Z世代が議論した「東京2020オリンピック・パラリンピック」――座談会レポート(後編)

前編記事: Z世代の目に映る東京の現在と未来――座談会レポート(前編)
 都内で学ぶ大学生たちは、コロナ禍のいま、何を考えながら生活しているのだろう。「東京の現在と未来」についてディスカッションした前編に続き、後編では東京オリンピック・パラリンピックをテーマに語り合った。
Z世代が議論した「東京2020オリンピック・パラリンピック」――座談会レポート(後編)
東京都内の大学に通う学生が「東京2020オリンピック・パラリンピック」について語り合った。

 座談会(2021年4月中旬に実施)に参加したのは東京・三田にキャンパスを置く慶應義塾大学の学部生たち。後編となる今回は「東京2020オリンピック・パラリンピック」について議論した。

優先順位を判断する材料がほしい

 「大学生になったらさまざまな経験を通して成長できるよ、と周りから言われてきました。でも、実際はコロナ禍で多くの経験を得る機会が奪われたように感じています。それでも我慢しているのは、感染症対策が大事だと認めているからなんです。だから、優先順位があるとしたら、オリンピックよりも感染症対策のほうが大事だと思います」(法学部4年の門谷春輝さん)

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今はオリンピックよりも感染症対策を優先すべきと語った門谷さんは、「東京が世界に対してもっと開かれていてほしい」と述べていた。

 「成人式も出来なかった私たちがコロナ禍でさまざまなことを我慢しているんだから、感染症対策に説得力がいまひとつないオリンピックだって、ガマンしてもいいのでは?と思うんです」(法学部3年の金子晃奈さん)

 まずは、賛成ではない意見からだが、自分の人生の楽しみを奪われながらも感染症対策にしっかりと向き合っているため、反対というよりも開催するための十分な説得材料を求めている。

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「"いま"から"その先"へと、自分の世界をうまく拡大していくことが大切では」
とも語った若松さん。

 いっぽう、賛成派の意見もあった。「みんなが言ったことの反対になるんだけど、僕の周りには、あるスポーツの強化選手に選ばれて、オリンピックを目指していたため、満足な学生生活を送れなかった友人がいます。彼の人生の目標を考えると、オリンピックはやめよう、とは言いづらいですね」と語る法学部3年の大澤一仁さんや、「オリンピック出場を目指してきたひとたちのために開催したほうがいい」とする経済学部3年の若松現さんもいる。「オリンピックを中止したときの東京、ひいては日本の経済への打撃を考えるべきでは」と語るのは文学部3年の鳩山広起さんだ。

 このように様々な意見が飛び交う中、最後に、自分の意見を発信することの重要性を説く法学部3年の荒木美輝さんの発言がこの座談会の締めとなった。

 「結論を出すのが、すごく難しいと感じています。福岡から上京してきて、コロナ禍前は東京のひとたちがオリンピックにとても期待していた様子を見ていたので、私も楽しみにしていた部分があります。でも、感染症対策への強い呼びかけを聞いていると、このまま開催するのは矛盾が生じるとも感じているんです。東京にいるひとたちはみんな、もっと自分の意見を言うべきだろうと思います」(荒木さん)

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「オリンピックも感染症対策も、自分のこととしてもっと意見を言っていきたい」
と語った荒木さん。

互いに考えをぶつけ合うZ世代

 座談会を終えて担当編集者に感想を聞いてみると、「東京五輪に賛成している学生が複数いることに新鮮な驚きを感じました。報道機関の世論調査やソーシャルメディアのトレンドなどを見ていると、オリンピック反対一色に思えてしまうからです」と語っていた。

 この座談会で見てきたように、スポーツが好きだから、あるいはスポーツで身を立てようとした友人がいたからという理由で五輪を応援するのも、人間らしくてとても良い。個人的な動機によって考えや気持ちが動くことをためらわないのがZ世代の特徴だ、とさえ思った。そうして動いた考えを互いに主張することに躊躇がなかったのも、この座談会を読んでいただければお分かりになっただろう。

 オリンピック・パラリンピックをきっかけに、体を動かすだけでなく頭を働かせ、議論を交わしていくことには大いに意義があるだろう。Z世代が自ら考えを巡らせ、互いの意見をぶつけ合うことで、きっと東京に希望をもたらしてくれるに違いない。

文/小川フミオ