもできます。熟度は興味深い要素です。質感の一部だからです」
超高齢社会に向けたロボティクス
この技術が持つ意義は、工場、倉庫、農場にとどまらない。日本では高齢化と労働力不足が進み、自動化に対する期待も変わりつつある。特に、人による支援が不可欠でありながら、人材の確保がますます難しくなっている分野で、その傾向は顕著だ。シュミッツ氏は、触覚センシングをそうした大きな対応策の一部と捉えている。「日本は超高齢社会です。そのため、例えば高齢者介護をはじめ、多くの仕事で人材を見つけることが非常に難しくなっています。この状況に対応するうえで、ロボットは重要な要素の一つになると期待されています」
日常生活や介護の現場では、ロボットは力や精度だけに頼ることはできない。高齢者を支援する機械には、接触を感知し、圧力を調整し、人体や日用品に対して安全に反応することが求められる。触覚センシングで得た情報は、一種の安全への配慮として機能し、ロボットが人により近い場所で働けるようにする。
東京のロボティクス・エコシステムを通じ、さらなる成長へ
XELA Roboticsにとって東京は、研究成果をもとに誕生した場所であるだけではない。さらなる成長を支える拠点でもある。2026年2月、同社はSusHi Tech Globalの支援対象スタートアップに採択された。SusHi Tech Globalは、東京都が実施する取組で、スタートアップに対し、東京の官民ネットワークを通じた幅広い支援を提供している。XELA Roboticsはまた、Forgeにも参加している。Forgeは、東京都のTIB CATAPULTで採択されたイノベーション・クラスターとして、ハードウェアスタートアップに対し、日本のものづくりの強みと企業パートナーを結び付け、試作から概念実証(PoC)を経て、量産化へと進むことを支援している。
XELA Roboticsにとって、こうした支援は実際の事業拡大に直結するものだ。シュミッツ氏によれば、このプログラムを通じて、メーカー、OEM(相手先ブランド製造)パートナー、見込み顧客、投資家との接点づくりが後押しされているという。「生産体制のさらなる拡大につながるメーカーや、OEM企業とのマッチングを支援してもらっています。また、新たな市場を探る概念実証プロジェクトに向けて、見込み顧客との橋渡しもしてくれます」
SusHi Tech Tokyo 2026も、こうした接点を広げる機会となった。シュミッツ氏は、投資家や顧客のほか、XELA Roboticsのセンサーを組み込めるロボットシステムの開発企業など、技術協力に関心を持つ企業とも出会ったという。
人間の手の感覚に近づくフィジカルAI
一見シンプルに見える触覚の背後には、精緻なセンサー構造がある。XELA RoboticsのuSkinセンサーは3軸触覚センシングに対応し、配線を最小限に抑えながら、モデルによっては最大500ヘルツの高速サンプリングレートを実現する。こうした仕様は、実用面で大きな意味を持つ。微細な変化をすばやく検知できる一方、配線を減らすことで、ロボットハンドやグリッパーへの組み込みもしやすくなる。「従来の触覚センサーの多くは、一つのセンサーにつき1本または2本の配線が必要でした。それが1,500本にもなれば、相当な数です。配線は断線しやすく、ロボットハンドの動きも妨げます」とシュミッツ氏は説明する。
感度と実用性を併せ持つこの技術は、シュミッツ氏の長期的な構想にもつながっている。夢のプロジェクトの一つは、触覚センサーを義肢に組み込み、手足を失った人が触れた感覚を取り戻せるよう支援することだ。現時点では、フィジカルAIへの関心が高まる中、同社はパートナー、顧客、投資家との関係拡大に力を入れている。
ロボットはすでに、見ること、計算すること、そして驚くほどの速さで動くことができるようになっているかもしれない。しかし、人間のいる空間で円滑に働くには、感じる力も欠かせない。工場の現場から果樹園、倉庫、そして将来の介護現場まで、XELA Roboticsは、よりやさしい触れ方で世界を扱える機械づくりを後押ししている。
アレクサンダー・シュミッツ
XELA Robotics
https://xelarobotics.jp/![]()
Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyoは、持続可能な都市を最先端のテクノロジーで実現することを目指して、世界中からスタートアップや投資家、大企業、都市、大学などが東京に集まり、未来の都市を構想・実践するグローバルイノベーションカンファレンスです。
SusHi Tech Tokyo | Sustainable High City Tech Tokyo
写真/穐吉洋子
翻訳/田崎桃子