より柔軟に、どこへでも運べる低温保管を

 食品や医薬品など、傷みやすいものを低温に保ち、鮮度を守ることは、国内外の生産者にとって最大の課題の一つだ。多くの地域で低温物流のインフラが整っていないことが、大量の食品ロスを招く一因となっている。オフグリッド運用にも適した小型の移動式冷蔵・冷凍トレーラーが、この状況を変える鍵になるかもしれない。
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コールドストレージ・ジャパン株式会社が展開する革新的な冷蔵・冷凍トレーラーの模型を手にする、同社代表の後藤大悟氏

低温保管の分散化

 コールドストレージ・ジャパン株式会社を創業し、代表を務める後藤大悟氏は、まさに輸送と保管の世界に生まれ育った人物だ。西日本を代表する港湾都市・神戸の出身で、1878年から続く家業の国際物流会社に20年間勤めた。現在はさらに活動の幅を広げ、低温保管のあり方を大きく変えようとしている。

 「今のコールドチェーンは、基本的に巨大な倉庫と各家庭の冷蔵庫だけで成り立っていて、その中間に当たるものがほとんどありません。そこを変えたいんです」と後藤氏は話す。「分散型物流」という構想を思い付いたのは、2016年頃だった。当時の勤務先が関心を示さなかったため、自ら形にしようと決意し、2018年に会社を立ち上げた。

 事業は一基の冷蔵・冷凍コンテナから始まったが、後藤氏はほどなく、コンテナは高価な上に大きく、用途や導入できる場所が限られてしまうことに気付いたという。「従来のコールドチェーンは、大型設備と集中型物流を前提としているため、どうしても柔軟性に欠けます。私たちのColdgrid(コールドグリッド)構想の要となるのは、低温保管設備を小型化して、食品が生産される現場で使えるようにすることです」

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コールドストレージ・ジャパンの移動式トレーラーユニットは、一般的な乗用車でも牽引できる Photo: courtesy of コールドストレージ・ジャパン

 解決策が見つかったのは、2023年に冷蔵・冷凍トレーラーを開発する企業と出会った時だった。製品は現在、2.2メートル型と3.7メートル型の2種類。小型モデルは牽引免許を必要とせず、必要に応じて手軽に移動させることができる。さらに、一般的な冷蔵・冷凍設備では専用の200V電源が必要になるのに対し、このユニットは通常の100Vコンセントで使用できる点も大きな特徴だ。

 車体は小さくても、冷却性能は高い。庫内をマイナス25度に保つことができ、自動車や包装材を手掛ける企業が、凍結環境下での製品や部品の挙動を確認する試験にも活用しているほどだ。

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都内の大型イベントにも登場する、コールドストレージ・ジャパンの移動式トレーラー Photo: courtesy of コールドストレージ・ジャパン

低温保管を、いつでも必要な場所へ

 小型で低い電圧でも使用できる同社のトレーラーは、東京クリスマスマーケットやジャパンモビリティショーをはじめ、都内のイベントですっかりおなじみの存在になった。会場の飲食事業者が、食材や商品の鮮度と安全性を保つために活用している。

 一方、こうした移動式のユニットは、緊急時や、離島・山奥の集落のようにインフラが限られた地域で、命を支える存在となる可能性もある。遠隔操作が可能なため、同社のトレーラーやボックスを設置しておけば、食品を長期にわたって安全に保管し、配送回数を抑えられるほか、道路の通行止めや悪天候の際にも必要な在庫を確保しやすくなる。

 トレーラー型とボックス型のいずれも、太陽光パネルによるオフグリッド運用に対応している。また、搭載されたバッテリーは冷却だけでなく、携帯電話の充電や電子レンジなどの電化製品への給電にも利用できる。「災害や緊急事態に直面した人々に提供する冷凍食を保管することも、考えていた用途の一つです。そうすることで、安全かつ適切に保存された食料を確実に届けられるようになりますから」

