東京のダイバーシティー:ロス・ローブリー|TMCトーク Vol.2
皆様、本日はこのような機会をいただき、ありがとうございました。そして、改めて皆様に歓迎の意を表したいと思います。特に今回のオリンピックのために、東京までお越しになった方々に対しては、強くそのように感じています。何より皆様の滞在が楽しくよいものになるよう期待しております。
私自身は東京に住んで40年になりますが、東京は本当に魅力あふれる都市だと考えています。
私が日本に参りましたのは1979年で、成田空港がオープンした年でありました。そして、それから多くの変革が起きましたが、本当に以前とは異なった都市になったと思います。では、どのような変化があったのでしょうか。
その変化というのは、表面的には例えば高層ビルが増えたとか、道路が拡充されてよくなったということがあるかと思います。しかし、やはり根幹にある魂といいますか、都市の中核にあるのは人々の心のありようではないかと考えています。そこで今日選んだテーマとして、多様性が非常に高まってきたということをお話したいと思います。
私が来日した40年前、高校生のときでしたが、当時外国人は、東京はもちろん、日本にもそれほど多くはいませんでした。ですから、私が道を歩いていると、小学生が向こうから叫んできたり、遠目に見てきたりしましたし、ショッピングに行くとお店の店員さんたちも「英語で話すのが嫌だな」というような感じで、私に近寄ろうとしなかった。そういった時代でした。
高校の友人たちも私にいろんなことを聞いてくるわけです。例えば、私の母国オーストラリアについて「電気があるの?」とか「スーパーはある?」とか聞いてくるわけです。これはまさに知識が不足していたから、そういったことを聞いたんだと思います。そこで私もからかって「オーストラリアでは家を出るときにカンガルーを捕まえて、それに乗って学校に行くんだよ」というようなことを言ったものです。
しかし大きな変化があったと思います。例えば、今、私が都内の交差点を歩いていると誰かに肩を叩かれて道を聞かれるようになりました。現在、日本では外国人が280万人ぐらいいるのではないでしょうか。これは人口の2%くらいということになります。この11年間でむしろ日本人の人口は、減少していたということもいえます。
例えば、外国人の居住者が280万人とすると、これは日本の人口で20%にあたり、さらに都庁があるこの新宿区だけを取ってみても、なんと124か国の外国の方がいて、これは人口の12%に相当します。
また、この20年間の東京の人口の伸びが15%だとすると、外国人の人口の伸び率は、70%ということになります。つまり多くの外国人たちが、さらに日本に居住する、あるいは勉強するために来日しているということになります。
今、東京の人口の25%が60歳以上でしょうか。全国でもおそらく20%ということなので、高齢化しているということになります。逆に日本に居住する外国人はそれよりももっと若い世代で、30代40代ということになりますので、若い世代の外国の方が居住しているということになります。
東京が、ダイバーシティにおいて卓越しているということはまだ申し上げることはできませんが、すでにこのようにかなり多様性が増している、高まっていると思います。例えば大久保のあたりでは韓国系の方たちがたくさんいらっしゃいますし、そこには魅力あるコリアタウンがあり、おいしい食事や文化を体験できるので、日本の若い方や高齢の方もそこに来て楽しめるという状況が生まれています。
また西葛西ではインド系の方がたくさんいらして、リトルインディアになっています。高田馬場ではミャンマー系の方が多くてリトルミャンマーになっているというように、こうした東京都内の色々なところで、コミュニティがどんどん生まれてきているということになります。
非常に多様性が高まっており、この国際性、コスモポリタン都市としての特徴が、東京の様々な場所で増強されているということが言えると思います。
国際結婚も増えています。例えば私が知っている限り1964年には4,000組ぐらいだった国際結婚のカップルが、近年では20,000から30,000組になっています。さらにその中で様々な分野において、多様性を掲げて非常に活躍している方がいらっしゃいます。特にスポーツ界のスターとしては、例えば女子プロテニス選手の大坂なおみさん、また女子プロゴルファーの笹生優花さん、それからプロバスケットボール選手の八村塁さん、それから陸上競技選手のデーデー・ブルーノさん、アブデルハキーム・サニブラウンさんといった方が貢献しています。
