Design ThinkingではなくCreative Actionを。|コロナ禍ではとにかく手を動かし、できたプロトタイプを実験的に配信
2019年秋には、ライゾマティクスによるTokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13「Light and Sound Installation "Coded Field" ~光と音が織りなす都市と人々の饗宴~」を増上寺にて開催。いよいよ2020年の五輪へ――という中で、新型コロナウイルスが感染拡大しました。
ライゾマティクスは2020年をいかに過ごしたのか。ファウンダーの1人である真鍋大度さんに、アートとテクノロジーの今後の展望とともに伺いました。
できることを見つけて、手探りで始めた
――2020年初頭より新型コロナウイルス感染症が拡大し、ライゾマティクスの活動にはどのような影響がありましたか?
僕たちは去年、大きなプロジェクトがいくつかありましたが、それが一時的にペンディング状態になりました。状況がどうなるか誰も分からない中で、スタンバイをして、何かあったらいつでも動きだせる状態にしておかないといけない。大きく動くことができない状態が、結構長い間......半年以上続きました。
そういった中で、大学の同級生のムロツヨシ君と一緒にリモート演劇をやったり、結果的にはこんな状況でしかやれないことをやっていました。
――早い時期から、オンラインイベント「Staying TOKYO」を企画、主宰されました。
「Staying TOKYO」を始めたのは、緊急事態宣言が出る直前です。3月の段階で、4月以降のプロジェクトはほとんどキャンセルか延期。そのままやるというのはほぼ無くなり、状況が良くなることも当分は考えにくいな、と。
そうなるとライブもできない。僕たちは特に現場の仕事も多いので、外で会うことができなくなった時に情報発信するとなると、やはりオンラインでの配信になります。
これまで僕たちは、自分たちでプラットフォームを持って発信する、ということはやっていませんでしたが、Twitchの方たちはアメリカ西海岸で作品発表をするといつも来てくれて交流があり、前々からTwitchで何か面白いことをやってほしいという話はありました。
その流れで、ちょっと実験的に配信をやってみようかなと思ったのがきっかけですね。それがどのくらい続くのか、どれくらい反響があるかも分からない中、手探り状態で始めました。
――反響はいかがでしたか?
4月に入った段階って、結構クリエイターの人たちはいろんなことにチャレンジしようとしてたと思うんですよね。ライブがオンライン配信になって、バーチャルになって、いろいろなアイデアや実験が行われていて。
僕たちも同じように実験を。普段だったら、結構完成度の高い状態で本番を迎えるのですが、まだまだ全然作り途中のもの、プロトタイプでも配信を通じてちょっと試してみたり、僕がDJをやって新しいツールを使ってみたり。
本当に突然いろいろなエンタメコンテンツが無くなってしまった状態で、テレビもずっとコロナのことばっかりやっていたので、そういった中で見てくれている人たちを勇気づけられたらいいな、となんとなく思っていました。
需要に応えるだけでなく、新しい何かを
――オンラインコミュニケーションツール「Social Distancing Communication Platform」も発表されましたね。
そうですね。段々Zoomでやり取りするようになって、僕もZoom飲みもやりましたが、やはりバーとかクラブとか、そういう不特定多数の人と一緒に同じ場所で緩やかに飲むのとはちょっと違う。
何かそういうスペースが作れたらいいなと思って、アーティストのKyle Mcdonaldくんと話していたのがきっかけでアイデアを出し、実装はフロウプラトウの制作チームが担当しました。
昔だったらたぶん開発に時間がかかったと思うんですけど、今はいろんなツールがあるので、2週間くらいで最初のアルファバージョンを作りました。
――距離感などが面白いです。
バーとかだと近い人と話して、遠くの人の声が聞こえない。20人とか30人いても、いくつかのグループに分かれていきますよね。そういう状態ができたらいいなと思って。
最初の目的は、会議やオフィスで使うというより、クラブやバーの状態を作り出すということで始めたんですけど、当初想像していたのとは違う使い方もされていて、それも面白いな、と思っています。
――どのような使い方を?
大学のオープンキャンパスですね。僕は教育の現場にもいるんですけど、学生たちがなかなかコミュニケーションを取る機会がない。大学でも使ってもらえるといいな、というのは途中から考えていました。
デジハリ(デジタルハリウッド大学)のオープンキャンパスでは、場所を移動できるところを活かして、例えば○×クイズみたいなので「○だと思ったら左の方に行ってください」とか。そういうゲームも作られていて、なるほどこういう使い方もあるんだと思いました。
――パンデミックから1年が経ち、withコロナ様式での活動を振り返り、それ以前と比べてどのような変化がありましたか?
