環境配慮型オフィスビル、東京スクエアガーデンが挑戦する「廃プラスチック再資源化」

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「廃プラスチック再資源化」の検証実験から見えてきた、企業や私たちが向き合うべき今後の課題と、サステナビリティの受け止め方を考える。
京橋にある環境配慮型オフィスビル「東京スクエアガーデン」。

 私たちは今、「気候変動」の問題に直面していて、この危機を解決するために国をはじめ、多くの人々が意識するようになっている。とくに、気候変動と関連するものとして、私たちが目にしたり、普段から利用したりしている身近なものが「プラスチック」だろう。

 日本では、政府による「プラスチック資源循環戦略」が発表され、2030年までにプラスチックの再生利用(再生素材の利用)を倍増すること、また、2035年までに使用済プラスチックを100%有効利用することがマイルストーンとなった。そして東京都では、気温上昇を1.5℃に抑えることを追求し、2050年までに世界のCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現を目指すため、プラスチック削減に対する施策や取り組みなどが進められている。

オフィスビルを実証実験の場に

 こうしたなかで、企業として「廃プラスチック再資源化」に取り組んでいるのが、不動産会社の東京建物と、環境配慮型の素材開発から循環までを推進するベンチャー企業のTBMだ。両社は、東京建物が保有・管理する環境配慮型オフィスビル「東京スクエアガーデン」において、オフィスより排出される使用済みプラスチックを回収し、自動選別装置で選別された資源プラスチックを用いたマテリアルリサイクル(再資源化)の実証実験を2021年3月から5月末にかけて実施した。

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プラスチックの資源循環スキームを構築。

 東京建物のビル営業グループ(ビルマネジメント第一部)、課長の猪俣章信氏はこの取り組みについて、「この実証実験によって、東京建物が保有する首都圏の他のオフィスビルでもTBMと一緒にリサイクル活動を進められないか、という段階まできました」と話す。「メリットとしてはまず、オフィスから取れたペレット(プラスチックを粒状にしたもの)の強度が通常のリサイクル材と同等以上あったので、リサイクルとしては問題ありません。次に、あくまで現状においてですが、東京スクエアガーデンで処分するときのコストに関しても追加で発生せず、そしてCO2の削減効果のアップにもつながります」と続けた。ただ、今後の検討課題として、既存の回収業者各社からマテリアルリサイクルへのシフトに対して了承を得られるか、また、マテリアルリサイクルが増えていく場合、コストが維持できるかなど考えていく必要があるという。

 TBMの経営企画本部(サーキュラー・エコノミー推進統括)、マネージャーの杉山琢哉氏は、この取り組みについて次のように話す。「今までサーマルリサイクル(廃棄物の処理の際に発生する熱を、エネルギーとして回収して利用すること)が主流だったことには理由があるため、マテリアルリサイクルに変えるというのは、技術的にも経済的にもハードルが上がるのは確かです。そのなかで、今回の取り組みは、一般的なリサイクル業界からみると常識外でしょう。それは、単一素材でリサイクルしやすいものをしたほうが、確実に容易だからです。しかし、私たちはベンチャーだからこそ、果敢に新しいことに挑戦している。そして、その新しい取り組みを一緒にチャレンジできたのが、東京建物だったのです。リスクを負ってやっていくのはかなり大変ですから、東京建物は業界の中でも先駆的な存在だと感じています」

SDGs活動の事例をつくることの重要性

 また、東京スクエアガーデンには、SDGs活動の情報発信拠点である「シティラボ東京」を構えている。さらに、2019年に「シティラボ東京」を拠点として、サステナブルな社会の創造とビジネスの成長の実現を目的とする、TBM他5社で組成されたサステナビリティ特化型ベンチャーコミュニティ「City Lab Ventures」が発足した。ここでは、ベンチャー企業の共通課題でもある人材採用や資金調達に関する共同イベントを始め、自治体や金融機関などとの対話イベントや、さらには大企業・金融機関・ベンチャーキャピタル・行政・大学・研究機関などとのコラボレーションによる事業創出プログラムなどを実施している。

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東京スクエアガーデン内にある、シティラボ東京。

 猪俣氏は「City Lab Venturesは、TBMのサステナビリティ・アクセラレーターという肩書を持つ方との出会いがきっかけで始まったプロジェクトです。サステナビリティを事業の軸に置くベンチャー企業の横連携を進めており、去年くらいから具体的なコラボレーションがうまれるようになりましたね」と話す。CityLabVenturesはパートナーをただ増やしていくのではなく、具体的な協業事例を創出することを目的に、コミュニティの拡大を図っていきたいという。

サステナビリティをどう受け止めるか

 ところで、私たちがここ1年でよく聞くようになった「SDGs」(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)について、一般の消費者にとっては実際、どのように効果が出ているのかなどというのが見えないことが多い。環境問題について理解を深めてもらうには、どのようにしたらいいのだろうか。

「まさに、その疑問に対しての答えが、CityLabVenturesと東京建物との取り組みで目指している部分ではあります。トレーサビリティ(商品の生産から消費までの過程を追跡すること)がある形で、本来廃棄されるものが製品に生まれ変わり、一般の消費者や従業員が手に取れるよう、分かりやすい形になって還ってきている、というのが意識を変えていくポイントかなと思います。たとえば、今まではゴミを出してもどこでどう変わっているかわからなかったけれど、その出していたゴミがゴミ袋に変わり、従業員が使用できるものになって戻ってくる。つまり、クローズドループ(「廃棄」されていた製品や原材料などを新たな「資源」と捉えて、循環させること)により、おのずとプラスチックごみがリサイクルされていると思うと、排出する意識が変わってくる機会になると考えています」と、TBMの杉山氏は話す。

 また、東京建物の猪俣氏は「SDGsやサステナビリティは地球規模で語られることが多いですが、その実現には個々人が『自分ごと化』することが鍵だと思っています。それは、企業においても同様だと思います。自分が勤める会社の事業、もしくは担当する仕事に関連する、たとえば自分のプロジェクトにどう落ちてくるかなど、ワーカー自身が理解できると意識も高まるのではないでしょうか。抽象的な概論ではなく具体例をつくっていく、そういう作業が必要なのではと思います」と述べる。

 オフィスビルを実証実験の場にすることで、新たに見えてきた環境問題の解決に向けた課題。行政や企業、そして私たち一人一人の意識が社会を変え、その理解を深めるために問題を生活に落とし込む「アプローチ」を考えていく必要があるだろう。

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(左から)TBMの杉山氏と、東京建物の猪俣氏。
取材・文/福津くるみ