さらに、地方政府、地方自治体も様々なサポートを展開しています。東京都を例にとってみますと、いろいろな種類の相談窓口が多言語で提供されています。労働相談にしてもそうです。労働相談の場合には11か国の言語で提供されているということで、多くのこの在留外国人、日本に居住する外国人が社会に貢献をすることができるようになっています。
将来的には、今、日本に広がっているダイバーシティ、つまり多様性というのが、これからもますます高まっていくであろうと想定されています。例えば、国土交通省の発表しているデータを見てみると、外国人及び外国由来のコミュニティ、要するに国際結婚したカップルの子どもたちの数が全体の12%になると予測されています。
日本の人口の全体の12%になるということは、基本的にはイタリアやフランスと同じぐらいの水準ということになります。もちろんアメリカの22%には及びませんが、それでもなお非常に多様性に満ちた国へと向かっているということは間違いがなさそうです。
このような形で多様性が高まっていきますが、多様性の高まりというのは、いろいろな課題を経験せずに進められるものではありません。最近もいくつかの事件があり、スキャンダルがあり、紙面をにぎわすことがあったのも、事実です。これはおそらくは、歴史的な背景があるのではないかと思います。日本人というのは往々にして、「我々日本人と外国人」という見方をとりがちです。
しかしながら、いよいよ社会が多様性に満ちた社会に姿を変えようとしているとき、例えば新宿区のように、外国人がどんどん広がっているという状況の中では、この見方はもう通りません。
日本人以外ということを考える場合にも、その中でも種類があるといったことを様々な啓蒙プロセスを通じて教育していかなくてはならないということです。つまり、我々はこれから先、外国人を捉える際に、これまでとは違った見方、異なる表現方法を学んでいかなくてはならないということです。そして当然ながら、多様性の中には、包摂性が必要となってきます。
このような形を作っていくためには、やはり二つの方向性を模索しなくてはなりません。例えばオーストラリアを例にとってみましょう。私の出身国であるオーストラリアはいわゆる「多元的な文化の国」といわれています。私自身も小中学校、オーストラリアで過ごしましたが、ここではたくさんの移民の子どもたちが学校で学んでいます。そうなりますと、オーストラリアの子どもたちも、その移民の子どもたちの言語を学ぶということを、必要とされるわけです。
私も実際にこのある程度の期間、イタリア語とギリシャ語を学びました。だからといって、それぞれの言語に流暢にならなくてはいけないということではないんですが、それでもなお、そういった文化の背景を背負った友人たち、友達、移民たちについて、その文化的な背景を理解する、その術にはなってきたと思います。
それからもう一つ、小学校のプログラムを思い出すんですが、政府主催で、教科書を配るということがありました。その教科書を使って、例えば海外からやってきた移民の家族に対して子どもたちが英語を教えるというカリキュラムがあるのですが、私はレバノンの家族に英語を教えていました。
これは本当に日本でも取り入れていただいたら、とても良いのではないかと思います。例えば東京の新宿区に子どもたちが住んでいるとしましょう。そこに外国の子どもたちが入ってくる。そうすると、その日本人の子どもたちも中国語やベトナム語を学ぶ。同時に今度はその中国人、ベトナム人の家庭に行って、その子どもがその家庭の家族の方々に日本語を教えるというのはどうでしょうか。
私は、この世界でこういった形でダイバーシティがどんどん広がりを見せる中において、日本が現在、そのリーダーとして先頭を走っているということを申し上げるつもりはありません。
しかしながら、そうなる可能性、その芽生えは、見えると言っていいのではないかと思います。東京はそういった形で姿を変えていく可能性、潜在性を持っています。そして私はいつか、東京のダイバーシティというものが、その根幹にインクルージョン、つまり、包摂性を有していると言える日が来ることを願ってやみません。そうなれば、東京はますます魅力ある都市に姿を変えるでしょう。コスモポリタン都市として世界に羽ばたいていくことができるであろうと考えています。
以上です。ご清聴ありがとうございました。