Z世代の目に映る東京の現在と未来――座談会レポート(前編)

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 現在大学で学ぶ学生の多くは、「Z世代」と呼ばれるデジタルネイティブ世代である。東京で学ぶ彼ら・彼女らは、コロナ禍の今、何を考え、東京という都市に対してどのような思いを持っているのか。オンラインで語ってもらった。

 今、首都圏で学ぶ大学生(学部学生)の人数は、2624000人――。文部科学省による令和22020)年度「学校基本調査結果」によると、この数は過去最多なのだそうだ。

 歴史的に多くの大学を抱える東京には、たくさんの大学生が暮らしている。そんな今どき大学生のほとんどは1997年以降生まれ(※1)、いわゆる「Z世代」だ。

 今回、東京・三田にキャンパスを構える慶應義塾大学の学部生たちにオンラインで集まってもらい、コロナ禍の東京でどう暮らし、東京という都市に何を期待するのかについて話してもらった。彼らの生の声を紹介したい。

※1:日本貿易振興機構「次世代を担う「ミレニアル世代」「ジェネレーション Z」 -米国における世代(Generations)について-

意外に前向き、行動に規律も

 2020年初頭から新型コロナウイルスが猛威をふるい始めた。2020年春には1回目の緊急事態宣言が政府によって発令され、多くの大学はキャンバスを閉鎖し、オンライン授業へと切り替えた。街中の店舗という店舗の営業活動に制約がかかり、大学生の生活は一変した。

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神奈川県川崎市で育った陣内望さん

 慶應義塾大学法学部4年の陣内望さんの趣味は食べ歩き。「おいしいお店が集まる東京は私にとって最高に楽しい場所なんです」。神奈川県で育った陣内さんにとって、東京はちょっとした冒険ができる"隣町"という感覚らしい。そんな大好きな東京を、今は自由に動き回ることができない。「自分の周りに大きなバリアができたような息苦しさに包まれている」と胸の内を語った。

 20215月現在、就職活動まっただ中にある。コロナによる変化と現実を、できるだけ前向きにとらえるようにしているという。「面接はほとんどがオンラインです。対面の時は雰囲気に飲まれてしまうのですが、オンラインでは落ち着いて自分の考えを先方に伝えられるんです」。

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福岡県出身の荒木美輝さん

 荒木美輝さんはカフェ巡り好きの法学部3年生。自由気ままにカフェ巡りというわけにはいかないが、出かける時には自分なりの行動基準がある。「コロナの安全対策という点ではホテルのような場所のほうが安心できると思っています。なので、どうしてもお茶を飲みに行きたいときはホテルのアフターヌーンティーって決めています」。

 法学部3年生の金子晃奈さんも、「外食するなら、感染防止対策をしっかりやっているレストランを選ぶようにしています」という。失礼な言い方かもしれないが、Z世代は意外と自分の行動についてしっかり考えているようだ。

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サッカーだけでなく、ダンスサークル「Michael Jackson club」にも所属する大澤一仁さん

 法学部3年の大澤一仁さんはサッカー大好きなスポーツマン。大学のダンスサークルにも所属している活動派だ。今もサッカーを続けている。「密集するようなことは自粛するムードがありますが、お互いの距離・スペースを取るよう意識しながらプレイしています」。サッカーは手を使わないので比較的安心感があるというが、ダンスは様子が違うようだ。「メンバー各自が動画を撮ってオンラインで共有するとか、楽しみ方が以前から大きく変わりました」。少しずつ、適応しながら、新しい楽しみ方を見つけている。

 もちろん、すべてがうまくいくわけではない。我慢我慢の毎日という学生もいる。経済学部3年の若松現さんは、遊んでも遊んでも遊びきれない楽しさが東京の魅力だと感じている。友人たちとカラオケに行くのが好きだが、今は自粛せざるを得ない。「コロナ禍で多くのサービス業が営業時間を短縮したので、遊び場が減ってしまいました。東京は本当に楽しい場所だったんだと、今さらながら気づきました」と、残念な思いを噛みしめている。

東京をもっと良くするために、私たちが考え、共有し、行動する

 「街は生き物」という言葉がある。経済状況の変化、都市再開発、環境対策、SDGs(持続可能な開発目標)への対応、さらには住人の考えや行動様式の遷り変わりなどが、都市の在り方に大きな影響を与え、成長したり、ときには傷ついたり、衰えたりする。その意味で、ここに登場した大学生たちは、これからの東京を左右する重要なファクター(要因)でもある。彼らは東京都いう都市にどんな変化を求めるのか、何を期待するのかについても聞いてみた。

 日頃からSNSを利用する陣内さん(法学部4年)は、どうだろう。 「足が痛くなるようなハイヒールやパンプスを強制することはやめてっていうSNSでの運動『#KuToo』が2019年に出てきましたよね。私、それに共感したんです。東京に住んでいたり、東京で働いたりしている人たちが、自分たちの抱えている問題を直視して、声を上げ、多くの人に共有し、行動し、解決していく...。そんな街になることを、私は東京に期待しています」。