 この革新的な技術は、国際連合工業開発機関(UNIDO)からも注目され、同社は「ウクライナのグリーン産業復興プログラム」の参加企業に選ばれた。後藤氏によると、現在オフグリッド型と通常電源型を合わせて4~5基を準備中で、2027年にはウクライナへ輸送し、現地の食品加工・物流インフラの強化を支援する計画だ。今回の導入は、2020年にルワンダでオフグリッド型の冷蔵・冷凍コンテナを設置した経験を生かし、Coldgridシステムが平時と緊急時の双方でどのように機能するかを実地で検証する機会にもなる。

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後藤氏が思い描くのは、低温保管設備がより移動しやすくなり、生産者にとって身近な存在となる世界だ

世界に広がるColdgrid

 後藤氏は現在、勤務時間の半分ほどを東京オフィスで過ごしている。東京はビジネスの重要な拠点であると同時に、SusHi Tech Tokyoのようなイノベーションカンファレンスで新たなつながりを得る機会もあるからだ。後藤氏は同イベントに第1回から参加してきた。「参加者の顔ぶれやレベルが際立っていて、新しい事業につながる可能性が豊富にあります。オフグリッド技術を共同開発している企業と出会ったのも、ここでした」

 自社のトレーラーを会場内に持ち込むことができたSusHi Tech Tokyo 2026は、後藤氏にとってとりわけ印象深いものとなった。「私たちのコンセプトはとてもユニークなので、実物を見てもらわないとなかなか伝わりません。今回は、冷蔵・冷凍トレーラーが実際に稼働する様子をお見せすることができました。来場者の反応も素晴らしかったです!」

 小規模ながら確かな存在感を持つコールドストレージ・ジャパンには、今や世界中から毎週のように問い合わせが届く。「低温保管はあらゆる国で必要とされるものです。現地のパートナーとつながることのできる地域から始めたいと考えています」。すでにインドネシアの企業がユニットをレンタルして試験運用を行っており、次はカンボジアへの展開を計画しているという。

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SusHi Tech Tokyo 2026で好評を博した、コールドストレージ・ジャパンの冷蔵・冷凍トレーラー Photo: courtesy of コールドストレージ・ジャパン

 「私の夢は、これまでの冷蔵・冷凍物流(コールドチェーン)物流を根本から変えることです。生産者が仲介業者を通さず、自ら直接販売できる仕組みをつくりたい。私はそれを『ダイレクトロジスティックス』と呼んでいます」と後藤氏は語る。「農家や漁業者など、地方で生産に携わる人々が生計を立てるのは容易ではありません。私たちの移動式ユニットでは食品の鮮度を長く保てるため、より広い市場に時間をかけて販売できます。これは食品ロスを減らすことにもつながります。また、世界ではコールドチェーンが未整備なため、医薬品が必要な場所に届かないだけでなく、収穫後に品質の劣化等で廃棄されるポストハーベストロスも多く発生しているといわれています。このように、コールドチェーンの変革を通じて世界をよりよい場所にすることが、会社のビジョンとして起業以来大切にしている当社の精神です」

 平時にはコールドチェーンの強化を支え、緊急時にはトレーラー自体を現場に届けられ、食品や医薬品を安全に保管できるようにする。移動式の低温保管設備は、まさに時代が求めるアイデアだ。

後藤大悟

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神戸市出身。家業である国際物流会社で約20年間、現場業務や経理に携わり、国内外の関連会社では役員も務めた。世界のどこでも使える小型の冷蔵・冷凍設備を開発し、物流によって社会課題を解決することを目指して、2018年にコールドストレージ・ジャパンを創業した。

コールドストレージ・ジャパン株式会社

https://cold-storage.jp/

Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyoは、持続可能な都市を最先端のテクノロジーで実現することを目指して、世界中からスタートアップや投資家、大企業、都市、大学などが東京に集まり、未来の都市を構想・実践するグローバルイノベーションカンファレンスです。
SusHi Tech Tokyo | Sustainable High City Tech Tokyo

取材・文/キアラ・テルスオロ
写真/藤島亮
翻訳/馬場 浩昭