シリア難民が日本企業のIT開発。ビジネスでシリアの復興に挑む、日本人起業家の思い
シリアで内戦勃発の発端となった大規模な反政府デモが発生してから、3月で10年が経つ。国外への避難を強いられた難民は600万人以上。国内では、長期化した内戦で崩壊した社会を新型コロナが直撃し、人々の生活は困窮を極めている。
そんななか、遠く離れた日本から仕事の機会を提供することでシリアの人々をエンパワーメントしようという取り組みがある。
ITベンチャーのBonZuttner(ボンズットナー)(東京・渋谷)は、日本国内の企業から請け負ったITシステムの開発を、トルコやレバノンなどで難民として暮らすシリア人ITエンジニアに委託している。
ビジネスを立ち上げた創業者とシリア出身のITエンジニアの思いとは...
「難民支援」、蓋を開けてみたら...
「最初は難民支援をしたいと思っていました。でも蓋を開けてみたら、『支援』なんて言葉が全然そぐわない、すごく優秀な人たちが沢山いたんです」
BonZuttnerの代表取締役 坂下裕基さんがシリアや難民の問題に関心を持ったのは、シリア難民がヨーロッパに押し寄せた2015年のこと。シリア人の男の子の遺体がトルコの浜辺に打ち上げられたニュースに衝撃を受けたのがきっかけだ。
その後、日本で暮らす難民を支援するNPO団体に参加。そこで出会ったのが、高いスキルや経験を持ちながらも、それらを活かせていない難民たちだった。手を差し伸べる対象として見ていた「難民」のイメージが覆った。
「これは、本人たちにとっても、そして社会にとっても、すごく損なことじゃないか」
そんな思いを巡らせるなか、シリア難民と知り合ううちに、彼らのなかにはIT分野で専門教育を受けた人が多いことを知った。
そこから着想を得て、2019年にBonZuttnerを設立。ビジネスという形にこだわったのは、「難民のネガティブ一辺倒なイメージを変えるには、ビジネスで成功するのが一番説得力がある」という考えからだ。日本では高度IT人材不足が叫ばれており、勝算は十分あると見込んだ。
現在は、トルコやレバノンなどに暮らす10人ほどのシリア人ITエンジニアにリモートで仕事を委託している。今後は、若者の失業率が80%を超えるシリア国内での仕事の機会を作ることも予定しているという。
母国シリアの立て直し、日本から
BonZuttnerの立ち上げには、日本で暮らすシリア人も加わった。
そのうちの一人で、シリア出身のマヘル・アル・アヨウビさんは、内戦をきっかけにシリアを離れた一人だ。首都ダマスカスのダマスカス大学でコンピューターサイエンスやプログラミングを学んでいたが、内戦が悪化するにつれて身の危険を感じるようになった。
「すべての都市で数日おきに爆発が起きていて、砲弾もいたるところに落ちていました。戦争中に生き残れるかどうかは、本当に運次第だったのです」 アル・アヨウビさんは当時のことをそう振り返る。
こうした経緯から2013年、トルコに避難。大学の中退も余儀なくされた。日本に暮らす友人の縁で2015年に来日し、英語教師として働きながらオンラインでアメリカの大学を卒業した。少年時代に日本のアニメに親しんでいたこともあり、日本はかねてから憧れの国だったという。
「『シリアにはもはや希望はない』と言う人もいます」とアル・アヨウビさん。シリアには7年以上戻っていないが、現地に残る家族や友人からその惨状を聞く。
しかし「日本からシリアの『立て直し(rebuild)』に貢献したい」と前を向く。
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