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法学部4年生の門谷春輝さん

 東京が世界に対してもっと開かれて、もっと発言が認められる街になっていけたらいい、と話すのは法学部4年生の門谷春輝さんだ。海外生活も経験している門谷さんは、「日本の才能が集まっている東京だからこそ、ここで生まれたものを海外へ積極的に発信していきたい」という。その底流には、そこはかとない危機感があるようだ。

 「日本の大学と米国の大学を比べると、グローバルで仕事をしたい人は米国を選びがちです。オンライン授業がもっと発展・洗練していくことを踏まえると、そうした傾向はコロナ後にさらに強まり、日本の優秀な人たちの頭脳流出が加速してしまうような気がします。そうならないように、みんながこの問題を共有して、どうしたら良いのか考えていくべきです」。

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ファッションフリークの鳩山広起さん

 文学部で図書館・情報学を専攻する鳩山広起さんは、東京に住んでいる人こそ東京の豊富なリソースを活用し、人生がもっと豊かになるような努力をしてはどうだろうか、と提案してくれた。

 「東京に住んでいる私たちは、現在の東京と、自分たちが望む近未来の東京に対して、もっと声を上げていくべきだと思います。ハンナ・アーレント(1906-1975年)という哲学者は、政治に対して自分の意見をもち、集まって話し合うことの重要性を説きました。私は、いつもそのことを考えてしまうんです」。東京出身の鳩山さん。自分のメッセージを発信して東京を良くすることを熱く話してくれた。

 若松さん(経済学部3年)は、自分の世界を拡大するという視点を提供してくれた。「コロナ禍でオンライン化が一気に進んだ結果、東京から動かなくても様々な職業の人たち、世界中の人たちコミュニケーションがとれるようになりました。自分のような学生でも、オンラインならかなりフラットに意見交換できます」。

 ステージは大きく広がる。そこで、何をするのか、どう活かすか、が問われるようになる。 「東京には居ながらにして多くの機会が生まれていきます。僕たちが考えなくてはならないのは、いかに行動するかに尽きるのではないでしょうか。行動を重ねていくと、オンラインでは足りなくなってきてリアルな場所が求められていく。その場所を、東京という都市は提供できると思っています」。

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東京には様々なチャンスがあると語った経済学3年の若松現さん

 大澤さん(法学部3年)は、「東京は居心地の良い場所であってほしい」と言う。東京出身の大澤さんは、変わりゆく東京をずっと目撃してきた。

 「渋谷駅前の再開発を見ていると、これからの東京はもっとキレイになっていくように思います。でも、僕の中にある東京とは、ちょっとズレてきているように思います。僕にとっての東京とは、様々な人に居場所を提供する包容力のある街なんです。喩えが良くないかもしれませんが、ホームレスの人が追い立てられず、居たい場所にいられる----それが僕の好きな東京だったんじゃないかと思うんです。もう一度、かつての在り方を取り戻してほしい」。

 一般的に、東京は安全だ、清潔だ、と言われる。でも、100%満足かと言えばそうでもない。陣内さん(法学部4年)は「東京はもっと安心して住める街になってほしい」と言う。福岡出身の荒木さん(法学部3年)は「もっと綺麗になってほしい」と言う。

 荒木さんの出身地・福岡は美しい街だった。自然と街が溶け合った感じがあったし、川も綺麗だった。東京は違うと感じることがある。「渋谷に大雨が降ると、汚れた水がマンホールから湧き出てくるんです」。汚いものにフタをしているような印象だった。そうしたものをできるだけ早く払拭して、本当に美しい街になってほしい、と東京への期待を話してくれた。

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さいたま市在住の金子晃奈さん

 法学部3年の金子晃奈さんは資格取得を目指して専門予備校にも通っている。「私が住んでいるさいたま市には校舎が1つしかないので選択の余地はありませんが、都内には校舎が多いので都内在住生は自分の都合に合わせて自由に選べます。そうした密だからこその利便性の高さは、東京の魅力だなあと思っています」。

 その一方で、未来の東京は今のままの東京で良いのだろうか、利便性を求めるあまりにあらゆる機能が東京に集中する状況は本当に大丈夫なのか、という疑問もぬぐい切れないという。「地方の過疎化、自然災害による大規模ダメージの恐れなどを考え合わせると、首都の機能分散を真剣に考えたほうが良いと思います」。

多様性の中で生まれ育ったZ世代のポジティブ・パワーが東京を変える

 生まれた時からデジタルテクノロジーに囲まれてきたZ世代。初めて持った携帯電話がスマートフォンということも珍しくない彼らが、オンラインのコミュニケーションの有用性を認めながらも、「物理的な場」としての東京に価値を見出している点は正直驚きだった。

 東京の未来に関して、それぞれの立場で臆することなく、グローバルな視点も持ちながら、自分なりの意見を話す様子に、Z世代のポテンシャルを感じた。皆が同じテレビ番組を同時刻に観て育った古い世代とは違い、それが多様性の中で生まれ育った世代のポジティブ・パワーなのだろう。

後編記事: Z世代の目に映る東京の現在と未来――座談会レポート(後編)




                                                  
                                                    
取材・文/小川フミオ