東京の夜景の魅力(後編)―I.C.O.N.代表 石井リーサ明理(照明デザイナー)
最初に挙げるべきは建て替えられた国立競技場。神宮の森の中に包まれるような佇まいを創る、という建築のコンセプトに沿って、ライトアップも木陰の陰影を軒下に映写することで、均一に煌々と輝くという大型スポーツ施設の従来的ライトアップとは一線を画した、新しい境地が試みられたのが特徴です。また、東京の中心で、これまで夜になると巨大な暗闇と化していた皇居外苑の石垣や桜田門などが、ほのかに浮かび上がるようにライトアップされました。これら、いわば東京の夜の「顔」を形成する最新作例が、日本人の美意識の根幹にある優しく自然に寄り添うような「あかり」で演出されたことは、東京だけでなく日本の照明デザイン史に特筆されるべき大きな一歩と言えるでしょう。
さらに、オリンピック種目でもある柔道など日本武道の聖地とも言われる日本武道館も、初めてライトアップされました。特徴的な屋根は、その複雑な形状からこれまで照明することが難しいとされてきましたが、日本が世界に誇るLED技術を駆使した特殊技術によって、昨年から青銅色の翼を広げたような雄姿を夜空に印象的に浮かび上がらせています。東京港に目を向けると、レインボーブリッジは当初のライトアップで使われていた光源をLEDに刷新することで、これまで以上に省エネを促進しました。この橋脚の上には太陽光パネルが設置されており、イルミネーションの電気を賄っています。
また、2012年に開通した当時より、最新技術と手法を組み合わせたことによって国際的にも高い評価を受けた照明デザインが施されている、東京ゲートブリッジとともに、レインボーブリッジは、選手村や競泳会場など東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会でも多用される地区の夜を、美しいレースのように結んでいます。この他にも、東京の原点である水運を象徴する隅田川にかかる白鬚橋・吾妻橋・駒形橋・厩橋・蔵前橋・清洲橋・永代橋・佃大橋・勝鬨橋・築地大橋の10橋が、2020年に向けて「日本の美の継承と東京のダイナミズムによる新たな時空の創造」をコンセプトに全てライトアップで化粧直しされました。個々の橋の個性を引き立てつつも統一感のある景観照明が計画されているのは、都市全体を俯瞰して考えた時に非常に意義深い試みと言えます。
新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言中となる東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会期間中には残念ながら生でこうした光を体験していただくことが難しいかもしれませんが、東京の夜景の魅力を、いつか直に堪能していただければと思います。