東京とロンドン、遠い親戚といえる理由―アンディ・モリス

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 遠く離れた東京とロンドンだが、意外にも共通点が多い。同じ価値観を共有する民主国家の首都であり、互いに古い歴史を持ちながらも、常に最先端の流行を世界に発信している2つの都市の関係を、ロンドン在住のジャーナリストが紐解く。
歴史と流行が共存する都市ロンドンのニュー・ボンド・ストリート 写真:ロイター/アフロ
歴史と流行が共存する都市ロンドンのニュー・ボンド・ストリート 写真:ロイター/アフロ

 ともにお茶を愛する島国であることを考えれば、ロンドンと東京に共通点が多いことは、何ら驚くことではない。それぞれが伝統を重んじながらも、未来への飽くなき探究心を持ち合わせており、心のこもったホスピタリティ、いわゆる「おもてなし」を得意としている。ロンドンでは、我々は英国訛りと英国式のジョークセンス、そして折に触れてのフィッシュアンドチップスで、それを行うのだが。

 どちらの都市を訪れても、トレンドが生まれる瞬間を目の当たりにし、スタイリッシュなストリートウェアや流行の先端をゆく洋服を身にまとった人々が行き交う。そこでは、まさに世界的な文化の原動力を肌で感じることができる場所だ。そして同時に毎日、人々の集団が「アリ塚」に群れるがごとく動き回り、職場では人間関係を精巧に築き、個性と集団行動を両立させながら日常生活を送っている。どのような場面でも卓越性が求められ、勤勉さが常識となっているのも、両都市に共通する点だ。

高層ビルと自然が調和する大都市

 ロンドンは単調で暗く不機嫌、一方で東京はまるで異世界のように限りなく夜が続く街であるという印象を持つ人が多く、それぞれの都市は誤解されることも多い。しかし、実際に訪れた人は、高層ビルと自然界の調和を実感し、印象とのギャップに驚かされる。ロンドンのイチョウ並木やセント・ジェームズの王立公園(1664年にロシア大使から贈られたペリカンが生息しており、今でも観光客に親しまれている)、東京の桜の美しさなど、大都市が大都市たる雰囲気を醸し出す要素としては、四季を彩る自然の存在も忘れてはならない。ロンドンも東京も、季節とともに絶えず進化している。

 2つの都市では「タイムスリップ」さえ可能だ。東京では、何世紀も前に建てられた旅館で目を覚まし、谷中で18世紀から伝わる職人の技を体験し、最後にヨドバシAkibaで最先端のロボット技術を目の当たりにすることができる。一方ロンドンでも、1837年に建てられたホテルで朝食をとり、次に1798年にオープンしたレストランで食事をし、ノッティング・ヒルではロンドンっ子に愛される「わんぱくサンド」を楽しめるだろう。

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東京・台東区にある谷中は、下町情緒が残るスポットとして人気が高い。JR山手線 日暮里駅の徒歩圏にある 写真:Haruyoshi Yamaguchi/アフロ(2015年2月撮影)

新橋のアンティノウス像

 人気スポット以外にも、ロンドンと東京には様々な旅の楽しみがある。ネオン輝く渋谷の街にずっと入り浸ったり、ロンドン西部で一日を過ごしたりしていては、大都市の全容を実感しきれないだろう。どちらの都市でも、探検や目的のない旅こそが一番満足できる過ごし方である。例えば、ロンドンのオックスフォード通り沿いにある105-109番ビルの屋根にちょこんと座るビーバー像(かつて毛皮を使っていた帽子屋の名残)や、東京の新橋にある松岡田村町ビル入口に設置された大理石のアンティノウス像(何と1798年に海底から引き揚げられた2世紀初期の「本物」だ)など、時代を超えて周囲に調和している建築物を、街の至る所で見つけることができるだろう。

 多くの首都で見られるのと同様に、東京とロンドンの繁華街はコロナ禍を乗り越えようとしている。ロンドンにあるデパート・セルフリッジズは、イギリスらしいストリートウェアや高級品の販売だけでなく、スケートボード場や映画館の営業も再開したし、2021年の夏には結婚式場も再開予定だ。1875年に開業したリバティ百貨店は、コロナに負けるなと言わんばかりに、その輝かしくも不遜なセンスと職人への賛美を貫いている。もしこれらの百貨店を訪れる機会があれば、伝統的なエレベーターの美しさなども含め、その魅力を心ゆくまで探索してみると良い。東京においても、おしゃれの発祥地として知られる表参道、上野のHINOYAやSUN-HOUSEなど、訪れるたびに驚きと喜びを感じさせられる様々な場所が、コロナ禍を乗り越えて発展し続けていくことを願うばかりだ。

 ファッションの面では、英国式の厳格な服装マナーはとっくに過去のものになったかもしれないが、時代にとらわれない画期的な精神は、今もなお生きている。かつてハーディ・エイミスが「男は、知性をもって服を買い、注意深く着用し、それを忘れてしまったかのように振る舞うものだ」と英国風スタイルについて語った格言は、現代でも十分に通用する。コロナ禍の影響で誰もがマスクに素顔を隠さざるをえなくなっても、ファッションで個性を発揮したい、輝く姿を表現したいという人々の欲求はむしろ高まり、近いうちに歩道がキャットウォークへと姿を変えるだろう。人間観察には、どちらの街も絶好だ。日常に不満や気だるさを感じても、上野公園を行き交う人々をぼんやり眺めていれば、きっと忘れることができる。

 ロンドンも東京も、並外れた歴史の名残に覆われながらも、それを軽々と見せている点において、訪れる人を満足させる都市であることは間違いない。もしかしたら、初めてロンドンを訪れる人にとっては、東京に比べて穏やかな印象を受けるかもしれないし、逆に初めて日本を訪れるイギリス人旅行者は東京の生活ペースに驚かされるかもしれない。ただ、2つの都市は9500キロ近くの距離を隔てていても、礼儀と尊敬の精神を共有し結びついている。

 最後に、初めてロンドンを訪れる日本人旅行者に注意点を1つ。もし半裸の大柄な男が道で争っているのを見かけても、「ロンドンで相撲が流行りだしたのか」と勘違いしないでほしい。その2人は閉店時間を過ぎたパブから放り出された可能性の方がはるかに高いのだから。

アンディ・モリス(ジャーナリスト)

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 イギリス最大の航空会社ブリティッシュ・エアウェイズで毎月390万人に読まれている機内誌「High Life」で編集長を務めた。それ以前は、コンデナストが世界各国で発行する男性向けライフスタイル誌「GQ」の英国版である「British GQ」に10年間にわたって勤務。その内の4年間はウェブ版の編集長に従事した。現在はフリーランスのジャーナリストとして、女性向けファッション誌「Glamour UK」やフィットネス誌「Men's Health UK」、カルチャー誌「iD online」、テクノロジー誌「WIRED」などに寄稿している。Twitterアカウントは@iamandymorris