紅白歌合戦もそうですし、リオ2016大会閉会式東京2020フラッグハンドオーバーセレモニーもそうですけど、ライゾマはコロナの前から生中継の配信で、ARをはじめいろいろな演出を行ってきました。
なので割とすぐに配信にはシフトできて、コロナの状態になったから始めたというより、元々やっていたことがどんどん一般的になっていったと感じています。
でも、そのスピードがすごく早かった。我々としては、もちろんそういう需要や期待に応える意味でやっていましたが、それ以外の新しいことを何かやらないとな、とは思っています。
例えば、ロボットを使ったテレコミュニケーションシステムを作ってみたり、SPOTというBoston Dynamicsのロボットに遠くから乗り移って、コミュニケーションするようなものを作ったり。Zoomの拡張機能を開発したり。
ただ、どうしても実験的なものが多く、本腰を入れてじっくりやるというよりは、とにかく手を動かして、できたプロトタイプを世の中にすぐに出すという状態。ラピッドな短期間の開発が多くなったなと思います。
――「マスクとテクノロジーの融合」といったツールも開発されたとか。
それはライゾマの花井裕也というエンジニアがアイデアを出して、彼を中心に開発しました。彼はライブの現場が戻っても、声をあげて叫ぶことができる状態にはしばらくはならないだろうと予想しています。たぶんそこのフェーズが1番長いだろうと。
だからマスクを着けていることを優位に考えて、マスクにデバイスを付ければ、声も呼吸も取れるし、ささやき声でも解析して音声認識ができる。そういうアイデアです。
エンタメの現場で声は出せないけど、飛沫を飛ばさないようにしながら、声を出す代わりのアクションを起こせるようなツール。
あとは、ライゾマの石橋素が中心となって制作した、自宅でスクリーンを拡張するようなデバイスですね。家でもスクリーンの中の照明装置と同期して、部屋の中がライブ会場になるような。そういうのも作りました。
単純に"配信する"ということももちろんやりましたけど、それ以外に、我々はハードウエアのエンジニアも多いので、映像とかバーチャルということだけじゃなく、実際に新しいハードウエアを開発する、ということもいくつかやっていました。
まだプロトタイプっぽいものばかりで、大量生産までには至っていませんが、何かの形で使っていけるようになればと思っています。
アートの世界においても大きな転換点
――次なるステージに向けて、本年1月末、株式会社ライゾマティクスは株式会社アブストラクトエンジンとなり、社名および組織を変更されました。その中での真鍋さんの役割についてお聞かせください。
株式会社ライゾマティクスでの僕の役割は、新しいことを考えて、実際にそれを作って世の中に届けるということだったかな、と。株式会社アブストラクトエンジンになってもそこは変わらないと思います。
ちょっと経営的な話になってしまいますが、より研究開発ベースの制作などがやりやすくなれば、ということで組織変更しました。
ただ、今後のライゾマティクスの方向性を決めるのは僕と石橋(ライゾマティクス主宰)ですが、テクノロジーの進化や、時代の変化の影響をものすごく受けるジャンルなので、我々が意思決定しても、世の中の変化には敏感に反応していかなくてはならない。自分たちだけでコントロールできないところも大きいとは思いますね。
――今後、アートとテクノロジーはどのように変化していくとお考えでしょうか?
テクノロジーは昔からあって、日常生活の必需品でありプラットフォームでもありました。本当にすごいスピードで日々進化しているなと感じます。
例えばブロックチェーンやビットコインのような暗号通貨は、数学とテクノロジーそのもの。中央集権的な承認などもなく、本当に数学だけで証明ができてしまう世界ですよね。そういったものが、これからたぶんどんどん増えていく。
アートの世界でいうと例えば、どこどこのギャラリーで作品発表したとか、オークションハウスに出したとか、そういう権威的なことで価値がついていたと思いますが、今は違う付加価値の付き方が出てきています。ここは大きな転換点になるかもしれないですね。
――本年3月には東京都現代美術館で、個展『ライゾマティクス_マルティプレックス』が開催されます。どのような思いで取り組んでいらっしゃいますか?
個展は、ライゾマではあまりやっていないので、集大成的なことを期待されるところもあるでしょうし、単発の作品を展示するのとはちょっと意味合いが変わってくるので、展覧会全体でどういうメッセージを作っていくのか考えています。
そういう作業は今まであまりなかったので、新しい試みですね。
今回の展覧会は、僕たちにとっていろいろな挑戦があると思います。言葉ではなく作品を通じて、いろいろなことが証明できたらと考えています。
――最後に、メッセージをお願いします。
メッセージは特にないです(笑)。......けど、いろいろなアクションを起こしているので、ぜひオンラインでもオフラインでもチェックしてもらえると嬉しいです。
真鍋大度(まなべ・だいと)
東京を拠点に活動するアーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJ。2006年Rhizomatiks 設立。身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作品を制作。高解像度、高臨場感といったリッチな表現を目指すのでなく、注意深く観察することにより発見できる現象、身体、プログラミング、コンピュータそのものが持つ本質的な面白さや、アナログとデジタル、リアルとバーチャルの関係性、境界線に着目し、デザイン、アート、エンターテイメントの領域で活動している。