東京の空に新たな交通インフラを。SkyDriveがつくる「空飛ぶクルマ」の未来

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 市民の新たな足として期待される「空飛ぶクルマ」。国内でいち早く有人飛行を成功させたスタートアップSkyDriveに、この新たな交通手段が東京にもたらす未来について聞いた。
2020年夏に行なわれた有人飛行の公開試験の様子。©SkyDrive
2020年夏に行なわれた有人飛行の公開試験の様子。©SkyDrive

 1,400万人以上の人口を抱える東京。日々多くの人が往来するこの都市に、新しい交通手段をもたらそうとしている企業が都内に本社を構えるSkyDriveだ。

 トヨタの若手社員などが次世代のモビリティの開発を目指して設立した有志団体CARTIVATORからスピンアウトするかたちで2018年に創業した同社は、空飛ぶクルマや物流ドローンの開発を手がけている。自動車業界や航空機業界出身の若手からベテランまで経歴もさまざまな80名以上の社員をまとめているのは、まだ誰も成功していない「空飛ぶクルマの実用化」を実現したいという想いだ。

 創業から間もない同社が国内で注目を浴びるようになったのは、2020年8月。1人乗りの機体「SD-03」で、日本で初めてとなる有人飛行の公開試験を成功させたことがきっかけだった。これをはずみに、SkyDriveは2025年頃の事業化に向けて準備を進めている。

SkyDriveによる未来のモビリティのコンセプト画像。©SkyDrive

インフラが要らないモビリティ

 大手からスタートアップまで世界中の企業や研究者が開発を進めている空飛ぶクルマだが、そもそもどのような乗り物を指すのだろう? 空飛ぶ「クルマ」と呼ばれることが多いこの乗り物は実際にはクルマではなく、世界で「eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing、電動垂直離着陸機)」と呼ばれる航空機だ。なお日本の経済産業省と国土交通省が設立した「空の移動革命に向けた官民協議会」 は、空飛ぶクルマの特徴を「電動」で「垂直離着陸」ができることに加え、操縦士を必要としない「自動運転」であると説明している。

 そういった航空機は電動であるゆえに音が小さかったり、垂直で離着陸できるので比較的狭いスペースで乗り降りできたりといった人口密度の高い場所向きのメリットがある。例えば、SkyDriveが「世界最小のエアモビリティ」として開発を目指す空飛ぶクルマは自動車2台分ほどのサイズで、駐車場2台分のスペースがあれば離着陸できることが開発目標だ。

 こうしたメリットもあり、世界各国の都市は渋滞の解消や既存の公共交通機関の穴を埋める手段としてこの技術に期待をかけている。労働人口の減少やインフラの老朽化が進み、さらに災害が多い日本においても、線路や専用道路、滑走路といったインフラの整備を必要とせず、開けた場所が少ない都市でも使える空飛ぶクルマには大きな利点があるだろう。

有人飛行に成功した機体「SD-03」の運転席。©SkyDrive

移動のための時間が減っていく

 空飛ぶクルマの導入に関しては、東京固有のメリットもいくつかあるとSkyDrive社長室PRチームの大石梨紗は言う。「東京は交通インフラが発展していますが、渋滞や満員電車といった移動にまつわる問題はなかなか解消されにくいのが現状です。また、交通機関の運行スケジュールに合わせて移動をしなくてはならないという制約もあります。空を往来する空飛ぶクルマであれば渋滞もなく、満員電車と違ってプライベートな空間なので時間を比較的自由に使えます」

 さらに高齢化が進む日本では、高齢者がひとりで自由に移動する手段が増えることも大きい。「これは空飛ぶクルマに限らず自動運転機能を備えた小型モビリティ全般に言えることですが、運転手を必要としない交通手段は高齢者などの交通弱者を減らすことにもつながります」

 こうした未来を実現すべく、現在同社は2人乗りのモビリティの開発のほか、国土交通省などの規制当局との綿密な話し合いを進め、空のモビリティを開発する他の企業とともに実用化に向けての規制づくりにも参加している。また同社は東京都が都内ベンチャー企業や中小企業などを支援するために始めた「未来を拓くイノベーションTOKYOプロジェクト」にも採択されており、その助成金を使って機体の不具合の検出や不具合を操縦士に伝える機能などの安全性向上のための研究開発や試験も進めているという。

 空飛ぶクルマの開発によって、都市の渋滞や運行スケジュールなどによる時間の制約が減り「移動のための時間が減っていきます」と大石は言う。都市の上空という、いまだかつて活用されたことのないまっさらな空きスペースが市民に解放されたとき、私たちの暮らしがどれほど便利になるかははかりしれない。

取材・文/川鍋明日香