18カ国の子どもが学ぶインド式教育と地元コミュニティとの繋がり | TOKYO Community Vol.2

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 外国人が多く住む東京では、インターナショナルスクールをはじめとする国際的でユニークな教育が数多くみられる。その一例として、インド式・国際的カリキュラムを提供し、STEM教育でも高い評価を得ているGlobal Indian International School(江戸川区)の取組を紹介する。
日常のクラス風景。

 東京には、今や約55万人の外国人が暮らしている。(東京都在留外国人統計、令和3年1月1日現在)。多様な食文化、安全で便利な生活環境など、東京が好まれる理由は多々あるが、子どもを抱えた家族にとっての魅力の一つは、教育の選択肢が多いことだ。小学校を例にとってみても、都内だけで国立6校、私立50校以上、公立は1200校以上、さらには日本在住の外国人の子どもを受け入れるインターナショナルスクールなども100校以上ある。インターナショナルスクールでは、海外の教育カリキュラムを軸としている学校も多く、日本にいながらにして英語や他の言語で質の高い教育を受けることができるとあって、近年では日本人家庭でも選択肢の一つとして注目を浴びている。

「日本にいながらグローバルな教育」という選択肢

 なかでもSTEM教育(科学、技術、工学、数学)で高い評価を得ているのが、インド式・国際的カリキュラムを提供する「Global Indian International School(GIIS)」だ。2002年にシンガポールに創設されたGIISは、2006年に日本でも開校。現在では、7カ国22キャンパスに広がるインターナショナルスクールだ。その日本校は東京・江戸川区にあり、区内の3つのキャンパスで幼児教育であるプリスクールから高等学校まで一貫した教育を行っている。GIISは当初、在京インド人の子どもへ母国の教育を提供するためにスタートしたが、教育の質の高さやカリキュラムの豊富さが評判を呼び、現在では約850人の生徒を抱え、その国籍は18カ国。日本人の生徒も約40%を占めている。日本の教師や教育関係者たちの視察も増えているという。

 マドゥ・カーンナ校長は、シンガポールなどを経て2020年から日本校に赴任。「東京は、歴史と伝統が感じられる文化や街並みと、最先端の近未来が共存する魅力的な都市」と話す。

 同校は、海外の教育カリキュラムを採用するインターナショナルスクールでありながらも、多くの日本の文化を取り入れている。学内での言語は英語だが、日本語の授業はレベル別に実施。俳句や書道なども授業に組み込まれている。学内では、日本の学校を見習って上履きを履き、教室の掃除も生徒たちが行う。カーンナ校長は、「日本の清潔さや礼儀正しさ、勤勉さなどは、とても素晴らしいと思います。日本の学校や文化の良さを子どもたちにも身につけて欲しいです」と話す。また、放課後の課外活動には、インドのダンスや楽器演奏、スポーツなどの他にも囲碁や漫画、空手、折り紙など日本の遊びも用意されているという。

地元コミュニティとのつながりを大事に

 GIISは、地元のコミュニティにも開かれた学校運営を行ってきた。運動会、文化祭、展示会など日本の学校の良さを取り入れてアレンジした行事も行われている。「以前から、学校の行事などに地元の人々を招いたり、地元のお祭りなどのイベントに生徒たちが参加したりと、相互に交流をしてきました。また、日頃から"Think Global, Act Global and Locally(世界規模で考え、世界規模で行動すると共に地元にも貢献する)"ということを学校教育でもとても大事にしています。地元の高齢者施設を訪問したり、必要とする人々へ食糧を提供するなど、ボランティア活動も継続的に行っています。コロナ禍でも、私たちにできることはないだろうかと話し合い、昨年はみんなでマスクを作って地元の病院や高齢者施設に届けました」(カーンナ校長)

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 老人ホームを訪問した際の様子。最近は新型コロナウイルス感染症の影響で行われていないが、学生が定期的に訪問し、歌ったり、折り紙をしたりしてお年寄りとの交流を楽しんでいる。

 GIISでは普段から子どもたちの心身の健康に良い影響を与えるヨガを取り入れている。"Yoga Day(ヨガの日)"という学校イベントの際には、地元の人々にもオンラインでヨガクラスを提供し、一緒に楽しんだという。

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 毎年4月にあるアースデイでも、ヨガの先生と一緒にヨガセッションを行った。

 現在はコロナ禍でストップしているが、これまでには地元の公立校との交換留学プログラムも実施。それぞれの生徒が互いの学校に数日間通い、一緒に授業を受けたり、学校生活を過ごしたりしてきた。生徒たちにとっても国内にいながら互いに異文化体験ができ、そして相互理解にも繋がる貴重な体験になっている。

21世紀を担う子ども達に身につけて欲しいスキル

 GIISでは、インドの教育カリキュラムだけでなく、モンテッソーリ、国際バカロレアプログラム、ケンブリッジプログラムといったカリキュラムを複数提供しているため、世界中の大学などへの進学の選択肢も広がる。「高い学力はもちろんですが、子どもたちに身につけて欲しいのは、不確かな時代を自分の力で切り拓き、社会課題に取り組める21世紀スキルと言われる力です。リーダーシップスキル、起業家精神、創造性、問題解決能力、論理的思考、ITスキルなど、進化する時代にあってもきちんと自分たちで歩み、貢献できる力をつけてもらえるように教育全体に力を入れています」と、カーンナ校長は話す。

 生徒たちは東京のGIISで学んだ後、アメリカ、イギリス、インド、カナダ、オーストラリア、シンガポール、スイスなどの優秀な大学へと飛び立っている。さらに世界に広がるGIISキャンパス間の交換留学も可能だ。
 
 伝統と最先端が共存する街・東京で学びながらも、常に世界とのつながりを実感している子どもたち。多様性もグローバルな教育も、東京では日常の中に存在しているのだ。

取材・文/岩辺みどり、写真/GIIS