19歳農大生が「草ストロー」ブランドを立ち上げ 「毎日の小さな選択が世界を変える」
ビジネスを通して社会的課題を解決するという考えは大学生にも浸透してきている。大久保さんと同年代で1990年代後半以降に生まれた人たちをZ世代と呼ぶ。特徴として挙げられるのが、デジタルネイティブ、グローバルな視点、社会的課題への関心の高さ、起業家精神などだ。米国の小売業界専門調査会社ファースト・インサイトが2020年1月に発表した調査によると、Z世代の62%が持続可能なブランドの商品を買うことを好むという。日本でも、大学発ベンチャーの数は年々増加しており、経済産業省によると2019年度は前年から288社増え2566社に伸びている。
大久保さんが草ストローの販売を始めたきっかけは大学1年の夏、SNSで友だちがシェアした投稿を見て、日本の一人あたりの使い捨てプラスチックごみの量が世界的に多いことを知ったことからだ。「世界中で脱プラスチックの動きが活発になっていることを調べ、日本も取り組みを進めていかなければならないのではないかと思った」と話す。
ちょうどその頃、3歳上の兄がバックパッカーで訪れたベトナムで草ストローの存在を知り、大久保さんに教えてくれた。それを機に、大久保さんは草ストローを輸入し販売すること決めた。兄と現地で知り合った20代のベトナム人の協力を得て、草ストローを輸入する手続きを進めた。資金は3人で出し合ったという。19歳の行動力の背景には「やろうと思ったことを反対することはなかった」という両親の存在がある。
原料のレピロニアはベトナム・ホーチミン市郊外で有機肥料を使って栽培されたもので、これを乾燥させストローにしている。プラスチックストローに匹敵する強度があり、水分を吸っても柔らかくなることもない。むしろ「水分を含むことで柔軟性が増す。折れにくくなって耐久性が増す」と言う。
草ストローを販売する上で心掛けたのは、製造において日本の衛生基準を徹底すること。現地の製造販売者と認識をすり合わせるのに苦労したと振り返る。安全性を証明するために、日本食品分析センターで衛生規格検査を受けた。ヒ素やホルムアルデヒド、大腸菌群などいずれも検出されなかった。
「植物だけでできていて安心、安全な商品。使用後は家畜の飼料や農業の肥料として使ってもらい、持続可能なサイクルを構築したい。お客さまの中にはペットのうさぎの餌にしたという方もいる」
2020年2月に入って、沖縄から北海道まで持続可能性に配慮して運営されているオーガニックカフェや牧場を併設した店など全国約100店舗にサンプルを送付した。「プラスチックのストローに比べるとコストが上がる。そこをどう納得して採用していただけるか試行錯誤している」と課題を挙げた。
2020年4月初め、横浜港に1万本のストローが届いた。ビジネスを始める責任を実感する瞬間だ。良くも悪くも、今回、コロナ禍で大学の授業の開始が遅れ、販売戦略を練る時間が増えた。インスタグラムやツイッターなどSNSでの発信も積極的に行う。サンプルを使って、購入を決めてくれた店舗数はこれまでに約20店舗。年内には100店舗での導入を目指したい考えだ。
「毎日の何気ない選択の積み重ねが環境問題を生み出している。でも、一人ひとりの意識が少し変わるだけで地球の問題は改善されていくと思う。脱プラスチックの取り組みを通して、持続可能な社会を実現したい」
将来的には草ストロー以外の商品も取り扱うことも視野に入れているという。まずは「農大生という立場を生かし、大学や企業などとコラボレーションする企画も実施していきたい」と力強く語った。
小松 遥香 (Haruka Komatsu)
Sustainable Brands Japan 編集局デスク。アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。